挫折した召喚勇者は転生勇者の師匠になりました (タイトル変更)
初めての無垢な表情
「なるほど、なるほど……異世界と転生。それに召喚」とギルマスは呟く。
俺とアイルはギルマスに対して、包み隠さずに全てを話した。
ギルマスは笑い飛ばしもせず、疑いもせず、俺たちの言葉を吟味するように繰り返した。
「真面目に考えてる……本当に私たちの話を信じるの?」とアイル。
「そりゃお嬢さん、さっきも言った通りにワシは真偽を見抜く事にかけては自信があるからのう。2人とも嘘はついておらん。ワシはワシの眼力を信じるだけさ。それに……」
「それに?」
「もしも今の話が本当なら、キョウさまは10年間も秘密を胸に秘めて生きた事になる。そりゃ、いくらなんでも不憫ってもんじゃろ?」
老人は似合わないウインクをして見せた。 それから、重々しく立ち上がった。
「ついて来なさい」とギルマスの言葉に従い、俺たちは後を追う。
ギルマスが案内したのは自身の部屋だった。
一見すると質素に見えて、机や椅子……ペンや紙まで一級品が使用されている。
俺が評するなら――――
『意図的に豪華さを隠す遊び心をコンセプトにした部屋』
そんな所だろう。
ギルマスは、そんな部屋の奥に歩を進め、本棚に手を伸ばした。
そのままギルマスは「フン」を力を込め、本棚を横に動かした。
巧妙に隠しているが、本棚の下にはレーンのような物があり、最初から横へスライドできる仕掛けになっていたようだ。
「ここを利用するのは10年以上前じゃからのう。さすがに錆び付いて疲れるわい」
ギルマスはため息をついた。 しかし、本棚を動かした先には何もない。
ただ壁があるだけだった。
それを見た俺は「隠し扉か」と思わず呟いた。
「ご明察」とギルマスは壁に触れる。 すると壁は、まるで自動ドアのように左右に開いた。
酷いカビの臭い。 縄張りを主張するかのようにあちらこちらに蜘蛛の巣が張らている。
それに、積もった埃の量は誰も足を踏み入れていない事の証明。
思わず入るのを躊躇するような部屋だった。
しかし、ギルマスが入ると変化が起きた。
まるで巻き戻しだ。
埃が消えていく。 ……いや、埃だけではない。
蜘蛛の巣も消え、朽ちかけていた紙の書類、机の上の小物たちも、まるで新品のように鮮やかさを取り戻していく。
「部屋を保存するためだけに魔法が仕掛けられているのか……しかし、なんて勿体無い!」
魔力のコスパが悪すぎる。 定期的に掃除しろよ。
毎年、どのくらいの魔力を使用してるのか? 想像するだけでクラクラしてくるような……
「まぁまぁ、キョウさま。 ここはギルドでも秘中の秘。歴代のギルマスにのみ伝えられる秘密野部屋です」
そういうと彼は、資料らしきものの束と何冊かの本を用意し始めた。
「これは?」
「これは、貴方たち2人が最も欲しがっているであろう異世界の資料です」
「……」
「……」
俺もアイルもギルマスが何を言っているのか暫く理解できなかった。
「……私たちの世界についての資料があるの?」とアイル。
彼女が驚くのは無理も無い。
この世界のに人間は誰も知らなかった。 俺たちがいた世界が……こことは違う別の世界が存在してる事なんて、今の今まで誰も知っている者なんていなかった。
もしかしたら、俺の記憶にある世界こそが幻想だったのではないか?
そう思ったことも何度かあった。 アレを手に入れるまでは……
「異世界。貴方たちからしてみたら、この世界こそが異世界なのでしょうなぁ」
ギルマスは資料をアイルに手渡した。
「こことは別の世界。2つの世界は時折、共鳴して互いに影響を与えています」
「なっ!?」と初めて人から得た元の世界の情報。
俺は驚きと興奮を隠せずにいた。 どうやら、隣のアイルも同じらしい。
「それじゃ……あるの? 本当に私たちが元に戻れる方法が……」
いつも、何かに苛立っているように見える彼女。 そうやって自身の精神を武装しなければ正気を保てなかったのかもしれない。
それは、無垢な表情だった。 彼女が初めて見せた……無垢な表情だった。
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