転生したら愛がいっぱい?!(仮題)

シーチキンたいし

熊男の出会い


検問の順番待ちをしていると、背後から大きな影に遮られた。

誰だろう?

「?……ヒッ?!」

振り返ると、そこに居たのは大きな大男。熊のような巨体と鍛え上げられた筋肉。身の丈ほど大剣を担いでいる男は、今の私にとったら、見上げるほど大きい。思わず驚いてしまったのは仕方ないだろう。

この身体になってから、精神がそっちに引っ張られているようで、すぐ泣いてしまったり、驚いたり、喜怒哀楽が激しくなっている。

「あぁ、すまんすまん」

そう声を発した熊男。声は思ったより優しげで、安心する何かがある。それに、神々の祝福さんが反応していない。少なくとも悪意を持った人じゃない。

熊男は私と目線をなるべく近づけるためか、その場にヤンキー座りのように身を屈めた。……柄悪いっす。

それでも少し高かったが、男の顔がハッキリとわかった。地球の本にあった。こういう人を強面のイケメンと言うのだ。

「ちんまいな」

「うん。アリス五才くらいだもん」

「アリスって言うのか。……ん?くらい?」

「誕生日知らないから」

「……そうか」

男はポリポリと頭をかきながら、困ったように笑った。案外いい人なのかも。

「お前さん、親はどうした?」

「親?いないよ」

「え?!…いねぇのか?」

「うん。アリスのお母さんみたいな人とおじいちゃんみたいな人は居たけど、もう会えないの。だからアリス、一人で生きてたの。でも一人は寂しいから、アリス、友達作りに来たの」

「……悪いこと聞いちまったな。俺はラクマ。この街で冒険者をしてるんだ。そこそこ顔が売れてる。」

「クマさん!」

「いや、ラクマ……」

「クマさん!」

ラクマだからクマさん。安直かもしれないが、熊男みたいだし名前もそうだし、ピッタリだ。だから譲らずにいると、クマさんは諦めたように溜め息をついた。

「もうそれでいいか…。アリスはここを通りたいのか?」

「うん、アリス街に入りたいの。でも知ってるよ。検問ってのをうけないといけないんだよね?」

「よく知ってる。偉いな。でもな、検問には身分証と、無かったらお金が必要なんだ」

「え?!そうなの?」

目に見えてガーンとしょぼくれる。

森暮らしで、身分証はおろかお金なんて持っていない。一ヶ月ほど森で暮らしてて異次元収納倉庫アイテムボックスに入っているのは食料や薬草ばかり。

後は私に襲いかかって、私がなにもしてなくても無惨にお亡くなりになった魔物や魔獣達だ。

白銀が人間の街では高く売れるからと言っていたので、とっておいてあるのだ。この異次元収納倉庫アイテムボックスの最大の長所は食材を入れても腐らないことだろう。

「お金ないのか?」

「うん、でもアリスお金になりそうなのならあるよ」

『(アリス!あんまりそういうこと言うな!ソイツが悪いやつだったらどうするんだ!)』

「(大丈夫だよシロ!だって神々の祝福さんは反応してないし!)」

「おい、アリスあんまり知らない人にそういうこと言うなよ。俺じゃなくて、悪い奴だったらお前、誘拐とかされるかもしれんぞ?」

「(ほらね?)」

『(…仕方ねぇな)』

白銀は心配してくれたが、何となく、この人は大丈夫だろうと言う直感があった。

「うん!気を付ける」

「…検問には一緒に立ち会ってやるよ。金は別にいいから」

「え?でも……」

「子供は大人に素直に甘えとけ」

「……うん!ありがとうクマさん!」

クマさんは親切に私と一緒に並んでくれた。

そして、検問待ちに並ぶこと数時間、ようやく検問の順番がやって来た。

「次!って、ラクマさん!お帰りなさい、依頼の帰りですか?」

「あぁ、丁度な」

クマさんと検問の警備員の人は、どうやら知り合いらしい。さっきクマさんが「顔が売れてる」とはこう言うことだろう。

「それよりも…その子どうしたんですか?」

「それが…」

「アリス、街に入りたいの!お友だち作りに来たの!」

「えっと……じゃぁ、身分証はあるかい?」

「ないの…」

「じゃぁ、保証人と銀貨2枚ないと街には入れないんだ」

さっきクマさんにも言われたが、お金も頼れる大人もいない。改めて落ち込む。

「それなんだが、俺が保証人になる」

「ラクマさんが?」

「あぁ、悪いガキじゃない。俺が責任持つよ」

「ラクマさんがそう言うなら…」

警備員さんはクマさんの説得に頷いた。もしかして…クマさんってそこそこどころか、とっても有名な人?

