異世界転移の覇王譚

夜月空羽

06 クデタの街

魔窟ダンジョンから地上へ転移した影士とエルギナの二人はクデタの街に足を踏み入れた。
街中はそれなりの活気があり、露店も結構ある。客引きの声や白熱した交渉の喧騒が聞こえてくる。メインストリートを歩きながら時折周囲の視線が二人、というより美女であるエルギナに集まるも二人は周囲の視線を無視スルーしてまずは目的の冒険者ギルドに赴く。
「ここか」
「うむ。間違いはなかろう」
剣と盾が描かれた看板を発見して目的地である冒険者ギルドに足を踏み入れる。
冒険者は荒くれ者が集う場所というイメージから影士は薄汚れた場所だと思っていたが、実際は意外にも清潔が保たれていた。
正面入り口にカウンターがあり、右手は飲食店も兼用されているのかテーブルで冒険者らしき者達が食事を取ったり、雑談をしていたり、喧嘩している。
二人がギルドに入ると当然のように注目してくる。値踏みするような視線を感じながらも二人はカウンターに向かった。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録ですか? 依頼ですか?」
「登録だ。二人分」
「はい。ではこちらに指名と年齢。それと必要事項を記入してください」
渡される二枚分の羊皮紙と羽ペン。それを見て影士は気付いた。
文字が書けないという事実に。
これまで気にする余裕がなかった為に気にも留めなかったが、異世界の言語を影士は全く知らない。それに気付いた影士は恐る恐る羊皮紙に記されている文字を見てみる。
「ん? 読める?」
「どうかされましたか?」
「いや、なんでもねぇ」
何が書いてあるのかなんとなくわかる。もしかしたら異世界に転移する際に女神が言語をわかるようにしたのかもしれない。何はともあれ文字がわかるのなら問題ないと影士は空白欄を埋めていき、受付嬢に渡す。
「はい確かに。それではこちらが冒険者カードになります。身分証にもなりますので無くさないようにお気を付けください」
渡されたカードには本人の名前とFというランクが記されている。
「冒険者の方にはF~Sまでのランク付けがあります。お二人はFランクから始まりますのでクエストをこなして頑張ってランクを上げてください」
規定通りの言葉を告げる受付嬢に影士は尋ねる。
「なぁ、なにか手っ取り早く稼ぐ方法はないのか?」
「新人の方はまずはどぶさらいやジャイアントマウスの駆除。ゴブリン退治からの方がよろしいのですが、手っ取り早くとなりますと迷宮ラビリンスですかね」
迷宮ラビリンス?」
訊き返す影士に受付嬢は懇切丁寧に教えてくれた。
魔窟ダンジョンはその名の通り、魔物の巣窟。多種多様の魔物が生息している所。影士がこの世界に転移した場所だ。そして迷宮ラビリンスもその名前の通り迷宮だ。迷路構造となっている迷宮ラビリンスは足を踏み入れた者を惑わせ、数多のトラップや魔物がいる。ただ迷宮ラビリンスには一攫千金が眠っている。
魔窟ダンジョンは己の限界を超える試練として、迷宮ラビリンスは夢と希望を探求する環境として神々が我々人間に用意したものだという説もあるます」
「ふ~ん」
確かに魔窟ダンジョンでは己の限界を超えた気がする。あながち神々が用意したのも本当かもしれない。
迷宮ラビリンスにはランクに制限はありませんが、新人の方では命がいくつあっても足りない場所です。ですからお勧めはしません」
受付嬢の言う通り、まだ駆け出しの新人がそんなところに行けばすぐに命を落とすだろう。だが、ここにいる二人は普通ではない。
人間を辞めた元人間に元魔王。どちらも普通の枠に収まる二人ではない。
二人は明日は早速迷宮ラビリンスを探索することを視野に入れていると――――
「よぉ。話は聞かせて貰ったぜ?」
後ろから声が聞こえた。
振り返ると数人の冒険者であろう男性が立っていた。
「てめえも迷宮ラビリンスを探索で一攫千金を狙う命知らずの新人くんか? よくいるぜぇ? てめえのようにお目めを輝かせて死んでいった間抜けな新人くんがなぁ」
馬鹿にするように見下す冒険者は影士に言う。
「だがどうしても行きたいって言うんなら俺達のパーティーに入れてやってもいいぜ? 俺達はBランクだ。てめえらのお守をしてやんよ。代わりに……………」
冒険者の視線がエルギナに向けられて卑下な笑みを浮かべながら口を開く。
「てめえのツレの姉ちゃんを一晩俺達に貸してくれよ。そうすりゃパーティーに入れてやる」
こういうのをテンプレというのか。影士は心からそう思った。
