異世界転移の覇王譚

夜月空羽

05 陽の下

冥府神によって異世界に転移した唯我影士は魔窟ダンジョンで出会ったアルガとエルギナを連れて更なる強さを求める為に外の世界に転移した影士はここで初めて異世界の陽の光に当たる。
「流石に眩しいな………」
「そうだな」
これまで薄暗い魔窟ダンジョンで生活していた二人は久々の太陽の光が眩しかった。けれど、ようやく魔窟ダンジョンから外に出られた。それだけでも思わず頬を綻ばせてしまう。
だけど余韻に浸かっている暇などない。
ここは異世界。影士が知る常識は何一つ当てはまらない世界で強くならなければいけない。
この世界の常識、知識、生活、他にも様々なことを覚えないといけない為にここで立ち止まっていることはできない。
「さて、まずは―――」
「まずは?」
「服と金だな」
「うむ。先立つものは必要だ」
魔窟ダンジョンではたいして気にしなかったが、影士が来ている制服は血塗れで所々破けている。なんとか着れている状態だけど、修繕不可能なぐらいボロボロだ。
そしてエルギナもこれから行動するのに礼服は目立ちちぎる。落ち着いた服がエルギナには必要だ。そしてどの世界でも必須な金を二人は持っていない。無一文だ。
周囲を見渡してここはどこかの森の中。魔物の気配も感じないところから気性が穏やかな魔物しか生息していないのかもしれない。
「これからどう動くつもりだ?」
「取りあえず見つけた人間を襲って服と金を奪う」
「発想が既に野盗だな、お主………」
「知るか。奪われる弱い奴が悪い」
略奪することに何の躊躇いもない影士に若干呆れながらも他に都合のいい方法がないのでその案に従う。そうして二人は森の中をさ迷いながら人を探していると不意にエルギナが足を止めた。
「どうした?」
「あそこを見てみるとよい」
エルギナが指す方に視線を向けると馬車が野盗に襲われている。護衛として雇っている者は野盗に殺され、ふくよかな中年男性と歳若い女性が馬車から引きずり出されている。
「お主がしようとしていたことをしておるな」
「だな」
別段それに罪悪感などない。異世界転移前だったら多少なりの罪悪感はあったかもしれないけど、今では野盗より弱いあいつらが悪いと言い切れるほどだ。
だけどこれはこちらにとっても好都合。
「あいつらを助けて恩を売るぞ」
「承知した」
本来なら見捨てても何も思わないところだけどここで命を救ってやればそれなりの恩を売れるはず。それが無理なら野盗の代わりに奪うだけだ。
二人は森から姿を現して野盗達の前に姿を見せる。
「おい、お前等」
「あぁ? なんだこのガキ? 血塗れじゃねえか」
「ヒュー♪ 頭、男はともかくこっちの女は上玉ですぜ!」
「へへ、そうだな。今晩の楽しみが増えたぜ」
卑下な笑みを浮かばせてエルギナの全身を舐め回すように見る野盗達にエルギナは不快感と共に炎の魔法を放って野盗の一人を火達磨にした。
「やれやれ、相手の実力差もわからぬ愚か者には罰が必要だな」
続けて風の刃を飛ばして野盗の首を切断させる。瞬く間に部下が二人も殺されてようやく危機感を覚えた野盗の頭は部下に命令する。
「て、てめぇら! こいつらをぶっ殺せ!」
頭の命令に部下達は武器を手にして数の利を使って一斉に襲いかかってくるも。
「遅ぇ」
その前に影士が斬って捨てた。
魔窟ダンジョンの魔物より弱ぇな」
まだ魔物の方が手ごたえがあったのだが、野盗達はそれ以下だ。影士にとって餌でもない。
「ば、化物共が…………ッ!」
部下が一瞬で殺されて一人逃走を選択する頭。根性はないが、生き残る最善な選択肢を取ったことに恥じることはないと少なくとも影士はそう考える。けど。
「逃がすかよ」
影士は逃がさない。一瞬で頭に追いつきその背中から剣を突き刺す。
「…………ぁ……………が…………」
剣を抜いて血を振り払う。地面に倒れる野党の頭を背に影士は中年男性と女性に近づく。
