甘え上手な彼女4 冬編

Joker0808

第7話

 少し待っていると、再び部屋の扉が開き伊吹が戻ってきた。

「お待たせしました、それではお嬢様のお部屋にご案内いたします」

「は、はい」

 高志は伊吹にそう言われ、ソファーから立ち上がる。 内心では一体何をすればそのお嬢様に喜んでもらえるのか必死に考えていた。

「こちらです」

「こ、この部屋ですか?」

 連れてこられて部屋の前で高志は冷や汗を流す。
 早く済ませて金を貰って帰ろう!
 高志はそんな事を思いながら伊吹の後に続いて部屋に入って行く。

「お嬢様、お客様をでございます」

 部屋の中は広かった、大きなテレビに本棚、そして大きなベッドが置かれていた。
 自分の部屋の何倍の大きさがあるのだろうと考えながら、高志はベッドの上に居る一人の少女に視線を移す。
 青い目に金色の髪の毛、一目で日本人では無いと分かる。
 しかし、日本人っぽい面影もある……恐らくハーフなのだろう。

「では……」

「え、ちょっと!」

 伊吹はそうとだけ言うと、高志を残して部屋を後にしていった。
 
「……」

「……」

 残された高志とお嬢様、沈黙が部屋の中を支配する。 高志どうしたら良いのか分からず、とりあえず挨拶をする。

「は、はじめまして」

 笑顔を意識したのだが、高志は緊張のあまり顔が引きつってしまった。

「こんにちは、初めまして」

 そんな緊張している高志とは対照的に、お嬢様は落ち着いていた。
 柔らかい笑みを浮かべ、高志に挨拶を返す。

「そんなに緊張なさらないでください、お父様が雇った方なんですよね?」

「ま、まぁ、そうなります」

「すみません、変な事に付き合わせてしまって」

「い、いえいえ! 全然大丈夫です!」

 こっちもお金を貰っているから、全然迷惑では無い というかむしろ、逆に気を遣われてしまい、高志は少し申し訳ない気持ちになる。

「大丈夫です、貴方は時間が来るまでこの部屋に居て下さい、お金もお支払いします」

「え? で、でも……」

「良いんです……どんなに楽しい方でも……それは所詮お金で作られた関係……貴方には申し訳ないのですが、どうしても私はそう考えてしまうのです」

 そりゃあそうだよな……と考える高志。
 しかし、結構な大金を何もせず受け取るのは気が引けるので、高志はお嬢様に尋ねる。

「えっと……でも、折角だし少し話しませんか? 俺……いや、自分は八重高志って言って、今高校二年で……それから……えっと……家で猫飼ってます!」

 自己紹介をしようと思った高志だったが、上手い言葉が思いつかず、変な自己紹介になってしまった。
 やっちまったなぁ……。
 なんて事を考える高志とは裏腹に、お嬢様は笑みを溢す。

「ウフフ、そんなに緊張しないで下さい。私は秀清瑞稀……歳は貴方と同じくらいです、趣味は本を読むことですね。よろしくお願いします」

「あ、あぁ……よろしく」

 瑞稀の笑顔に高志は少し安心した。 
 高志はベッドの側に置かれた椅子に座り、瑞稀と話し始めた。

「学校には行ってないんですか?」

「在籍はしていますよ、でも……登校はあまりしていません……発作が起こると大変ですから」

「そうなんですか……」

「えぇ……八重さんは学校は楽しいですか?」

「えっと……貴方にこんな事を言うのはあれですけど………楽しいです、嫌な事もありますけど……」

「フフ、そうですか……良いですね……私も体さえ丈夫なら……」

「す、すいません……」

「謝らないで下さい、私が聞きたくて聞いたのです」

「は、はぁ……」

「それよりも、もっと話しを聞かせて欲しいです。学校の話しを……」

「良いですよ、そうですね……」

 高志は自分の学校の話しを瑞稀に話し始めた。
 学校では何をしているのか、どんな事をしているのか、クラスはどんな感じなのか……。

「……まぁ、そんな感じでうちのクラスの男共は女の事になると眠っていた力を呼び覚ますんですよ」

「ウフフ、凄いですね、楽しそうなクラスで羨ましい」

「楽しい……のかな? でも……退屈はしませんね」

 瑞稀は笑顔を浮かべながら高志の話しを嬉しそうに聞いていた。

「私は家から出ることがあまりないので……友達と呼べる方も居ません……だから八重さんが羨ましいです」

 瑞稀の言葉が高志の胸に付き刺さる。
 金を貰っている以上、高志のこの会話も言ってしまえば仕事。
 こんな楽しそうに笑ってくれているのに、それはあくまでお金の為……。
 高志はなんだか嫌な気分になってきた。

「あ、そろそろ時間ですね、恐らくそろそろ伊吹さんが来ると思います」

 高志が考え事をしていると瑞稀がそう言ってくる。 案の定、瑞稀がそう言って数秒後、部屋の扉が開き伊吹が入ってきた。

「八重様、時間です」

「あ、はい」

 高志は椅子から立ち上がる。
 本当にこれで終わりで良いのだろうか?
 そんな事を思いながら、高志は瑞稀に背を向ける。 
「八重様……ありがとうございました」

 高志の背中に向かって瑞稀は笑顔でそう言う。
 その瑞稀の言葉を聞き、高志は瑞稀の方に向き直り、瑞稀に向かって言う。

「秀清さん……あの……お、俺と友達になろう!」

「え……」

「また遊びに来る、それでもっと色々話しを聞かせてあげるから! だから!」

「で、ですが……このお仕事は……」

「仕事じゃないよ! お金だって要らない! 俺が……君と話しをしにくるだけだ……友達に会うのにお金なんて必要ないから」

 高志はそう言うと、伊吹の方に向き直る。
 そして伊吹の居るドアの前に来ると、伊吹に言う。

「お金は要りません……」

「……お支払いするのが義務になっているのですが」

「俺は今日、秀清さんの家に遊びに来ただけです。仕事をしに来たんじゃ無い」

「……そうですか」

 そう言って高志は部屋の扉を閉めようとする、すると……。

「あ、あの!」

 瑞稀が声を出して高志を止める。
 高志は部屋の方に向きなおる。

「ま、また……来てくれますか?」

「あぁ……来るよ」

 そんな高志の言葉を聞いた瑞稀は、高志に笑みを浮かべる。

「待ってます……」

 涙を目元に浮かべて……。 

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