〈並行時空戦争 ─parallel war〉

臼井 リト

事実

「──!───っと!───ちょっと!」
 誰かの声がして、まどろんでいた俺の意識が覚醒し始める。
 ……ん、なんだ……。もうちょっと寝かせて……
「起きなさいよ!!」
 スパァーン!!
「うおあぁ!?」
 いきなり何かに思いっきり叩かれ、飛び起きるように俺は目を覚ました。驚いてまわりを見渡すと、目の前にいたのは、手にスリッパを握りしめた綺麗な黒髪ロングの可憐な少女だった。その顔には呆れの表情が浮かんでいる。
「……ようやく起きた。世話をかけないで頂戴。まったく……」
と、少女がこちらを睨み付けながらぼそりと一言。
 ……あ、思い出した。俺はこいつに殺されかけたのか。……てか、世話をかけないで、だと?
「てめぇ俺を殺しかけといてなに言ってんだ!?死ぬかと思ったぞ!?」
「うるさいわね。あの程度じゃ死ぬことはないし、キズはちゃんと全部治したわ。」
 そう言われ、反射的に俺は自分の体を見渡す。
 ……なぬ。ほんまや。キズが綺麗さっぱり無くなっていやがる。
「え?治癒魔法?そんなんあんの?」
「はぁ?ないわよ、そんなもの。本の読みすぎよ。使ったのはこれ」
 そう言って、少女は俺の寝ているベッドの隣の机にコトンと何かを置いた。
 少女が置いた物を見て、俺は目を見開いた。それはとてもコンパクトなただの白い箱だったのだ。
 こんなもので俺のキズをどうやって治すんだ?
 俺が首を捻ると、少女が怪訝な顔で言った。
「なにをそんなマヌケな顔をしているの?……まさかこれを見たことがない?アナタ、どれだけ貧困な生活を送ってきたの?」
「……え?は?貧困?いや、俺はごくごく普通の生活をだな…てか何それ」
 と俺が言うと、少女は呆れたようにため息をつき、言った。
「……はぁ。しょうがないわね。……これはこうやって使うのよ」
 すると少女は件の白い箱の一辺をつつき、コロンと転がした。とたんにその白い箱が形を変え、薬やらなんやらが詰まっただいぶ昔の外国人のお医者様が使っていたような薬箱が姿を表した(なんか四角い箱が横と上に段々に開いてくようなそんな感じのやつ)。
 突然の箱の変貌に俺は絶句した。
 ……え。なにこれすごい。異世界ってよりかは未来説濃厚だな!
「え、これどーなってんの?ヤバくない?」
 心なしかじぇーけーみたいな口調になってしまったが、少女は意外にあっさり答えてくれた。
「この薬箱は、ここ〈中央基地〉の医療専門室に直接繋がっているもので、その時に応じて欲しい薬とかが転送されてくる優れものなのよ。」
 と少女は若干薄い胸を張る。
 ……なんか自慢げに話してくるが、なんだ?中央基地?転送?なにそれおいしいの?
 一応転送くらいは知っているが普段の生活で使うようなものでもないし、中央基地に至っては聞いたことすら無い。
 基地って、なんかスーパーヒーローとかいっぱい居ちゃったりしちゃう感じ?
 ………いや、別にヒーロー様に興味がある訳ではないが。
 とりあえず、ここ多分異世界ちゃう気がする。
 ここどこ。考えろ俺!
 ───あ。
 そこでふと俺は一つ考えを思い付いた。
 そして目の前にいる少女に目を向け、一言。
「ここ、日本?日本なら今は何年?」
 そう。わからんなら目の前にいい人がいるではないか。自分一人で考えてもどうしようもない。考えがループするだけだ。
 すると俺の質問に少女は特に変な顔をするわけでもなく……
「何を言っているの?アナタ。……まあいいわ。……そうよ、ここは日本。年は───」

「西暦2336年12月24日よ。」

 2336年。その言葉が俺にずしりと響く。
 にせんさんびゃくさんじゅうろく?
 ─────うん?ちょっとまてよ、俺が元いたのが2036年だから………

「300年後ぉぉぉぉぉーー!?」

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