新人冒険者にちょっかいを出す。異世界に転移してこういうベタなテンプレに会うとは思ってもみなかった。いや、影士一人だけなら違っていたかもしれない。ただ隣にいるエルギナは優れた容姿いているからだろう。つくづく美人というのは苦労するものだ。
「断る」
「はぁ?」
「断るって言ったんだよ」
断りを入れる影士に冒険者は苛立ち、額に青筋が浮かぶ。
「おいおい、女の前だからって強がっていたら後で後悔するだけだぜ? てめえは素直にはいって言っとけばいいんだよ」
「頭の悪いあんたらに特別に一度だけ忠告をしてやる。今すぐ俺の視界から消えろ。でないと殺すぞ?」
影士は気紛れに忠告をしてやった。しかし、冒険者の彼等はその忠告を無視した。
「あぁ!? ガキが偉そうにしやがって! いいからてめえはその女を俺達に渡しな!」
強引にエルギナをどこかに連れて行こうと手を伸ばす冒険者。けれど、その手がエルギナに触れることはなかった。何故ならその冒険者の肘から先が無くなっていたからだ。
「へ?」
突然自身の腕が無くなったことに間抜けな表情となる彼の視界に見覚えのある肘から先の腕を持つ影士はその腕を捕食する。
ムシャクシャと皮膚ごと筋肉の筋を噛み千切られながら捕食されている自身の腕を見てようやく理解することができた。
自分の腕が食べられていることに。
「俺の、俺の腕がぁぁああああああああああああああああああああああああッッ!!」
ギルド内に絶叫が轟く。
そして人間の腕を食べている影士にギルド内にいる者は悲鳴を上げ、武器を手にする。中には食べたものを嘔吐する者もいたが、それだけ影士の行動が常識を逸脱している光景だ。
影士は途中まで食べた腕を放り捨てて袖で血を拭う。
「マズ。まだ魔物の肉の方がマシだな」
「て、てめえ………ッ! よくも俺の腕を……! ぶっ殺してやる!!」
剣を手にする冒険者の彼に続いて同じパーティーメンバーの人達も武器を手にするが影士は口角を上げた。そして、瞬く間にBランク冒険者を床に寝転がせた。
「あーあ、せっかく人が気紛れに忠告してやったのに」
「ひぃ!」
影士は腕を喰った冒険者を踏みつけながら剣を振り上げる。
「ま、待ってくれ! お、俺が悪かった! 謝る、謝るから命だけは…………ッ!」
股間から水たまりができ、涙ながらの命乞いをする冒険者の彼に影士は言う。
「世の中弱肉強食。弱い奴は自分の死に方も選べねえのさ」
残酷に一言を笑みを浮かばせながら告げる影士に冒険者の彼の表情は絶望の一色に染まり、口からを吹いて気絶する。
「Bランクっていうからもう少し歯応えがあると思ったんだが、興ざめだ。行くぞ、エルギナ」
「うむ。騒がせたな、皆の衆」
要件を済ませた二人はギルドを後にして宿を見つけてようやく腰を落ち着かせる。
ベッドに座るのも凄く久しぶりな気がする。それだけ魔窟ダンジョンでの生活が濃かったのだろうと実感した。
「それで今後はどのように動く? やはり迷宮ラビリンスか?」
「ああ、下手にどぶさらいやるよりかは効率的だ。ついでにお宝もあったらラッキーだしな」
「ふむ。それはそうだが、それならいっそのことこの街をお主の支配下にするという手もあるが? 妾とお主なら容易かろう?」
エルギナの言う通り、二人ならこの街を力で支配するのは容易い。だが影士は首を横に振る。
「それはまだ早い。いや、できないが正しいか。今の俺達なら街の一つや二つを力で征服することはできるが、それだけだ。その後の事も考えるのなら俺達に足りないものは二つある。一つは情報と知識。別世界から来た俺と何千年も封印されていたお前ははっきり言ってこの世界に関することを何も知らないって言ってもいい。支配するにしても征服するにしてもまずはこの世界のことについてもっと知っておくべきだ」
「うむ確かに。して? 二つ目は?」
仲間げぼくだ。行動するにしても戦力を増やす意味でも仲間げぼくは必要になる。この二つを手に入れてから動いても遅くはねぇ。だけど、一番厄介なのはお前とアルガを封印した女神がまた現れるかどうかだ。少なくとも今の俺じゃお前の二の舞に会うだけだ」
影士が最も警戒している相手はその女神。今の強さではエルギナと同じように封印される可能性が高い為に下手に動く真似はできない。だから今よりも強くなる必要も、仲間げぼくも集める必要がある。
国を興すのも国を奪うのもそれらが揃ってからでも遅くはない。幸い、時間は腐るほどある。
「俺はいずれ女神さえも弱肉強食の糧にしてやる。その為にも働いて貰うぞ? エルギナ」
「承知した。妾も妾を封印した女神には少なからずの恨みはある。お主に付き従おう」
二人は互いに剛毅の笑みを浮かばせ合う。

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