エロげーの悪役令嬢に転生した俺は凌辱END回避のために世界最強を目指す!

チョーカー

魔剣の使い手現る

 魔剣の使い手が山に籠っている。 

 それは、李書文にとって――――食指が動く。

 国が優秀な兵隊を派遣して討伐するよりも早く見つけ、戦いたいのだ。
 
 この領土内に幾つの山があるのか? だが、およその位置はわかる。

 隣国から山に身を隠して逃げ続けるなら、移動ルートが限られてくる。

 そして、魔剣と言われるほどの物なら、発する魔力も気配も尋常ではない……はず。

 「さて――――」と書文は筆を手に取り、置き手紙を書き始める。

 魔剣の主が潜伏しているだろう場所がわかるとしても、山々の道なき道を進むとしたら、数日は帰れぬだろう。

 さらさらと筆を走られせ、その旨を書き上げる。

 そして、客室の隅に置かれた自身の荷物から長い棒状のものを取り出し、肩に担ぐと窓から飛び降りた。

 すると――――

「何奴!」と闇夜に向かい書文は言う。

 小さな……しかしハッキリと通る声で隠れている者を威圧する。

 だが、姿を現した影の正体は、

「お待ちしていました、先生」

「お主……ノアか。こんな所で何をしておる?」

「魔剣」

「ぬ……」

「先生の事なら、魔剣の話を聞けば挑みに行くかと」

「……ふっ、お前はワシの事がわかっているみたいじゃな」

「では!」

「だが、連れてはいけぬ。お主は、雇い主の娘である……それを夜中に連れて山に入れるか!」

「その心配はご無用です」

「なに?」

「置き手紙を残しました。魔剣の話を盗み聞きした私は夜中に屋敷を抜け出す事にしたと……先生は、それに気づき後を追いかけたと手紙を残せば、問題ないかと」

「驚いた。悪知恵が回る奴だなぁ」と言いながらも書文は笑った。

 別に彼とて高い倫理観を持った人物というわけではない。

 道理が通っていれば、「それで構わぬ!」と投げやり的な一面を見せる時もある。

 だから、この時も、  

「いいだろう、ついてこい」

 あっさり、ノアの動向を許したのだった。

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 夜通し歩き、山に入る。

 まだ、夜は明けていない。いや、薄っすらと空が紫がかっている。

 書文とノアは、淡々と山を歩く。 従来ならば、到底子供が歩ける距離でも速度でもない。

 だが、八極拳で鍛えたノアの足腰は、通常の子供と比べものにならないほどに発達している。

 タッタッタ……と駆けるように山を登っていく。

 「ところで先生、その荷物は?」と書文が背負っている棒状の物。ノアは、布にぐるぐる巻きにされているそれを指さした。

 「うむ、これはワシの武器じゃが……すぐに見せれる事ができそうじゃな」

 「?」

 「ほれ、足を止めて耳をすませ、目だけ頼らずに五感を使い……気配を読み取れ」

 ノアは言われるまま、瞳を閉じて鼻を、耳を、そして皮膚を頼る。

 気配。

 聞こえる虫の鳴き声。 風が木々を揺らす音。

 それが、僅かに乱れる。

 何かが、近くで動いている。 動物がいる? それとも――――

 「良い鍛錬を積んでいるな。 貴様のガキ……には見えないな。着物が上出来すぎる」

 黒い影が現れた。

 荒々しい髭男。 まるで山賊だが……衣服に返り血を浴びている。

 そして、腰には――――

 「あれが魔剣……」と呟くノア。

 その禍々しさは鞘に収められていても感じられるほどのもの。

 「嬢ちゃん、男の腰に興味を持つのは、もっと綺麗になってからにしておきな」

 およそ、6才の少女に言うには相応しくない下ネタだ。

 「けど、見てぇなら、今すぐに抜いてやるよ!」

 男は魔剣を鞘から抜――――いや、できない。

 「ぐげぇえぇ」と男は呻き声を吐き出す。

 何かが頭部に直撃して、後方へ吹き飛んでいったのだ。

 それは何か?

 近くで見ていたはずのノアも事が終わってから、初めて認識する事ができた。

 それは昆である。 木でできた長物の武器だ。

 そして、その使用者の名前は李書文。

 その異名は神槍。

 今まで書文が背負っていた棒状の荷物。その実、中身は棒だったわけだ。

 槍を使用しなかったのは、幼いノアに殺生を見せたくなかったという仏心か、それとも他に理由があるのか?

 だが――――

 「コイツはすげえ速さだな。俺が見切れないか」

 男は立ってきた。 しかし、何かが違う。

 ――――雰囲気? 先ほどよりも危うさが増している。

 魔剣の力だろうか?

 「仕方あるまい。数百年ぶりに本気を出させてもらう」

 そう言うと、男は抜き身になった魔剣を煌めかせ――――

 逆手に持ち直して――――

 信じがたいことに――――

 自身の胸を貫いた。  
 

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