電気使いは今日もノリで生きる

歩海

国をかけた戦い、決着

葉月二週目風曜日


「『精霊の炎』」
「『さすがにそれは防ぎようがないわね』」


イフリートから炎が放たれる。そしてそれを避けるあいつ。でもその動きにはまだ余裕が感じられる。


「『まだ精霊とのコンビネーションがうまくいっていないみたいね』」
「くっ」
『だって私あんまり戦闘に参加してないもの』
「『もう少し戦いなさいよ』」
『嫌よ。疲れるし』


そんなことを精霊が言っていいものなのだろうか。精霊なんてそれこそ人と契約したらずっと戦いに巻き込まれる存在なんじゃないだろうか。絶対に安定とかと無縁の存在になりそうなんだけど


『なんで私に憐れみを向けるかなー』
「本人は戦いたくないのに周りがそれを許さないなんて」


ん?でも、よくよく考えてみればイフリートは精霊な訳で。絶対にそこらへんの人間よりもはるかに強い訳で。戦いたくないっていう割には戦ったらめちゃくちゃ強いんだよな。うわーなにその主人公


『そして一瞬で評価を変えたわね…』
「『大丈夫?語彙力の低下が凄まじいわよ?』」
「二人して僕の心を読むな!」


そしてなんで僕は敵にこんなにも心配されなくちゃならないんだよ。


「なら僕に、倒されろ!」
「『それは無理ね』」


あいつに向かっていく。振り上げた拳も、回り込むように蹴り込む足も全て避けられる。


「『もっと洗練しなくちゃダメよ』」
「うぐっ」


見えなかった。あいつの手刀が首に当たったのは間違いないんだけど僕には一際気づかれることなく攻撃してきたんだけど。首筋に思いっきり衝撃が来て意識が失いかける。でもまだ失う訳にはいかない。それに、今の僕なら


「死なない限り、動けるんだよ!『放電thunder』」


至近距離から攻撃を放つ。あれ?そういえば電気の速度ってどれくらいなんだろうか?雷も光だから…いや違うな光と電子は別物だけどその速度ってどれくらいなんだっけ?


「『まあ私が躱せる程度の速さってことね』」
「まじか」
「『flare』」
「『あら』」
「熱っ、クレアそれ僕まで巻き込んでる」
「え?まじで」
『あちゃーやっぱいきなりコントロールは無理か』
「お前はクレアになにを入れ知恵したんだ!?」


後ろから突然かなり灼熱の炎が向かってきたんだけど。そしてそれはかなり熱くて…ん?なんかかなり臭い匂いがするんだけど『あ、ミライの髪の毛焦げてる』ねえ見方を焼かないでもらえませんか?てか今まで僕よく焼けなかったな


「一応コントロールしてたんだけど」
『今のは精霊が扱う焔な訳で…今のクレアには無理みたい』
「『無理なことをさせないでよね』」
『でもこれで距離をとることに成功したわよ。もう少し耐えなさい、ミライ、クレア』
「はいはい」


確かに今の魔法はあいつにもそれなりに効くのかあいつは僕らから距離を取っている。そして距離があるということはあいつの攻撃に関して少しだけ…ほんの少しだけこちらに向かってくるまでに猶予が与えられたということだ。あいつの攻撃速度がどれくらいかはまだ把握していないけれど、『蟲翅』程度の速度ならばまだ対応できる。


「『もう少し実力を見たいわね…「酸の雨」』」
「『放電thunder』」
「『火の玉』」


液体なら僕の電気である程度蒸発させることもできるしそもそもクレアがいるから液体は全て気化させることができる。あれ?そういえば気化したら逆にまずくないか?だって酸なんでしょ?


『あなたの「領域」内だからあの程度の毒ならあなたは喰らわないわ。それにクレアも私がいるし平気よ』
「『ええ、これくらいなら大丈夫なのね。もう少し強くしようかしら?』」
「やっぱりまだ上があるのかよ」


でも毒に対して僕らはどうすればいいんだ?解毒する方法なんてまったく知らないわけだし。それこそ口に入れる前に洗浄なんて無理にもほどがある。液体なら電気分解でってことが可能なんだけどね…ん?そういえば化学でなんか習ったような気がするけど


