電気使いは今日もノリで生きる

歩海

追跡魔法

神無月一週目土曜日


一夜明けて…その日もまた昼間はのんびりと村を散策して過ごした。ここの村の人たちはみんな気がいい人が多いみたいで僕たちをかなり好意的に受け入れてくれていた。イナガとはもう一度会いたかったけれども再開することはなかった。宿の人に聞いてみたけれど今日は朝からどこかに出かけているらしい。うーん、どうせなら少しだけ探りを入れたかったんだけどな


「そういえば」
「?、何かあったのですか?」
「一つだけだが、ちょっと気になることがあったな」


それはまだイナガが来て間もなくの頃、宿の主人が狩猟に言った帰りのこと、食堂でイナガたちと4人で食事を取っていた時だった。その時は今よりも打ち解けていなかったのでイナガは少しだけ離れたところで食事を取っていた。そして家族三人で話をしていた時に、ふと、今日の狩りの話題になった。その日は主人は立派なイノシシを捕まえてきたのだ


「それでどうしてそんな大きなイノシシを捉えれたんですか?って妻に聞かれてよ、『岩のおかげだな』って返したんだ。間違っちゃいない。イノシシを追っていたら上から岩が落ちてきてそれに潰されてしまったからな」


そんな感じで話を続けようとしたら思いもよらない声で中断されてしまった。イナガが急に「え?」と声をあげたからだ。それから主人のほうを呆然と見ていたあと…「あ、すみません呼ばれたかと思いました」と笑いながら謝ってきたのだという。岩とイナガ、確かに発音が似ているから聞き間違えることはありえるが、それでもこのことを主人が言った理由は


「それからあいつと距離が縮まったというかさ…なんていうか岩って聞いた瞬間に少しだけ懐かしそうな表情をしていたんだよな」
「そうなんですね」


もしかして昔のあだ名だったとか?でもどう考えてもイナガが岩になるなんてありえそうにないんだよな。まあ…これも主人の言うようにたまたまなのかもしれないけどな。


「ま、あいつのことは一旦放っておいて、まずは」
「そうだな」


僕は自分が今いる場所を見渡す。シバさんの館の一室…というか地下室。そこには何やら怪しげな魔法陣が描かれている。そしてそれを囲うように僕、クレア、シバさん、ガイア、ソニアさんがいる。イフリートは闘蛇と一緒に周囲の警護に当たっている。結界を解いた直後に魔物に襲われてしまったんじゃあ僕達が駆けつけるのが間に合わない。


「それで…どっちが向かう?」
「は?二人ともじゃないのか?」
「いやいや…探知魔法の様子を聞かないといけないわけでしょ?ミライお前はここに残れよ」
「…」


まあクレアの主張も筋が通ってはいる。でも大体の場所が分かればそれでいいと思うんだけど


『心配しなくても私の探知魔法は一週間程度は持つわ…対象の相手がどの方角にいるのか示してくれるし』
「なら安心だな」
「それじゃあ…始めようかな、ガイア」
『ええ、そうね』


シバさんは魔法陣の中心に立つ。あれがこの街を覆っている結界の魔法陣何だろうな。そしてそれを今から解くと。


「『解除』」
『「解除」』


二人がつぶやいて…そして魔法陣がゆっくりと消えていく。それと同時に辺りに漂っていた魔力が消えていくのがわかる。何これスゲェ。今消えていくのを目の当たりにしているから気がつくことができたけどこの結界…かなり隠されていたんだな


『大地の精霊・ガイアの名のもとに命ず、大地よ、探し人の痕跡を我に示せ』
「『追跡』」


シバさんが両手を合わせて祈るように魔法を発動させる。てかガイアが詠唱をしているんだけど。なんかすげえ。驚きに僕は目がまん丸になるこの世界に来て初めて聞いた気がするなぁ


固まっている僕達の前でコンパスのようなものが生成される。そしてそれを僕に差し出してくる


『探し人の名前を』
「シェミン…シェミン・ルーナー」


シェミン先輩の名前を告げるとコンパスが一度光った。


『これで終わり…あとはこの指針が赤い方に進んでいけば会えるはず。でも継続時間は一週間程度、それだけは注意して』
「ありがとう…ところでさっきの詠唱は?」
『君たち「姫」の痕跡何も持っていなかったでしょ?それなのに探すには私の名前が必要だったのよ』
「あ…すみません」


こういう時のために何かシェミン先輩の私物を持ってきておいた方が良かったのかもしれない。でもさすがに先輩の部屋に入って物色するのは気がひけるしな。そもそもこんな風に探すことになるなんて思ってもみなかったしね


手のひらに置かれたコンパスを見る。赤い方が示している先には…うん、ここ地下室だからどこを見ても壁だったな。僕はもう一度シバさんにお礼を言おうと向きなおる


「あれ?シバさん?」
『久々の大魔法で疲れているだけよ…ソニア、シバを運んであげて』
「…多分聞こえていないよ」


ソニアさんはシバさんが倒れてしまったのをみてかなり慌ててしまっている。いや、これ聞こえていたとしても耳に入っていない可能性があるな


「ソニアさん!」
「は、はい」
「ガイアからです。命に別状はないのでゆっくりと休ませるようにと」
「わかりました…失礼します」


僕の言葉を聞いた瞬間ソニアさんはシバさんを担ぎあげるとそのまま上に上がっていってしまった。いや、すごい勢いだったな


『あんたらも感心していないで外に出たら?多分大丈夫だと思うけど魔物が来る可能性があるんだから』
「それもそうだな」


ガイアに言われたので僕達も外に出る。ここは夜になるとほとんどの人が寝静まるのかほとんど音が聞こえない。静寂が場を支配している。大きな騒ぎが起きているような感じはない


「これなら大丈夫そうだな」
「それよりもイフリートはどこだ?」


外にいるはずのイフリートを探す。あいつどこで見張りをしているんだ?『あ、いた!』声が聞こえたのでみてみれば向こうからイフリートが飛んできているのが見える。闘蛇も一緒だ。あれ?なんか焦っているようだけどどうしたんだ?


『二人ともどこにいたのよ!』
「いや、今外に出たところだけど」
『そ、それもそうね』
「慌ててるけどどうしたんだ?」
『…貴様ら、よく聞け』
「あ、はい」
『魔物の大群がこの村にやってきておる』


…は?


「ちょ、どういうことだよ」
『この辺りにいる魔物が一丸となって襲ってきておるのだ』
「いや言葉を変えたところで変わらないよ…」
「そんなことをしてる場合かよ…イフリートその魔物はどこにいる!?」
『4方向から襲ってきているわ』
「まじかよ」


僕とクレアが一つを担当するとしてもあと二人必要だ。この村で戦力になりそうな奴は?


『無理よ…こないだのことを覚えていないの?正直ガイアの結界があったからこの村は持っていたようなもんなのよ?』


まじかよ。それなのにどうして僕達のために結界を解除してくれたんだろうか。確かにあの大蛇を倒したけどさ。その見返りにしては大きすぎないか?


『まさかここまで大群が来るとは思っていなかったのだろう』
「ならなんで?」


僕は聞くと闘蛇はわかりきったことを聞くなという態度でこちらをみてくる。いや、わからないんだけど


『知れたこと…気づかれておったのだ…そしてその日に合わせられた』
「まさか」
『「水」の王…あいつがこの騒ぎの元凶だ』

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