電気使いは今日もノリで生きる

歩海

二日目開戦

葉月一週目火曜日


のんびりと街を散策していた僕とイヨさんの前に突然現れたスルト。そういえば最初に会った時もこういう街中に突然現れたんだっけ。こいつこういうシチュエーションが好きな変態さんなんだろうか。やっぱり白衣を着て街中を歩いている奴は変態だって自説が証明されてしまったな


「堂々と偏見を晒さないでくれるかな」
「あ、聞こえてた?」
「普通に声に出てたよ」


それは申し訳ないな。まあなにぶん正直な性格なので仕方がないですね。それで?


「何しに来たんですか?」
「何って・・・ってなんだ。君もわかっているじゃないか」


いいながらイヨさんをかばうように立つ。まあそれ以外に考えられることはないし常識的に考えてイヨさんを連れ戻しに来たんだろう。


「なんでわざわざそんなことをするんだ?ミイさんがいれば十分だろ」
「どうしてだい?研究のために必要だろ?」
「・・・」


どういうことだ?こいつらの研究の目的ってあくまでも魔族の器を人工的に生み出すためのものでその器となるべきミイさんが選ばれた。もう最終段階になったといっても過言ではない。いや、待てよもしかしてこいつ何が行われようとしているのかわかっていないのか?いわゆるこいつも被害者だとか。それなら少しぐらいは救いがある


「だってまだ他の器を用意できていないじゃないか」
「・・・そっちか」
「そっち?ああ、私が何も知らないと?いやいやそんなことはない。私はこの研究の目的を理解しているとも」
「それでどうなるのかわかっているのか」
「確かに魔族に支配されるのは辛い・・・ですが、私たちのね知的好奇心には逆らえなかったのですよ」


好奇心は猫をも殺すそんな言葉があるけれども猫という普通なら死なない生き物が好奇心のせいで命を落としてしまうという意味らしい。微妙に間違えている気がしなくもないが今僕の頭をよぎったのはこの言葉だ。


「つまり技術を提供してもらう見返りに体を用意すると」
「ええ、まさかこんなに早く転生魔法を試すことになるとは思ってもみなかったけどね。魔族の王レベルに耐えうる器などできっこないと思っていたんだけどね」
「今回のは異常事態なんだろう」


イフリートに見つかってしまったからな。研究を潰されるのを防ぐためにはそれと対等な存在を生み出さなければならない。僕程度にやられる物たちでは契約者にはまず勝てないだろう。なんの王様が裏を引いていたのかは知らないけれど妥当な判断といえるな


「つまりさ、ミイが死んだ原因は君が首を突っ込んだからだよ」
「・・・そうだね。でも、僕は止めない」


ここでやめてしまったらさっきのイヨさんの言葉に背くことになる。イヨさんの感謝を本当に受け取ることができなくなってしまう。そんな気がした


「そうか。戦いは避けれないと。ならば少しだけ移動しないか?ここは目立つ」
「こっちはこの方が好都合だけどな」


今下手な戦いを避けたいのはこちらも同じ。でも僕らはどうせここから旅立つ人間だしそれに研究のことが公になってしまったら都合が悪いのは向こうの方だ。ただのクローン研究だけっていうのならそこまで反感は買わないだろうが魔族の器を作っているとなれば話は別だ。この研究自体がなくなることだってある。だから騒ぎを起こしたくない度合いで言えばこちらよりも向こうの方が上。だから僕らが取るべき手段は移動することではなく、逃げることだ


「やれやれ、できれば使いたくなかったのだが仕方がない」


?、スルトは何かキューブ状の物を取り出した。あれは一体なんだ?少なくともこちらにとって都合のいい物ではないことだけはわかる。しょうがないな


「『電気鎧armor第三形態third』」
「キャッ」


電気鎧armor第三形態third』によって身体能力を強化してイヨさんを抱え上げる。・・・お姫様抱っこの状態になってしまったのは非常に申し訳ないけれども他に持ち方を知らないのだからしょうがない。米俵を持つみたいな持ち方も考えたけれどもそんな持ち方をしてしまったが最後メイさんたちからどんな恐ろしい目にあうのか想像がつかない。というわけで恥ずかしいけどこの体勢で我慢してください


「遅いよ『起動』」


しかし一歩遅かったようでスルトさんの言葉とともにキューブが光り輝いて辺り一面に光を放った。まって貧しすぎる。まともに目を開けていられない。どこかで感じたこのある謎の気持ち悪さを感じる。あれ、これどこで感じたんだっけ。結構最近に感じた気もしなくもないけれど・・・どこでだっけ?


そして光が収まったと思うと・・・周囲を建物に囲まれた謎の空き地へと飛ばされていた。


「ここは・・・いやてかなんで?」


僕さっきまで街中にいたはずだよね?なんでいきなりよくわからないところに飛ばされているんだよ。てかあの気持ち悪さはあれだ。セリア先輩の転移魔法で移動するときに感じたやつだ。あのキューブは人を転移させる魔道具だったのかよ。


「君が嫌がるから強制的に移動させてもらったよ」
「その魔道具はなんだ?」
「あの・・・その前に降ろしてもらってもいいですか?」
「え、あ、ごめん」


転移したことでちょっとパニックになってしまっていたけれど今僕イヨさんをお姫様抱っこしていたんだっけ。それだけ緊迫していた空気だけどまあイヨさんからしたら気が気じゃないよな。昨日出会ったばかりの男にずっとお姫様抱っこされていたんだもんな。できる限り慎重に下ろす。別に重いとかそういう無粋なことをいう気はない。『電気鎧armor第三形態third』の影響で重さなんて一切感じないからね。強いて言うなら小鳥の羽ぐらい?・・・自分で言って気持ち悪いなこれは


「相変わらずデリカシーがないですね」
「これは本当にごめんなさい」
「・・・別にいいですよ」


いや、これはまったくいいって感じじゃないですね。だって降ろしてからまったく顔を合わせてくれないじゃないですか。かすかに耳が赤くなっているような気もしなくもないけどこれはあれだな。羞恥から赤くなっているに過ぎないんだな。


「『放電thunder』」
「『シールド』・・・いや君ね」
「無防備に立っているのが悪い」
「君らの痴話喧嘩を待っていたんじゃないか」
「なら僕らが逃げるのをまってくれても良かったのに」
「そういうわけにもいかないよ」


なんだよこいつ。こういうときだけは紳士ぶりやがって。あ、変態紳士かそれなら納得。てか今こいつ僕の魔法を普通に防いだ?こいつのスキルって・・・


「さて、と。一応聞こうか。君たちおとなしく捕まる気は?」
「一応答えるよ。ない」
「だろうねぇ」


心底がっかりしたという感じでいる。スルト。まだ向こうには余裕が感じられる。僕の実力を知ってもなお向こうには勝つ勝算があるということなのだろうか。・・・ん?勝つ勝算ってなんだかおかしいな頭痛が痛い的な感じがするぞ


「ここは研究所内です」
「え、まじで」


イヨさんがこそっと僕に耳打ちしてくれる。なるほどねこれがあいつの余裕の表れってやつか。もう僕らは敵の陣地に引きずり込まれているこれは紛れもなくアウェー戦だ。間違いなく不利だ・・・普通にやばいな


「じゃあ力づくで捕まえるとするか」
「やってみろよ『放電thunder』」


命の国のクローン研究その運命を決める三日間の戦いにおける、二日目の戦いが幕をあける。

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