「ど、どこのどなたか存じ上げませんが助けて下さりありがとうございます! 何とお礼を申し上げたらよいか!」
ペコペコと頭を下げて礼を言ってくる男性。それに合わせて女性も頭を下げる。
「なら服を寄越せ。それと金だ。ある分だけ寄越せ」
「え?」
「聞こえなかったか? 礼がしたいのなら服と金だ。それを寄越せ。寄越さないのなら殺して奪うまでだ」
「は、はい! す、すぐに!」
最後の殺して奪うという言葉にすっかり萎縮して慌てて馬車の荷台から二人分の服と金が入った袋を影士に手渡す。
「こ、これでどうにか娘だけは――――」
「お父さん!? お願いします! なんでもします! 何でもしますからどうか父だけは!」
命乞いをしてそれでもダメなら娘だけでも助けようとする父親に娘はそんな父親を助けようと涙ながら懇願する。その光景は先程と変わらない。野盗が影士に変わっただけだ。
それを見てエルギナは可笑しそうに笑いを堪える。
「くくく。お主、もはや野盗と変わらぬの?」
「うるせぇ」
恐怖に震える親子に大きく息を吐いて言う。
「街まで馬車に乗せろ。それで勘弁してやる」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
その程度で済んだことに安堵する親子になんとも言えない影士は取りあえず馬車に乗って血だらけの制服を脱いで新しい服に着替える。
「まぁ、制服よりかはマシか」
「ふむ。こういう服も悪くはないが、少々胸がきついな」
制服や礼服を着ていた二人の今の恰好はどこにでもいる一般人と同じ恰好をしている。だけど、エルギナは元は魔王なだけあって仕草や立ち振る舞いのせいで一般人の恰好をした貴族が適切だろう。
「ん? どうした? 妾に見惚れたか?」
「誰が見惚れるか。似合ってねえなって思っただけだ」
「ふむ。そういうことにしておこう」
ニマニマと笑みを見せるエルギナに若干苛立つも無視して荷台に腰を下ろす。
何はともあれ、これで多少はマシな恰好になって金も手に入った。後は街に到着するまでのんびりするのもいいがここで少しでも情報を入手しておく。
「なぁ、街で手っ取り早く金を稼ぐ方法はあるか?」
「え、あ、はい! えっと、冒険者ならすぐになれますよ。お二人の強さならすぐにS級冒険者になれるかと」
「ランクがあるのか?」
「はい。私も詳しくはわかりませんけど、F級からS級まであるようです」
冒険者となってランクを上げて金を稼いで有名になるのも異世界転移・転生の定番だ。その通りに動いて金を稼ぎつつこの世界の情報を入手するのも悪くはない手だ。
「うむ。娘よ。妾を見てどう思う?」
「え、とっても綺麗な人だなって…………」
「そうではない。この角を見てどう思うのか聞きたい」
「えっとすみません。私にはよく………」
「そうか。変なことを聞いてすまなんだ」
彼女の反応を見てどこか難しい顔を作るエルギナに影士は怪訝するも特に気にすることなく馬車に揺られながらできる限りの情報を手に入れていると街が見えてきた。
魔物の侵入を防ぐためか、街は壁に覆われている。街道に面した場所に門番が配置されているのが見える。
異世界に転移しての初めての街に不安と期待を抱きながら影士はぼやく。
「ようやくまともな飯が食える」
異世界に転移して魔物の肉しか食べていない影士はやっと人並みの食事が取れることに歓喜する。
それを聞いたエルギナが。
「お主、好きで魔物を食していたのではなかったのか? 妾はてっきり好物なのかとばかり」
すごく意外そうに言ってきた。
「誰が好き好んで食うか。俺の糧にして強くなる為だ。お前は俺をなんだと思っていやがる?」
「偏食家を超えた異常偏食家。もしくは形容しがたい捕食者というところか」
「OK。今晩の飯はお前だ。覚悟しておけ」
その通りに喰ってやる。言わんばかりの眼で睨み付ける影士にエルギナは華麗に無視スルーする。

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