「『じゃあ試してみようかしら?「毒の弾・蠍」』」
『気をつけて』


蠍の毒ってどれくらいの強さなんですかね?あの尻尾に刺されると毒を注入されてしまうんだよな。でもそんなにニュースとかで死者が出たって話は聞かないけど…


『どっちみち凝縮されていたら関係ない話よ』
「それもそうだね」
「『領域』で弾くことができるんだよね?『火の領域fire・field』」
「すまん」


僕は今ずっと『領域』を展開しているわけでクレアじゃないと『領域』を発動させることができないんだよな。これであいつの魔法を一時的に退けることができた。でも次攻撃されたらまた考えないといけないから結局先延ばしにしただけに過ぎないんだよね


「『ふふっ、なかなかやるわね…あら?』」
「『阿修羅』」
「「!」」


突然あいつが明後日の方向を向いたので何事かと思ったらその方向から無数の剣が飛んできた。この魔法は確か…


「よく耐えたな、ミライ、クレア」
「もう…大丈夫」
「僕たちがきたから」
「なんか私のせいで危険な目にあわせてしまったみたいですね」
「私も決着をつけました」
「『あら、私以外負けちゃったのね』」
「先輩!」


先輩たちがきた。あたりを見渡してみればシズク先輩の父親を含め、先輩たちが相手にしていた人たちは全員倒れている。そしてセリア先輩もこちらに戻っている。つまり、サリア先輩とシェミン先輩が勝ったのだろう。だから僕らに助けに来た


「ば、ばかな。我が国の精鋭たちだぞ…なぜ負ける」
「『残念ですけど陛下、相手は精霊の契約者やら人類の希望とかでもっとすごい人たちだったみたいでしてね』」
「…ふざけるな。おい、お前なんとかしろ」


あ、シオン先輩の父親まだ生きて居たんだ。すっかり忘れてしまっていたよ


「父上!我々の勝ちです」
「そんなことはない。お前らはこいつに勝っていないのだからな。おい、魔族よこいつらを全員殺してしまえ」


ええ、この状況においてもまだ足掻こうとするのかよ。人数的に見てもこちらが圧倒的に有利だっているのに。本気を出していないとはいえあいつを僕ら二人で抑えることはできているわけだし僕よりも強い先輩たちならきっとあいつの本気でも戦えるはずだ。


「『うーん』」
『どうするの?殺すの?』
「『そうねぇ、私としては殺してもいいのだけど』」


ちらっ、僕らの方をみてそう答える。なんで僕らだけを見て言うんですかね


「『姫に人類の希望、それから精霊の契約者を殺すのはまだその時・・・ではないのだけど、それ言っちゃうとあんたの契約者も殺せなくなるのよねー』」
『まあクレアは特例でいいわよ』
「今すっごい自然に売られたね」
「ねえ、どういうことなの!?」


こればっかりはコミュニケーション能力が低いと言われている僕だってわかったけれどね。要はクレアは僕と同じ立ち位置にいるってことになるのだろう。僕は精霊と契約をしているわけでもないし特別な力を持っているわけでもない。この中で一番普通だ。だから真っ先に殺されるものの筆頭になるだろう


「『そうねぇ、まだまだ甘いところもあるけど、今殺そうとしたら姫とかと戦うってことも考えて、それにもう少し成長した姿を見たいってことを踏まえて今回は撤退しましょうかね』」
『そう、そうしてくれると助かるわ』
「及第点が出たのか?」


そんなことを言っていましたねー。ポツンと尋ねるクレアに対してあいつは笑って答える


「『いいえ、今回は採点しないでおいてあげる。今後に期待ってところね』」
「そうですか」


不合格っていうことですかそうですか。そう言い残すとあいつはこの場から去ろうとする。魔族の王だから放っておくわけにはいかないけれど今回は優先順位ってものがある。悔しいけれど見逃すしかないのかな。


「待て!お前、私はどうなる」
「『あ、忘れてたわ』」


あいつは風の国の王に近づいていくと…なぜだろう嫌な予感がするんだけど。先輩たちもあいつの動きに注目する


「『あなた、もう邪魔よ』」
「ぐわああああああああああああああああああ」


ブスリっ、そういう音が聞こえてきたかと思うと王様は絶叫した。みれば王様の肩になにか牙のようなものが刺されている。あれで刺されたのか。てか最初っから僕らにあの攻撃をされてたら終わっていたな


『まずいわね』
「…逃すと思うのか?」
「『いいえ?だからこの男の相手を頼むことにしたわ』」
『やはりか』
「どういうこと?」
『あいつ、王様を魔物化させたのよ』
「「えぇ!?」」


僕らが見ている視線の先で、絶叫を上げていた王様はその姿を人間から魔物の姿へと変えていった。

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