エロげーの悪役令嬢に転生した俺は凌辱END回避のために世界最強を目指す!

チョーカー

決着 憤怒のノバス戦

 「絶招の……解禁を」

 そうノアが唱えた瞬間に決定的な変化が起きる。

  ノバスは総毛立つ。 

 (何が起きたのかわからない。けど――――恐怖。まるで凶悪な呪怨と対峙したように……)

 目前には深くダメージが刻まれ、脅威度が著しく低下しているはずのノア。

 だが、彼女の身に起きた変化。その凄まじい危険度にノバスは体の震えを抑えきれない。

 如実な変化は、その右腕。 まるで呪術に使用される媒体だ。

 殺意や敵意。そして悪意に闘気。 

 本来、エルフは物質文明ではなく、精神文明……神秘に従って生活を行う種族だ。 

 科学などには否定的……と言うよりも対極的な文明であり、精霊など、目に見えぬ……いや、存在すら不明であろうとも敬る精神を有している。

 だから、わかる。

 エルフは、そういう未知の現象に敏感なのだ。

 (突然、ノアの腕に現れた不可視の感情と言える存在は、伝説とも言われる悪霊のソレと同等……)

 およそ、1人の人間が持ち得る感情量ではあり得ない。

 それが右腕に収集されていく。

 戦慄。それを感じた直後、ノアが目前に出現していた。

 (―――ッ!? まるで幽霊のように! 一体、どうやって間合いを縮めたのだ!?) 

 ノバスが感じた通り、幽霊の如き緩やかな速度。 

 そうあるべきと言わんばかりに自然さ。 気がつけば、ノアの《《左手》》がノバスの胸を押す。

 決して強く押されたわけでもないにも関わらず、その圧力に抗えずにノバスは後ろに後退する。

 その直後、大地が揺れて地震が起きる。

 それはノアの踏み込み。 文字通りの――――

 震脚

 そして、完全なる震脚によって放たれる完全なる一撃。

 『猛虎硬爬山』


 ノバスはガラスが割れたような音を聞いた。

 それは自分の体内から――――存在しないはずのガラスが叩き割られた。

 (私の何が破壊されたのか……わからぬ。だが、この技は――――この世界に存在してはならない!)

 吐血。黒く濁った血液を吐き出し、ノバスは停止した。

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・

 果たして、無知な観客どもは目前の光景をどこまで理解できただろうか?

 だが、彼らも理解できないという事は理解している。

 そして、理解できない光景を理解できないまま――――狂乱した。

 勝者と敗者を称える声援。

 彼らの声は、バチバチと背中を叩くような――――風? 少なくとも質量を有して、ノアを揺さぶった。

 ノアは意識を失ってはいなかったが、それでも意識レベルは酷く低下している状態。

 頭の中が霧に覆われたようになっていたが――――それでも勝者が誰かはわかっている。

 ゆっくりと腕を上げる。

 勝ち名乗りだ。それで観客たちの声も大きく跳ね上がった。

 声援に答えながら、控室へ戻っていくノア。 対称的にまだ立てず、闘技場関係者の手によって運び出されていくノバス。

 その両者は見ている者がいる。 無論、ただの観客などではない。

 大きく広い個室。 闘技者たちを見下ろすように作られた特別席にいる男。

 「面白いね、彼……僕のトーナメントに出場してくれないかな?」

 そう独り言を漏らす男。 だが――――

 「わかりました。早速、接触いたします」

 その返事。誰もいないはずの空間から返ってきた。

 目に見えぬ技を持つ何者かが1人隠れていた。

 それを――――「じゃ、頼んだよ」と軽く言う部屋の主。

 彼の名前はウィリアム・マーシャル。 

 トーナメントと言うのは古くは騎士の時代、騎乗で戦う競技そのものを指す言葉であった。

 このウィリアム・マーシャルは馬上槍試合《トーナメント》において500勝無敗。

 伝説の騎士であった。 

 そんな彼が主催するトーナメント(こちらは馬上試合ではない)にノア・バッドリッチが出場の打診をする。 それは今日がデビュー戦の新人に対しては、破格とも言える扱いである。

 ウィリアムは笑う。

 自身が主催するトーナメント。 参加の優先権が得られるのは、自分――――ウイリアム・マーシャルが面白いと思った闘技者のみ。

 だから、こそ……彼は笑っているのだ。

 心底、ノア・バッドリッチを面白いと判断したのだから……

 
 
 

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