「これで入れるよお嬢ちゃん」

「うん!ありがとう!」

「さ、街に入ろうアリス」

私はクマさんの後に続いて街の中へと入った。

中は地球の書物で見た西洋風の造りの建物の街並みで、とても美しい。新しい風景に感動していると、手を引いてくれたクマさんが立ち止まって、再び目線を下げてくれた。

「アリス、お前はこれからどうするんだ?」

「アリスはね、まず街を探検するの!それから決める!」

「…まだ決まってないのな」

ドヤ顔で言ったが、なにも得意気になることなんてない。ザ・マイペースで何にも決まっていないだけである。

人生何が起こるか分からない。気楽にやると決めていた。

「じゃぁ、俺が付き合ってやるよ」

「ホント?」

「あぁ、言ったろ?そこそこ顔が売れてるって。街の案内は任せておけ」

「わーい!ありがとうクマさん!」

こうしてクマさんとバスコの街を回ることになった。商店が並ぶ通り、綺麗な雑貨屋さん、魔法具や魔法薬のお店、武器や防具屋さん、他にも色々見て回った。

バスコの街は俯瞰で見ると楕円形の形で、長い面が森に接してる。それぞれ東西南北に門があり、北門が一番警備が厳しい。さっき私が通ってきた門が北門だ。

商業区や宿、住民の家などは南門側に多くあり、北門側には冒険者ギルドや訓練所、警備員や領兵の宿舎などがある。

新しい物に溢れていて、見ているだけで楽しかった。

街を見回って、最後に冒険者ギルドに行くことにした。

「ホントに行くのか?」

「うん!アリス行ってみたい!」

やって来た冒険者ギルドは、それはもう立派な佇まいの建物だった。

どうやら、冒険者用の宿舎から、ご飯やお酒が飲み食い出来る酒場、訓練所まであるらしい。さすが冒険者が集まる街のギルドだ。

中に入ると、小さくなってしまったわたしには、とても大きすぎる天井の高さだ。広々としてて、思ったより快適で、顔が怖い強面の人はちらほらいるが、雰囲気は悪くない。

「大丈夫か?アリス」

「ん?アリス平気だよ?」

クマさんは私を連れて受付のような所へと進んだ。

「いらっしゃいませ。…って、ラクマさん!お帰りなさいませ!ご帰還ですか?」

「あぁ、これが依頼の達成報告書だ」

「承りました。……はい、確認しました。報酬はいつものように?」

「あぁ、それで頼む」

「あの、……ところで、その、この子は?」

受付嬢さんを穴が空くほどじーっとガン見していた私を見て、困ったように笑いながらクマさんに問いかけた。

「それがな、どうやら孤児みなしごみたいでな。街に入りたそうにしてたから、俺が保証人になったんだ」

「そんな……こんな小さな子なのに…」

悲しそうな顔をしてくれる受付嬢さんを見て、不謹慎にも嬉しくなった。悲しい顔をしてほしくなくて、にっこりと笑ってみた。

「アリスね!友達いっぱい作りに来たの!お姉さん!アリスと友達になってよ!」

「あ、アリスちゃん?私はね、リサって言うの。ぜひお友だちになりましょう?よろしくね」

「うん!」

友達第2号は受付嬢のリサさんで決まりだ!

「ラクマさん、そういえばマスターが帰ってきたら顔を出すように言ってましたよ?」

「あのオッサンが?」

「オッサンとはなんだ。相変わらず失礼な奴だな」

「マスター!」

受け付けの奥からやって来た壮年な感じのダンディーなおじ様。どうやらこの人がギルドマスターらしい。

「ちんまいガキ連れて、どこのガキ拐ってきたんだ?」

「拐ってねぇよ!」

「お嬢ちゃん、俺ァこの街のギルドマスターやってるオルグってんだ。よろしくな」

「オルグおじ様!」

「おじ……?ま、まぁ、いいか」

ギルドマスターはクマさんに話があるらしく、立ち話も何だからと、ギルドマスターの執務室に通されることになった。




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