甘え上手な彼女4 冬編

Joker0808

第53話

「最初は……バイト目的だったんだよ……」

 高志は静かに繁村達に話し始めた。
 瑞稀の事やあの父親のこと、そして自分が脅されている事……。

「……なるほど」

「あぁ……」

「それで、俺たちを巻き込むまいと宮岡をふって、距離を置いたと?」

「あぁ……」

「アホか!」

「いでっ!」

 繁村はそう言いながら、高志の頭に手刀を食らわせる。
 そして眉間にシワを寄せながら高志に文句を言う。

「なんで、もっと早く言わねーんだよ! こじれて大変な事になっちまってんぞ!」

「だから、俺は……」

「俺たちを心配でもしてたか? 本当に心配してたなら、早めに真実を俺たちに打ち明けるべきだったろ! てか、瑞稀ちゃんってなんだ! なんでお前だけそんなに女の子とフラグが立つんだ! 畜生!!」

「繁村、途中から本音が混ざってるぞ」

 土井は呆れた様子で繁村にそう言う。

「しっかし、秀清だか終戦だかしらねーけど、そんなデカい会社なのか? 調べて見るか」

 繁村はそう言って、スマホを取り出して秀清という社長を調べ始めた。
 それを見た土井が、繁村に分かりやすく説明する。

「お前の持ってるそれを作ってる会社だよ」

「え? どれだよ?」

「だから、その手に持ってるそれだ」

「ん? ……もしかして……このスマホ?」

「そうだ」

 土井の話しを聞き、繁村は自分のスマホを再び見る。
 
「え? おい、確かのこメーカーって……」

「あぁ、国内ではスマホのシェア一位だな……テレビとか家電も結構売ってるけど」

「マジか……」

「マジだ……」

 ようやく高志が言っている相手がどんな相手なのかを理解する繁村。
 繁村はスマホをポケットに仕舞い、高志の肩に手を置く。

「よし、俺には無理だ。警察に行こう」

「諦めるの早すぎだろ……」

「仕方ねーだろ!! なんだ社長って! 子供が勝てる訳ねーんだよ!」

「俺の話聞いてた!? だからお前らに頼れなかったって言ったよね!?」

「権力持ってる大人には勝てん!」

「さっきまで少しお前をカッコイイと思ってたけど、やっぱり繁村は繁村だったよ!!」

 さっきまでの重たい空気から一変し、いつも通りの高志と繁村になっていた。
 そんな二人に土井は思わず笑みを溢す。

「おい、馬鹿二人」

「「誰が馬鹿だ!!」」

「なんでも良いけど、今はとりあえずここから出て落ち着いて話さないか? 高志が今後どうするにしても、俺たちにだって力になれることはあるはずだ」

 土井の言葉に高志と繁村は顎に手を当てて考える。
 そんな時、高志はふと瑞稀の存在を思い出した。

「土井、悪いんだが今は帰れない……」

「……お前が言ってた、瑞稀って女の子の為か?」

「……あぁ………」

 このまま自分が逃げたら、きっと瑞稀は悲しむ。
 だから、高志は土井にここを離れる訳には行かないと言った。
 しかし、そんな高志に繁村がまたしても声を上げる。

「高志、お前いい加減にしろ!! お前が大事なのはどっちだ! その瑞稀って女の子か! それとも宮岡か!!」

「そ、そんなの……決まって……」

「決まってるなら、お前は宮岡の方に行け!」

「で、でも……」

「高志、お前は優しすぎる! お前は彼女よりも、ちょっと前に知り合った女の子を優先するのかよ!!」

「そ、それは……」

「行けよ」

「え……」

「お前がその瑞稀って子の事が心配なのは分かった。なら、その子に関しては俺と土井でなんとかする」

「なんとかって……どうするんだよ……」

「良いから、お前早く宮岡のところに行きたいんだろ?」

「………だが、瑞稀の事を全部放り投げていくのは……」

「なら、正直言っておいてやる。急用が出来たってな……良いから、行けよ……じゃないと取り返しが付かないぞ」

 繁村に言われ、高志は心を決めた。
 そして、高志は走り出した。

「悪い!」

「おう」

「仲直りしなよ」

 土井と繁村に見送られ、高志は屋敷の中を走り外に向かう。

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