電気使いは今日もノリで生きる

歩海

水の王

神無月一週目土曜日


「イナガ…君が『水』の王だったんだね」
「ああ、闘蛇が言ったんだね」
「でも他の魔王と違って威圧感がないんだけど」
「ああ、今魔法を被っているからね」


つまり偽装をしていると、だからイフリートは気がつかなかったんだな。でもそれならそれで偽装の魔法の痕跡でバレそうなものなんだけどな


「まあ、そこはうまいことやったんだよ」
「そんなもんなのか…」


はぐらかされてしまった。でも、なんで今ここに出てきたんだ?わざわざ出てくる意味がないと思うんだけど。あ、もしかして


「この闘蛇が狙いなのか?」
「うーん、もういいかな。玄武もいた方が役者が揃う・・・・・って感じで好きなんだけどね」
「ならどうして?」
「ん?そりゃあ…君とこうして話してみたかったから、かな」
「は?」


イナガの答えに愕然としてしまう。僕と話をするため…それだけのためにこいつは魔物の群れを集めたのか?そんなことのために、ここまで大事を作り出したのか?


「そんなことって…結構大事なんだけどね」
「何を知っているんだ?」


こいつも何か、知っている気がする。イフリートが頑なに話そうとしないことも全て。あ、こいつ魔王か。


「ま、そこまで気にしなくてもいいよ。ところでさ、君の纏っている魔法、すごいね」
「…」
「ふーん、電気を循環させているのか。それでエネルギーを増幅させていく…面白いね」
「ありがとう…と言った方がいいのか?」
「ははは、魔王からの言葉だ。ありがたく受け取りなよ」


ならありがたく受け取らせてもらおうかな。僕の魔法はユニークだっていろんな人に言われているからね。話をしながら僕はイナガの隙を窺う。でもこいつ、一見だらけているようでいて自然体の姿勢を取っていて隙なんて微塵もないんだけど


「まったく、そう警戒しなくても攻撃するときは教えてやるって」
「いや、不意打ちを狙ってる」
「お前勝負の美学とかを求めないのか?」
「勝てば官軍だろ?」
「…」


僕の言葉にどこか引っかかったのか、急に考え込む。これは…攻撃のチャンスなんだろうか。でももしかしたら誘っているという可能性もある。相手のスキルはおそらく「水」で間違いないのだろうけど…てか水なら大分相性的には有利なんだよな?


『気をつけろよ。あいつは確かに水の魔法を使うが…どうやら氷の魔法や、の魔法までも操るからな』
「は?」


いや、氷の魔法ならわかる。シオン先輩も使っていたし水を凍らせることで使っているのだろうなってことはわかる。でも風ってどういうことだよ。まったくつながりがイメージできないんだけど


「はぁ、全部バラすなよ…あーわかるかどうか知らないけどさ、水蒸気だよ」
「…気体かぁ」


なるほど、水の形態変化のもう一つ、水蒸気。それを利用することで空気の流れを作り出し、そして風系統の魔法を生み出したと。そんなこともできるのかよ…ん?こいつって昔の人だよな?それにしては…地球の知識を持っているような。この世界でも習うって言われたらどうしようもないけどさ


「にしても黙っていろよ。闘蛇、つまらないだろ?」
『ふん、貴様の情報が少ないから教えてやっているのだ、イワナガよ。さすがに少しは話しておかないと不平等だろう?』
「あっ」
「え?」


おい、ちょっと待て闘蛇。お前今イナガのことをなんて呼んだ?


