転生したら愛がいっぱい?!(仮題)
旅立ちの日─初めての街
ざわざわと雑踏のなかを歩く場違いな少女。皆、二度見三度見と振り返る。
それもそうだろう。
門の前はこれから街に入るための入門検査で混んでいるなか、子供が一人で並んでいるのだから。
私、アリス・ロゴスは、初めての街に入ります!
何故こんなことになっているかと言うと。遡ること数時間前。
「ねぇ、シロ。そろそろ街に行ってみようと思うの」
『ああ?そういや、もう一ヶ月近く動いてないもんな』
「うん。スキルとかちゃんと使えるようになったし、そろそろもっといっぱいお友だちつくらなきゃ」
『そっちかよ……。でもなぁお前のスキルとか隠すのは多分無理だぞ』
「え?!なんで?!地球にあった本には、こういう時『隠蔽』とか『偽装』ってスキルで何とかなってたよ!どうしてアリスはだめなの?!」
『地球の本がどうかは知らんが、この世界にまず、鑑定スキルが珍しいんだ。持ってる奴なんてほとんどいない。なんで鑑定がEXTスキルになるかわかるか?鑑定すればスキルレベルに応じて良し悪しも嘘かどうかも見破れるんだぞ?』
「確かに……そう言われてみれば凄いスキルだよね。アリスのなんて(神)がついてるくらいだし」
シロに言われて気がついた。
この世界では鑑定というスキルは、EXTスキルに分類されるくらい珍しく、凄いスキルなんだ。
『ステータスを知るにはまず、鑑定スキルがないと無理だ。その鑑定がEXT スキルなんだぞ?つまり、そのステータスを偽装できたり隠したりするようなスキルもまたEXTスキルに決まってるだろ?取得条件なんて俺でも知らない』
「うぅ~、そっかぁ」
『まぁ、よほど凄い魔法使いか、天性の才を与えられた者しか持っていない。後は…そうだな、鑑定が付与された古代魔法具ぐらいじゃないか?』
「わかった。運を天に任せるしかないんだね」
『そういうこった』
私はシロの言う人や物に会わないよう、神様に祈っておいた。
「ところでシロ。シロは大きいけど…街にその姿はダメな気がするの」
『いや、普通にダメだろ』
「それでねシロ、小さくなれない?」
『身体のサイズなら、俺くらいになれば好きに出来るぞ?』
「え!本当?!じゃあ、アリスと同じくらいになって!」
『わかった』
白銀の足元から光が溢れると、木よりも大きな巨体がみるみる縮んでいった。気づけば白銀の目線が同じ高さにあった。
「うわぁ!すごいすごい!」
『そ、そうか?』
「じゃあ、もっと小さくなれる?アリスがシロを抱えられるくらい!」
『そんなに小さいのがいいのか?仕方ねぇな』
そう言いながらも、白銀は、身体を小さくしてくれた。そこにいたのは私が抱えられるくらい小さなポメラニアンのような白銀だった。
「きゃー!!!シロ好き!大すきぃ!!」
もふもふの小さな白銀を抱えながら、興奮して力一杯抱き締めた。
『アリス?!落ち着け!どうしたんだいったい?!』
「シロのもふもふは魅惑のもふもふなの!」
『なんだそれ?』
「ふふふっ秘密!」
『とにかく、街へ行くんだろ?こっから街まで少し遠いから、森を抜けるまでは俺に乗っていけ』
「ありがと!シロ!」
こうして私と白銀は、初めて森の外へ出ることになったのだ。
そして冒頭に戻る。プチ冒険をしながら森を抜けた私とシロは街に向けて歩きだした。
その際、シロはさっきの極小サイズになってもらって、私が抱えてあるいた。白銀は、自分で歩けると言ったが、もふもふを私が手放すはずもなく、白銀のほうが折れてくれた。
こうして一人と一匹は数時間かけてようやく街についた。
「鑑定さん、この街ってどこのまちなの?」
他の人に聞かれないようにボソッと小さな声で呟きながら鑑定さんに聞いてみた。
(解答、この街はオリーブス大陸の南に位置するセリーフ王国に属する、北部辺境伯領の街『バスコ』です)
また難しい文字が出てきた。 
(追伸、辺境伯領とは、この大森林や国境付近を守護するような貴族の所有する領土のことです。)
だんだん、鑑定さんが気を回すようになってる気がするのは私の気のせいだろうか?
