電気使いは今日もノリで生きる

歩海

第8章エピローグ 決別

神無月一週目土曜日


「クレア!」


立っているクレアに僕は語りかける。でも、少し呼吸がしずらい。息苦しい。


『「領域」を発動させなさい』
「え?『電気の領域field』」


声に従って『領域』を発動させる。させると…少しだけ苦しみがなくなった。あれ?でも…これは…きっと


「クレアの『世界』!?」
「…」
「クレア?お前…『世界』を?」


驚いたな。まさかお前も使えるようになっているなんてな。そう思って近づこうとしたら…僕はあたりの異常な光景に気がついた


「え?…死んでる?」


魔物だけじゃない。あたりに転がっているのは魔物の死体だけじゃない。転がっているのは、村人たちの死体だ。でもどうして?僕が意識を失う前には…この人たちは生きていたはずだ


「どうして…死んでいるんだ?まさか…また新しく魔物が」
『いいえ、違うわ』
「え?」


そんな問いにイフリートが答える。え?でも、それなら誰が…ここの人たちを殺したんだ?まさか岩永が?あいつが僕が眠っている間にこの村に来たとでも言うのか?


『それも違うわよ』


…わかってる。誰が、なんて。今この辺りの燃え盛っている炎をみれば、これがクレアの『世界』が発生しているのだとすれば…きっと、これは、


「クレアが…殺したのか?」
「…」
『…』
「何か…言ってくれよ!」


僕の問いに、クレアもイフリートも、どちらも何も答えてくれなかった。それが…その沈黙が否定でないことはすぐにわかった。やっぱり…やっぱりクレアが殺したのかよ


「どうして!どうして…」
『あなたは何も思わなかったの?蛇を倒した時はあんなに歓迎ムードだったのに…今、帰ってきたら、どんな対応をされたのか』
「それは…」


正直言えば何か思う前に気を失ってしまったんだけどさ。でも…今思えば…かなり怒りを覚える。


『…これがこの世界での、現実よ?』
「…」


なんの話をしているんだ?この村だけの話じゃないのか?何か、ひどくスケールの大きな話をしているんだということはわかる。でも、考えられることがあるとすれば


「だから…クレアはこの『世界』を変えようと…」
『そうなるわね』
「…」


そうなのか…だから、


ーその力を手に入れたものは呼ばれる、「魔王」とー


急に闘蛇の言葉が思い出される。いや…まさか…まさか


「お前…魔王に」
「…」
『さあ?これから次第、ね。一人生き残りを逃したからすぐにここに人が大勢来るでしょうね。魔族の力を手に入れたクレアを殺しに』
「そんな…クレア!お前はいいのか?そんな風になって…それでもいいのか!」
「…いいよ」
「!」


初めてクレアが口を開いた。ただ、内容は…残酷なものだった


「クレア…」
「構わないよ…だって僕は覚悟したんだから」
「覚悟しらからって…」
「そして、僕はこの世界を変える…今のこの悲しい流れを変える。こんな悲しい想いなんてもうしたくないんだ」
「…」


その気持ちはわからないでもない。僕だってそりゃ、憎い気持ちがある。多分…クレアじゃなくて僕が殺してしまう可能性もあった。でも…だからって


「お前が魔王になる必要なんてないだろ…」
「いや、僕がなる意味があるんだ」
「意味?」


クレアはこちらを振り返る。その目は…今までのクレアと大きく違っていた。とてつもなく大きな覚悟を決めた目をしていた。


「今この世界にない…『冥』の国の王家の人間だからこそ…魔王になる意味がある」
「え?」
「魔王が…この世界がこんなシステムだったなんて…だから、僕はもう、この道を進むと決めた」
「ふざけんなよ!」


クレアはきっとイフリートたちが隠していた秘密とやらを知ったのだろう。だから、それに賛同してこんなことをしているのだろうか。でも、お前は本当にそれでいいのか


「お前、自分の国を復興させるんじゃなかったのかよ!…その夢は…こんな形で終わらせていいのかよ」
「…」
「おいっ「『火のflare・世界world』」…クレア!」


慌てて僕は『世界』を発動させる。そうでもしなければ…きっと僕も同じように燃えてしまっただろう。


「おい!クレアっ」
「もう…君と話すことなんてない!…この世界の住民じゃないミライには」
「待てよっ」
「お前は自分の世界に帰れ…この世界のことは、僕が引き受ける」
「待ってっていっているんだよ『thundervolt』」


僕はクレアを止めるためにクレアめがけて電撃を放つ。


「くっ、本気で止める気かよ」
「当たり前だろうが…『電気鎧armor第三形態third』」


何を勝手に話して勝手に帰って行こうとしているつもりなんだよ。それで、僕に自分の世界に帰れってか?そんなことを…そんなことをお前はなんで言うんだよ


僕はクレアめがけて走った。でも…走っている時に突然、『電気鎧armor第三形態third』が消えた。僕は崩れ落ちるように倒れてしまった。


「なんで…」
『限界ね…あんだけ魔法を使っていたらそりゃそうでしょ』
「驚いたよ…でも、これはこれで好都合だ」


そのままクレアは僕を振り返ることなくどこかへと去っていく。そんな…クレア、どうしてしまったんだよ。どうして…そんな風に、変わってしまったんだよ…おい、クレア…


「うっ…また…」


またしても意識がぼんやりとしてくる。くそっ、今すぐにでもクレアを追いかけないといけないのに…今すぐにでも追いかけて…あいつを止めないといけないのに。くそっ、くそっ…














「おい、起きろ」
「うっ」


急に体を何かで殴られる感覚がして目を開けると…複数の人間の姿が見えた


「う…」
「目を覚ましたぞ」
「こいつは…間違いないダンジョンの不法侵入者だ」
「あ!シオン様たちを急襲した奴じゃないか」
「こいつが…魔王の協力者」


様々なことを言いながら僕を連れ去ろうとする。ぐっ、体を動かそうにも一切体が動かない。抵抗したいけど…その気力さえもない。動けよ…動いてくれよ、頼むから


なすすべなく僕は…男たちに連れ去られて…そして、この世界の刑務所的なところに、収監されてしまった。罪状は…魔王の協力者。この世界の敵。それが…僕の決して変えようもない現実だった。

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