エロげーの悪役令嬢に転生した俺は凌辱END回避のために世界最強を目指す!

チョーカー

 3年が経過したある日


 合気体操という物がある。

大学で合気を指導するために学生向けに作った稽古である。

① まず、腰を手に置いて! 首を前後に!

② 続いて、首を左右に動かす!

③ 次は腕を左右に振ります!

④ 両拳を胸の前に持ってきて、左右に開く! また胸に拳を持ってきて~ はい、今度は手を開いて!

⑤ 拳のまま、腕をクロスさせて、大きく開く! はい、次は閉じた拳を開いて~ 左右に広げる!

⑥ 今度は右に構えて、はい! 今度は左へ構える!

⑦ はい、上げ手を行います。 相手が腕を掴んできた事を想定して腕をあげて……はい! そのまま腕を大きく後ろに回す!

 と続けて正拳突き、正拳逆突き、肘打ち、横蹴り、後ろ蹴りと打撃の練習になり、

 膝の屈伸から四股飛びで終わる。

 武田惣角の時代よりも後年に生まれたはずの合気体操をなぜ、武田惣角が知っているのか? 

 そんな疑問はあるかも知れないが……

 そもそも魔剣として今を生きる武田惣角ならば、近代の合気事情を知っている事に何が不思議だろうか?

 ともかく、閑話休題。

 ノアは朝起きると八極拳の套路とうろを行い。

 昼を終えると、精神世界で武田惣角と合気体操から始まり、基礎を永延と繰り返す。

 その間、ノアは体を惣角に明け渡し、書文と組手を同時に行う。

 合気の理合を体で叩きこまれるのだ。

 そして疲れ果てたノアは夜に眠る。 無論、站樁たいとうを行った状態だ。

 こういう1日をノアは3年過ごした。

 ――――ノア・バッドリッチ 9歳。

 3年も李書文に師事を受けた年月。 それは平凡とは言い難い時間だった。

 古城で出現する霊体リッチを相手に八極拳や合気は通じるのか?

 マッドサイエンティストと魔術師と錬金術師が混じったような男が作った暴走巨大ゴーレムの討伐。

 北の大地に封じられた邪神を蘇らせんとする狂信者たち。

 高い知性を持った突然変異的なゴブリンの反乱。

 移動を続ける巨大空挺都市の謎を追え!

 etc.etcなどなど

 川口探検隊や藤岡弘探検隊の水曜スペシャルもびっくりの濃い3年間を過ごした。

 しかし、ノアは気になっていた。

 大冒険と言える出来事を終えて、愉快そうに笑う李書文。

 その表情に時折、何かを思い出すように寂しさが浮かんでいるのを――――

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ある日の出来事だ。

 町に出かけていた書文が帰ってくると妙に上機嫌だった。

 あまつさえ鼻歌まで歌っている。

 「何か良い事でもありましたか?」とノアが聞いてみると

 「む? なぜ、そう思う?」

 どうやら、鼻歌の自覚はないらしい。

 「うむ……町に面白い奴が現れたそうだ」

 「面白い奴……ですか?」

 李書文の言う面白い奴。コメディアン的な意味ではないだろう。

 戦うべき好敵手を見つけたという意味でしかありえない。

「それはどのような人物なのですか?」

「これを見ろ」と手渡してきた紙。

 それにはこう書かれていた。
 
 『挑戦料は金貨10枚。勝てば、金貨100枚差し上げます』

 「これは賭け試合ですか?」

 「うむ、こうやって資金を集めて旅をする格闘家のようだ」

 金貨100枚と言えば、この世界の平均賃金で1か月分になる。

 「確かに面白いですね」とノアも肯定した。

 おそらく、こうやって紙を配れば、土地の力自慢が1日で2、3人は挑む。

 それで勝って話題になれば、2、3日は人が集まって挑んでくる。

 しかし、そうやって戦い続け、勝ち続ければ1週間で挑戦者はいなくなるだろう。

 そうなった時には、1週間で金貨100枚以上の儲けがでる。

 また別の土地に流れて同じことをするのだ。

 もしかしたら、物好きな金持ちが客人として迎える事もあるだろうし、貴族が兵として雇う仕官目的なのかもしれない。

 「武に生きる者なら、一度は憧れる生き方ですね。でも……」

 「あぁ、思い付いても実際にやれる奴は、そう多くない」

 書文は、まるで獰猛な生物のように舌舐めずりをしていた。


 

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