『ん?そういえばイナガって誰だ?』
「あいつの名前じゃないのか?」
『違うぞ…あやつの名はイワナガだ』
「…」


僕は信じられなかった。いや、そういえば宿の主人が言っていたな。「イワ」という言葉に反応したと。それはこいつの本名がイワナガだから反応したのだろう。ニックネームとしてはありがちな言われ方だろうし。


「本名まで言われるとは思ってもなかったよ」
「まあ互いに名前を名乗るのは武士の礼儀だろ」
「…まあ、それもそうか改めて名乗ろう。僕はイワナガ ヤスヒサ」
「紅 美頼だ」


お互いに名前を名乗る。こいつが来てから惑わされてしまったけど今現在進行形で魔物が村へと突撃している。早いところ討伐しに行かなくちゃ


「うーん、悪いけど行かせないよ?今の君の実力じゃ、一瞬で片がついてしまう」
「それでいいんだよ」
「まあ、そうなんだけどさ…君を足止めした方が面白くなりそうなんだよね」
『…まさか、お前』


闘蛇が何かに気がついたようにイワナガの方を見る。僕はまだこいつの目的が全くわからない。何が目的だっていうんだろう。あの村に何かあったっけ?うーん、考えられるとしたらガイアぐらいか?


「さて、ミライ、僕としてはもう少しお話ししたいんだけど…」
「村を助けないとね」
「どうしてそこまでするんだい?君はここの村と…はっきりいってしまえば無関係だろ?」


そりゃあ…まあそうなんだけどさ。でもこの村ってシェミン先輩の故郷でもあるんだよな。それに先輩の友人もいる。僕が守る理由もそれで十分だろう。ああ、おまけで言うとしたら


「袖振り合うも多生の縁ってね」
「…そうか。そんな諺もあったね。まったく見上げた精神だよ」
「でもまあやっぱり先輩の故郷だからって側面が強いんだけどね」
「先輩?…へえ、それは」


少し驚いたように僕を見てくる。どこが不思議な点があったんだろうか。


「いや、そうか、先輩、か」
「急にどうしたんだよ」
「僕にもいたなって思い出してさ」
「へえ」


興味ない。てかそろそろ話に飽きてきたので僕もう向こうに行ってもいいですか?村の様子も気になってきたし


「それもそうだね…じゃあ、戦ろうか」
「!」


一歩引いて戦闘態勢をとる。こいつはこれでも王様だ。全力で戦わないとすぐにこっちが死んでしまう。


「『電気鎧armor第三形態third』『感知feel』『創造creat』」
「さて、僕もこの状態じゃあまともに戦えないし…『水纏い・解除』」


水がイワナガを覆い尽くしたかと思ったらそれが引いた瞬間にイワナガの姿が変わっていた。顔の形も変わって…今までは中の中だったのが上の下にレベルアップした


『電気使い…』
「なんだよ」
『いや…なんでもない』
「『さて、それじゃあ始めようか…君に合わせるよ』」


手を前にかざすと何もない空間から一本の剣が現れた。これは、空間魔法?「『蜃気楼だよ、普段は隠しているんだ』」ああ、それで


「剣術での戦いか」


実は相手が剣を使ってきたことはあんまりないんだよな…。だからどうやって立ち回ればいいのかよくわからない。アニメとかで見た知識を思い出すしかないな。それでも僕は砂鉄の剣を握り直す。大丈夫。身体能力は強化されているしなんとかなるだろう。適度に魔法も放てばいいし


「ふっ」


まずは真正面に突っ込む。上に振りかぶって振り下ろす。イワナガは剣を横に構えて受け止める。そこから流れるように受け流していく。そのまま僕の顔にめがけて突き出してくる。


「『…そんな使い方もできるんだ』」
「砂鉄だからね」


自由自在に動かすことができるからそれでガードする。剣術だけで戦わなければいけないなんて誰も言っていないもんな。そのまま砂鉄を伸ばしてイワナガの耳を狙う。


「『甘いよ』」


体を捻られて避けられた。その回転を利用して僕を思いっきり蹴ってくる。


「ぐっ」
「『君…素人?真っ直ぐすぎるよ。僕が本気だったらもう死んでるよ?』」
「まじかよ」


速攻でバレた。でも僕を飛ばしたのは失敗だよ。蹴られる直前に僕は魔法を解除した。だからイワナガの周りには砂鉄が錯乱している。


「『爆発dynamite』」


虚をついた攻撃で、イワナガの周囲が爆発した。

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