「大きな街だね。辺境伯領ってこんなに賑やかで大きいんだね…」
(解答、この辺境伯領が他の領とは全く違います。ここは大森林『ミスティカ』に接している唯一の領地です。ミスティカは奥に行けば行くほど魔物や魔獣の強さが段違いになります。故にどの国も手が出せず、今だ未開の土地となっております。この辺境を治める貴族の責務として、この大森林の守護防衛線の最前線となっています)
「つまり、危険ってことじゃないの?」
(解答、危険と隣り合わせではありますが、およそ前線を突破されることは、神獣クラスの魔物や魔獣でもないかぎりないでしょう。防衛最前線のため、街の警備や防備は万全です。そして、領兵だけでなく、この街には冒険者と呼ばれる者が多く集まります)
「冒険者っているんだ!」
(解答、います。彼らは大森林の豊富な資源や魔物や魔獣を討伐して生計を立てている生業の者たちです。おかげで、魔物を間引くことにもなり、大森林から魔物が溢れることはここ数十年ありません。彼等が大森林から採取してくるものは、高値で売れます。故に、職を求めて冒険者が、冒険者の戦利品を求めて商人が、このサイクルがきちんと整えられているため、この街は繁栄しています。)
鑑定さんの懇切丁寧な説明に脱帽だ。
つまり、確かに危険もあるかもしれないが、戦力が揃っていて、なおかつ防備もしっかりしてるので、滅多なことでもないかぎり安全な街。
「ありがと!鑑定さん!」
『(おい、スキルとばっかり会話するなよ)』
「(わっ!頭の中からシロの声がする!)」
鑑定さんと話していると、いきなり頭の中に白銀の声が響いた。
『(テイムスキルの応用だ。テイムのスキルレベルが高ければ高いほど従魔にした魔物との意思疏通が可能になる。アリスのスキルレベルなら問題ない。街のなかでは喋らない方がいいだろ?)』
「(なるほど!すごい!うん、窮屈かもだけどお願いね!)」
『(こんぐらい平気だ)』
私は嬉しくて、白銀のもふもふに頬擦りした。
そんな一人と一匹を回りの人たちは遠巻きで見ていた。
「おいどうした?」
そんな人々に話しかけた一人の大男。
熊のような巨体に、鍛え上げられた筋肉、身の丈ほどある大剣を担ぐ男。このバスコの街で知らぬものがいないほど有名な男だ。
「あ、貴方は!」
「そ、それが……」
人々が目線をその少女へとやった。
好奇心的な目で見ていた人達は、迷子か?捨て子か?と憶測ばかりが飛び交っていた。
その幼い少女は、流れるような美しいプラチナブロンドの髪に空のように青い瞳。仔犬を抱えるその姿は、まるで天使が降り立ったよう。
その場所だけ空気が違う気がするのは気のせいだろうか?と回りの人々は思っていた。
男も、まるで雷が落ちたかのように固まった。
「な、なんだ?あのちんまいガキは?」
「それが、一人で居るみたいで…。親らしい人は回りに居ませんでしたし、本人があんな感じで、さも当然のように並んでるので……」
そう、アリスは自分がその場で異質な存在であると言うことを理解していなかった。
アリスの外見は、他人から見ても間違いなく美少女に分類される。しかし、今まで一人きりだったアリスにとって、自分の外見がどう見られるかなど、理解していなかったのだ。
そんな美少女なアリスが、保護者らしい保護者を連れず、一人で検問に並んでいれば、目立つに決まっている。
そんな容姿で一人きりで居れば、最悪誘拐されてもおかしくない。
「よし、俺が事情を聞いてこよう」
「貴方様なら安心です!」
男は、アリスに声をかけるべく踏み出した。
後に、二つ名以外にも別名『子ずれ熊男』と言われるようになる男の誕生である。
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