異世界転移の覇王譚

夜月空羽

02 変化

クラスメイトとは別に冥府神によって異世界の魔窟ダンジョンに召喚されてしまった唯我影士は剣であるアルガと共に強くなる為に魔物達を倒してレベルを上げようと勇んだのだが。
「……………また、死んだ」
影士はまた魔物に食い殺されてしまった。
『影士、貴様は弱すぎる。これで何度目だ?』
「そうは言うがな…………俺はまだLv1だぞ? ここらの魔物の強さは絶対一桁どころのレベルじゃねえだろう?」
影士は異世界に転移したばかりでレベルは最弱の1。けれど周囲の魔物はそんな最弱を余裕で食い殺せれるほどレベルが高い。
冥府神の寵愛がなければ影士はとっくに魔物の腹の中だ。
『我の能力で全ステータスを全て500以上上げていてもまだ駄目であったが………』
呆れるように嘆くアルガの能力によって影士の全ステータスは+500の補正が入っている。それでもレベル差があり過ぎて魔物を倒すことが出来ない。
「下手をしたら永遠にここから出られないかもな………」
割と冗談ではない愚痴を溢す。
せめてレベル差を埋められる何かがあれば話は変わるのだが。
「アルガ。お前の力でどうにかできないか? 今のままじゃレベル上げもできずに一生ここで生活することになっちまう」
どうにかできないか、とアルガに尋ねてみる。
『仕方があるまい………幸い冥府神の寵愛のおかげで死ぬことはなかろう』
「それはどういう―――ッ」
何かを口走るアルガ。すると、影士の身体に異変が生じる。
「あぐ!? ぐぅぅぅぅううううう。ア、アルガ…………お前、何を…………ッ!!」
突如激しい痛みが影士を襲う。身体の内側から何かが浸食していくようなおぞましい感覚。時間が経つにつれて痛みは激しさを増していく。
それでも耐え難い痛みに脂汗を流しながら歯を噛み締めて必死に耐えてる。
『我が力を貴様に流し込んでいる。人間ではなくなるが、些細な問題だ』
「ひぐぅがぁあああああああああああああああああああっっ!!」
アルガから流れ込んでくる力が身体に侵入して身体の組織を破壊して別に何かに再構築されていく。その度に身体が引き裂かれるような痛みが襲う。
『痛いか? 苦しいか? しかしそれも全ては己の弱さのせいよ。強くなりたければ耐えてみせよ。そうすれば強くなれる』
告げられるその言葉は影士の耳には届かず、影士は絶叫を上げながら地面をのたうち回り、殺してくれと願うも冥府神の寵愛のせいで死ぬこともできず、耐えるしかない。
すると、影士の身体に変化が生じる。
筋肉や骨格が徐々に太くなり、日本人特有の黒目が金色に変わる。
気が狂いそうになるような激痛。いっそのこと全てを放り投げて発狂し、壊れてしまいたいと思い始める影士。
『弱い者が悪い』
アルガの言葉が脳裏を過る。
この世界は弱肉強食。弱い者は淘汰され、強い者は自由を手に入れる。この世の全ては己の弱さが悪く、強いことが正しい。その言葉が頭から離れない。
何故その言葉が頭から離れられないのか? そんなものさっさと手放せば楽になれるのにそれでもその言葉が頭にこびりついて離れない。
弱いことが悪いことなのか? 弱い人間は生きてはいけないのか? そもそも弱さとは、強さとはなんなのか? 
強弱の概念に疑念を抱く影士にアルガが告げる。
『貴様は己の弱さが原因で惨めな思いをしてきたのではないのか?』
その言葉に気づく。
そうだ、その通りだ。何の理由もなくある日突然に始まった虐めにただ耐えることしかしなかった。暴力を振るわれても、金を強奪されても、辱めを受けても耐えることしかできなかった。いや、それしかしなかった。怖くてただ涙を流し、震えることしかしなかった。
無償で誰かが助けてくれると勝手に思い込んでいた。
けど、誰かが助けてくれるなんてただの幻想でしかなかったことを影士は身をもって知った。
もし、あの時強ければなんてそれは言い訳だ。だけど、これからはまだ変えられる。
強くなればいい。もうあんな惨めな思いをしない為に、他者に恐怖と絶望を与えられるだけの圧倒的な力を手に入れて誰にも恐れることのない強者になればいい。
敵は殺し、邪魔者も殺し、他者を利用して使い捨て、全てを己の糧にしてしまえ。
弱者の血肉を喰らい、強者になる為の糧にする。
それに気付いた時、影士のなかで何かが壊れた気がした。けど、そんなことどうでもよかった。
全身に激痛が走るなかで影士は口角を歪める。
そんな影士にアルガは。
『そうだ、それでいい。強くなるということは狂うということだ。強者であり凶者であれ。その上で覇王になれ。その道に我が導く』
満足そうに告げる。
それから暫くして痛みは引いて影士はステータスを確認する。


