電気使いは今日もノリで生きる

歩海

悲劇の幕開け

葉月一週目火曜日


「ナナさん!」


倒れているナナさんのものに駆け寄る。………呼吸がかなり浅い。出血もかなり酷い。イフリート急いでメイさんを呼んできてくれないか?すぐに治療しないと『いいわ』なんてことを言うんだよ


「まさか………」
『もう、手遅れよ。今から呼びに行ったのでは間に合わない』
「そんな」


絶望の表情をしているだろう。ムツキさんに続いてまさかナナさんまで。というかなんでナナさんがこうして殺されなければならないんだ


『知らないけど時期的にこの子たちを襲ったみたいね』
「それなら」


今メイさんとイヨさんが危ない。いやメイさんは少なくともかなり強いみたいだし大丈夫だろう。でもイヨさんは………不安なことを考えなくて済むように頭を振る。今すぐにでも見つけないと


「あ………」
「!」
『息が残っていたのね』


なにを言おうとしているんだろうか。ナナさんの口元に僕は耳を近づける


「この声………ミライくん?」
「うん、そうだよ」
「そっか。イチカから聞いたわ。私たちのこと、知ったのね」
「うん」


なにがあったんだろか。できれば知りたい。でも、それを聞いてもいいのだろうか。それにイチカって誰?そんな様々な思いが僕の顔に出ていたのだろう。少しだけナナさんは微笑む


「わかってるわ。あなたが私たちを救おうとしてくれたって。私はそれに巻き込まれただけ」
「それって………」


ナナさんの言葉の真意を読み取って僕は思わず戦慄する。巻き込まれたその言い方が指す意味はつまり


「ここの研究所は破棄するそうよ。精霊に見つかってしまったのではおしまいだって」
「それで証拠隠滅のために殺されたのか」
「違うわ。私はイヨたちみたいに逃げようとしたから」
「それで………」


精霊に見つかったら破棄ってそんなに怖いことなのか。普通に弱体化しているんだけど『精霊は恐ろしいものよ。それに魔族まで絡んでいるとあれば私たちは容赦しない』まあ確かにそう言われれば慎重になるのもうなづける。イフリートが他の精霊とかに伝えてしまえばあいつ一人でなんとかできる範囲を超えるしてかあいつがどっかいったらもう守る手段なんてなにもないもんな


「昨日あなたがいた時に合流できてたらよかったんだけど私にはそんな運がなかったみたい」
「そんな」


昨日の僕がなにをしたのかは知らない。でも助けられた命があったことを知って心が痛む


「いいのよ。私は生まれてからそこまで時間が経っていないから未練なんて少ないわ」
「でも」
「それに、私は私たちを助けてくれようとした人がいたという事実だけで充分」


ナナさんの対応が少しクールというか冷たかったのは自分の現実を達観していたからなのだろうか。『きっと私たちが知らないところでなにかあったんでしょうね』でも僕はそれを知る術がない。それが残念でならない。ムツキさんもそうだけどこの人たちの生きた証をもっと知っておきたかった………ムツキさん?


『昨日、命を落とした子よ』
「そっか………」
「だからお願い。他の子は必ず助けて……そうだあいつらイヨを見つけたみたいイヨが危ないからすぐに」
『………残酷だけど急ぎましょう』
「わかった。ごめんねナナさん」


僕は立ち上がる。「あ、私の手を握って?」それならばと僕は手を握る。握るためにもう一度腰を下ろす。ちょっと一人で立ち上がって直後に座るとか格好悪いけど今はいいや


「場所、教えてあげる『発信』」
「!」


ナナさんの魔法の効果だろうか。僕には、イヨさんがいる場所が頭の中に送られてきた。


「これは…」
「私の魔法。これでイヨを助けて………」
「」
『…いきましょう』


ナナさんの握っていた手の力がなくなりゆっくりと地面に落ちていく。今度もまた助けるどころか遺体をきちんと埋葬することすらできないのか。それが悔しくて歯がゆくてしかたがない。


「イフリート」
『なにかしら』
「イヨさんの場所はわかった。だから飛ばしていくよ」
『ええ、構わないわ』


まだ『電気鎧armor第三形態third』は解除していない。だからわざわざ掛け直す必要はないだろう。足に力を込める。ついでに腕にも多少家とか壊してでも直進するか『それは余計な時間がかかるからやめときなさい』………


『落ち着きなさい。のんびりもいけないけど焦って周りが見えないのもよくないわ』
「それもそうだな…あ」
『どうしたの?』


ナナさんの手を繋いだことでイヨさんの位置がわかった。そのときにナナさんは無意識だろうが目的地までのルートを思い浮かべたのだろう。だからどういう風に進めばいいのかわかった


『そうなの。良かったわね』
「ああ」


その無意識に感謝しかない。そんな幸運に感謝しつつ僕は走り出す。できる限り早く、早く。間に合うことを間に合ったことをイメージしながらひたすら足に力を込めて地面を蹴っていく。頼む、間に合ってくれ………







行ったのね。朦朧とした意識の中近くにいた誰か………ミライくんときっと精霊イフリート。それらが遠ざかっていく気配を感じる。


「もう少し早く知りたかったな」


さっきミライくんと手を繋いだときに彼の一つのイメージが私の方に流れ込んできた。きっと無意識なんだろうけどね。彼から感じたのは私の、このクローン研究に対しての強い怒り。そして私たちクローン体に対しての人としての敬意。私たちを人間として扱ってくれるなんて。それを知っていたら最初に会ったときに少し話しておけば、いや……そんなことを言ってもしかたがないわね


ゆっくりと私の心臓が鼓動を止めていく感じがする。さっきの魔法で残っていた力をすべて出し尽くしてしまったみたい。できればもう少し、もう少しだけいきていたかったな。せめて私たちが救われた瞬間を知りたかった。そんな贅沢なことは言わなくてもイヨが助かったと言ってくれるまで。ふふっこれってミライくんがここに戻ってくることが前提の話ね。まあ彼ならきっとここに来るでしょうね。逆に、こなかったら………そのときは察しましょう。でもそんなことで責任だけは感じて欲しくないな。そんなつもりはなかったけど責任を押し付けちゃうみたいになったのかも


「結局遅すぎたのかな」


ミライくんに研究を話すことも私が脱走しようとしたことも遅かったからこんな結果になってしまった。そんなことを嘆いてもしかたがないか。


「お願いねミライくん」


あなたとはほとんど会話もなかったしあなたのことを知らない。でもイチカからあなたのことを沢山聞いたわ。それにあなたがイヨと話している様子も全部確認させてもらった。イヨだけじゃない。ムツキ、フタバ、ミイ、ミナみんなと接しているあなたをね。それにムツキが死んだときの様子も


「私が死んだらみんななにか気がつくのかな?」


でもそんなことはないか。私がみんなに魔法をかけたとき何も気がついていなかったみたいだし。でも…もういっか。ねえ、みんな私は先に逝くけどすぐに会いに来ないでね?私はムツキと一緒にみんなを見ているからさ

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品