挫折した召喚勇者は転生勇者の師匠になりました (タイトル変更)
未知の通路と階層主
アイルの前方にはプヨプヨとした物体――――いや、魔物がいる。
「せい!」と短い気合の掛け声を1つ。 強く踏み込み、加速する。
一瞬で間合いを詰めた彼女は剣を振るう。
魔物の体は異常なほどに弾力があり、斬り辛いはずだが、その一振りで真っ二つになった。
「お見事」と呟く俺に対してアイルは――――
「えっと、このクラゲみたいな魔物ってスライムだったけ? さっきからスライムだけしか出てこないじゃない」
ずいぶんと不満げだった。
スライムと言えば、RPGなどのファンタジーでお馴染みの魔物であり、ゲームによってはゴブリンのように最弱の存在だ。……主にドラクエとか。
「ダンジョンの一層なら、そんなもんだよ。 下れば下るほど敵も強くなってくる」
「じゃ、下に……ってわけにはいかないみたいね」
「今日は一層だけを見て回るって説明しただろ」
「はぁ」とため息とつくと、「わかったわよ」とアイルは足を速めていった。
そのまま先行して、現れたスライムを片っ端から討伐していく。
それを後から見守っていると、不意に彼女が足を止めた。
「どうした?」と問いかける。
「ねぇ? この先って道が左右に分かれているって――――」
「あぁそうだが?」
俺が答えるとアイルは前方と指差した。
「道は3つに別れているわよ?」
確かに、先は丁字路だったはずが、十字路になっていた。
俺は、魔法で製作した地図を確認する。
俺の保有している魔法は真紅の稲光以外にもう1つある。 それは地図製作系の魔法であるため、過去に来た場所は魔力によって自動で地図に登録される。
しかし、その地図にも前方の通路は記されていなかった。
「新しい通路? ダンジョンが膨張しているのか?」
時折、ダンジョンに変化が起きる場合がある。 例えば、出現する魔物が変わったり、通路が変化したり……
しかし、そういった出来事が起きると大きな話題になる。
未知の魔物が出現する可能性。 それに冒険者たちは沸き立つ。
しかし、その一方で、ダンジョンで取れる資源で商売をする商人たちには死活問題。
なんせ、商売の元が根こそぎ消滅してるなんて可能性もあるからだ。
もっとも、逆に貴重な資源が手に入り、周辺地域の経済が活性化することもある。
俺は首を傾げた。 ダンジョンに新しい通路が生まれたとして、2~3日で立派なものになるわけではない。
短くて1週間。長くて数年。 仮に1週間未満で完成したとしても、誰にも気づかれないという事はありえるだろうか?
冒険者が滅多に向わないほどの下層ではなく1層であるにも関わらず……
「さて、未知の通路なら進むわよ!」
長々と思考していたのが仇となった。
アイルは止める間もなく、ぐんぐんと進んでいく。
「ちょっと待てよ!」とおれは駆け足で追いかけた。
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「しかし、妙ね。もうスライムは見るのも嫌だけど、この通路に入ってから魔物が1匹も出てこないわ」
確かに奇妙だった。 一本道を10分近く進んでいる。
ダンジョンで、これほどまでに魔物が現れない例はあまりない。
誰かがすぐ前を進んで魔物を蹴散らしているのか?
そう考えたが、戦闘の形跡はない。
「……となると……だ」と俺は足を止めた。
「新たな階層主が生まれたのか?」
「かいそうぬし? なにそれ? ダンジョンなのに海草が取れるの?」
階層主……簡単に言えば階層の主だ。
つまりボスキャラ。
ダンジョンには、1層につき1体の階層主が出現する場合がある。
出現する条件は酷く曖昧で、このダンジョンの1層に階層主が出現したという話は聞いた事はない。
俺とアイルが行った何らかの行動が、階層主出現の条件に当てはまったのかもしれない。
それをアイルに説明すると――――
彼女はイキイキとした表情になると、通路の奥に向って駆け出した。
「おいっっ!? 何やってんの! 階層主がいるっつてんだろが!」
「アンタこそ、何言ってるの? 今回は1層だけの約束でしょ? だったら――――
いいのよ? 階層主ってのを殺しちゃって!」
「ダメに決まってんだろ! コラぁぁぁぁ!!」
あまりにも予想外のアイルの行動に追いかけるまでタイムラグが生じた。
一瞬だった。 しかし、アイルのステータスは俊敏SSS。
レベル1とは言え、その速度は俺ですら追いついて止めるのは簡単じゃない。
遅れて追いかけるも時すでに遅し……
アイルの背中に追いついた時には、目前に広い部屋が広がっていた。
階層主=ボスキャラになるなら、ここは所謂ボス部屋という事になる。
そして――――
それは現れた。
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