電気使いは今日もノリで生きる

歩海

魔王登場・表

神無月一週目土曜日


ひたすら走った。『電気鎧armor第五形態fifth』を発動させて全力で村へと走った。闘蛇と別れてしまったのは少し悪手かもしれない。もっと正確に言うのならば何もなく別れてしまったのは良くなかった。今…きっとクレアが二つ対処してくれているだろうから残りひとつの集団がどこにいるのか大雑把な位置を教えてもらえば良かった。そうすればどこに行くのか迷うことがなかったのに。ひとまず最悪の事態を考えて村へと向かっている


「はぁ…はぁ…」


いなくなってわかる。イフリートという全部のことを知っている存在がいて、細かいことを教えてもらえるってことはとてもありがたいことなんだろうなって。そりゃ知識は正義だわ。人間の欲望のひとつにあてはまるわけだわ。知識欲ってね。


「あそこか…」


見えてきた…向こうに煙が見える…目印としてはありがたいんだけど逆に言えば今煙がでるような状況になっているっていうことだよな。それだけ村が緊迫した状況になっているということなんだよな。


さらに近づいていくと所々から悲鳴が聞こえて来る。くそっ、こんなことになるなんて…まさか魔族の王様が出てくるなんて想定していなかったからしょうがないんだけど…ていうか僕毎回毎回王様に見逃してもらってないか?吸血鬼のやつしかり蟲の王しかり今回の水の王然りさ


もっと強くならないといけないな…でも今はそんな雑念を忘れよう。そんなことを考える暇があるのなら…今、この村を襲っている魔物を全部殺し尽くそう


「まずは数を把握、『電気の領域field』『感知feel』」


正直言って魔物も人間も区別することがほとんどできていないんだけど、それでもどこにいるのかだけはわかる。あとは視覚情報を頼りに動けばそれで問題ない。


「!、君は」
「助けに来ました!魔物はどこですか?」


村人がいた。よかった。生きている人がいた。だから僕は安心してその村人に近づいていった


「ふざけんなよ。此の期に及んで…」
「え?」
「お前のせいで…お前らのせいでこんなことになっているだろうが」


油断していたというのもあるけど村人から急に殴られてそれに対応することができなかった。なにが起きたのかわからなかった。気がついたら僕は地面に転がっていたから。パニックになりかけているけど、頭上から何かが接近してくるのに気がついて体は勝手に反応する。横に体を捻ることで攻撃を避ける。


「なんで…」
「はぁ?てめえらがいなくなったと思ったら急に魔物が攻めてきて…お前らなにが狙いだ!シバさんが死んだから戻ってきたのか」
「え?」


シバさんが…死んだ?え?ちょっと待って、それ、どういうことだ?愕然とする僕に目の前の村人は吐き捨てるように言葉を発する


「結界を解いてすぐに無理やり結界を張ったから…その反動で…お前らだろ!お前らが…シバさんを唆したんだろ」
「ち、違う」


唆したとか、そんなことは決してない。これは、そう対等な契約だったはずだ。僕は探し人を見つけたい。そしてシバさん側も邪魔な魔獣を倒したい。そんな風に思っていて互いに利害が一致したからね。しかしそんな説明をしたところでこの人が納得してくれるかと言われたら絶対に納得してくれないだろうな。


「なにが違うんだよ…村をこんな風にして」
「…」


まあ、そりゃあ僕たちがきたことでこんなことになっていると思いますけどでもそこまで僕たちを否定しなくてもいいじゃないか。そんな風に反抗的なことを思っているのが顔に出てしまったのだろう。さらに怒らせてしまった


「お前…そんなに違うっていうのなら、この魔物達をまとめて倒してみろよ」
「…わかりました」


そこまで言われてしまったのならしょうがない。一撃で全部終わらせるしかないな。さて、どうやればいいかな。『thundervolt』でも使ってみるのもいいのかもしれないが少し狙いが甘くなる可能性がある。その前に『世界』でこの村を全部覆うことができることが条件だ


「どうしたどうした?お前できないのか?」
「ちょっと待ってろよ」


ふぅー。息を吐いて呼吸を整える。以前範囲を広げすぎて暴走してしまったことがあるからそれだけは気をつけるようにして…いや、そんな風に後ろ向きなことを考えてはいけない。ここは本気で勝負を決めるつもりで覚悟を決めるしかない


「『電気の世界world』!!!」


思いっきり魔法を使う。できる限り、力の届く限り…多分、感覚でしかわからないけどこれは村を全て覆っているな。


「な、なにをしているんだ…」
「『感知feel』」


そばにいる男がなにか叫んでいるが全て無視。『世界』発動中なら…その範囲内にいるのなら、その電気回路の構造によって種族を判定することができる。どれが人間でそれが魔物なのか見分けをつけることができる


「『針金needle』」


そして、その魔物の反応があったところに向けて、地中にある砂鉄を槍状にして突き出す。次の瞬間には辺り一面に断末魔の叫びが響き渡った。村じゅうのいたるところで、一斉に。


「はぁ…はぁ…げふっ」


さすがに負荷がかかりすぎたのだろう。魔法を使った後に血を吐き出してしまった。身体中の魔力のほとんどを使ってしまった気がする。体がふらつく。


「…これで…満足ですか?」
「…」


近くにいる男に語りかける。さあ、お前の注文通り、この村にいる全ての魔物を殺し尽くしたぞ。これで…十分だろ?


「ひぃぃぃぃぃ」
「…」
「ば、化け物!」


なぜか怯えられてしまった。え?僕そんな怯えられることしたっけ?そりゃあ確かに人間業とは思えない所業を行っちゃったけどさ


「ま、まさか全部計算だったのか!これで村を救えば完全にお前は俺たちの信頼を得ることができるわけだ…騙されないぞ」
「え?」


いや、ちょっと待って。なんかおかしな空気になってきているんだけど。なんで僕がそこまでしないといけないのか


「痛っ」


旧に頭に痛みが走る。見れば、僕に石がぶつけられてた。頭に当たったのだろう血が流れているのがわかる。


「村から出て行け!化け物はこの村にいらないんだよ」
「お前がこの村にあの蛇をけしかけたのか!」
「そしてシバさんの命を…出て行け!」


そう言って次から次へと石が投げられてくる。いや、ちょっと待ってよ。これは…誤解だよ。偶然と…ちょっとした悪意が重なって起きてしまった悲しい誤解だよ。


「なにをぐちぐち言っているだ!」
「うるさい、出て行け!」
「死ね!」


かなりの数の石が僕に向かって投げられてくる。その中にはやばいところに当たることもあって…そして僕はそのまま気を失ってしまった。











……




………




あたたかい?


どれくらい時間が経ったのだろう。暖かい感覚がして僕は目が覚めた。うっすらと目を開けるとあちこちで家が燃え盛っているのが見えた。え?いや…僕は全ての魔物を殺したから生き残っている魔物はいないはずなんだけど…


「クレア?」


完全に意識が戻った僕が見えたものは…燃え盛る炎の中に燦然と立つクレアの姿だった。…これは…まさか、クレアの…


「『火のflare・世界world』」

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