唯我影士 年齢:17歳 性別:男
Lv:1
体力:600(+500)
筋力:580(+500)
耐久:810(+500)
敏捷:510(+500)
器用:450(+500)
魔力:550(+500)
魔法:呪詛魔法 
スキル:物理耐性7/10 苦痛耐性8/10 逃走1/10 脚力強化1/10 夜目2/10 状態異常耐性2/10 恐怖耐性1/10 
アビリティ:魂縛 魔食 
ギフト:冥府神の寵愛 


ステータスが一気に増えた。それにスキルとアビリティにも新しいのが増えた。
『ふむ。これなら問題はなかろう。さて、気分はどうだ?』
「………………ああ、身体の内側から力が漲る感じだ。だけどそれ以上に頭が妙にすっきりした」
ずっと引きずっていた虐めが今ではどうでもいいと思えるぐらいに気分がいい。
「グルルルルル!」
そんな影士の前に現れたのは以前に影士を食い殺した二つの頭を持つ狼モドキ。
「……………ちょうどいい。新しく生まれ変わった俺の実力を確かめさせて貰うぞ?」
以前は怖くて逃げることしかできなかった狼モドキ。けれど、今はどうだ?
まるで子犬が構って欲しくて仕方がないように見えてしまう。
「ガッ!」
飛びかかってくる狼モドキを影士は剣で両断。剣に付いた血を払い、左右に分かれた狼モドキを見て初めて魔物を殺した実感を持つ。そしてこれが弱肉強食の掟だと知る。
以前は狼モドキが強かったから弱い影士は死んだ。けれど今度は影士が強かったから狼モドキが死んだ。弱者の末路を見て影士は狼モドキを糧にする為にその身を斬り裂き、口に運ぶ。
「んぐ!? マズッ! んぐんん……………」
『何をしている?』
魔物の肉を歯で噛み千切って無理矢理飲み込んで胃に流し込んでいく。そんな奇怪な行動を取っている影士にアルガは思わず声をかけた。
「見ての通り弱肉強食だ。弱いこいつを喰って俺の糧にしてんだよ。それにアビリティに魔食ってもんがあったからな。物は試しに喰ってんだ」
胃が激しい痛みを訴えているが激痛に慣れたのか苦痛耐性のおかげか、それほど痛くはない。ある程度食べ終えてから改めてステータスをもう一度確認する。


唯我影士 年齢:17歳 性別:男
Lv:9
体力:730(+500)
筋力:675(+500)
耐久:950(+500)
敏捷:620(+500)
器用:530(+500)
魔力:700(+500)
魔法:呪詛魔法 
スキル:物理耐性7/10 苦痛耐性8/10 逃走1/10 脚力強化1/10 夜目2/10 状態異常耐性2/10 恐怖耐性1/10 
アビリティ:魂縛 魔食 
ギフト:冥府神の寵愛 


「特に変化はねぇな………強いて言うなら魔力の伸びが飛躍的に上がったぐらいか?」
せっかくまずい魔物の肉を我慢して食べたのに特に変化がなかったことに肩を竦めるも、仕方がないと割り切って別の魔物を探しに求める。
『今の貴様ならこの階層の魔物相手に多少はまともに戦えるであろう。だがその前に寄って欲しいところがある』
次の魔物を探そうとした時にアルガが不意にそう言った。
「寄って欲しいところ? こんなところにか?」
周囲を見渡しても岩肌と魔物しかいない。それなのにどこに寄ればいいのか見当もつかない。
『貴様にとっても損ではない』
「……………まぁ、お前がそう言うなら別にいいが」
特に断る理由もない影士はアルガの言われた通りに足を動かす。その間に襲いかかってくる魔物を殺しては食べて順調にレベルを上げて行き、そこに辿り着く。
『ここだ』
そこはアルガがいた時と同じ巨門がある。ということはこの先にも強くなれる何かがあるのかもしれない。期待と不安を胸に抱きつつ扉を開ける。すると最初に目に映ったのは巨大な水晶だった。
部屋はアルガの時とは違って部屋全体が水晶に覆われていると言ってもいい。そして不思議そうにその水晶を見ていると……………。
「女…………?」
その水晶の中には一人の女性が閉じ込められていた。
炎のように赤い深紅の髪に相貌は非常に精緻で見目麗しい。礼服をその身に包み、まるで人柱のように水晶の中で眠りについているかのようだ。眠りにつく絶世の美女と言えば聞こえはいいが、彼女の頭には二本の角がある。
「アルガ…………こいつは誰だ?」
水晶に閉じ込められている女性の正体を確かめる為にアルガに問いかける。そしたら――
『奴の名はエルギナ。かつては魔王と呼ばれ、我の半身でもあった女よ』
その言葉に影士は言葉を失った。

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