電気使いは今日もノリで生きる

歩海

始まりの別れ

葉月一週目月曜日


「イヨ!」
「大丈夫です」


僕の合図で僕の肩に触れるそして「設置」魔法を発動して僕をルドーさんの方向に突き飛ばす。まあ目的は単に接近するためだけだけどまあうまくいったみたいだ


「なるほどねぇ接近してしまえば私は君に勝てないものね」
「そうだよ」


動きは僕の方がはるかにはやい。でもあんまり触れすぎてしまえば僕の体にまとってある電気が全て吸収されてしまう。でもそんなことはおくびにもださずにただただ相手を翻弄する。さて、どうやって打撃を与え続けようかね。


「ふむ、どこか慎重だね・・・ああ、君確か31ミイと同系統の魔法を使えたよね?つまり今の超人的な身体能力は電気による援護なのかな?」
「・・・」
「ぐぅ、君本当に不意打ちが好きなんだね・・・いや、逆か。君自分の力に自信がないからこうして誤魔化しているのか」


急に語り始めたから攻撃のチャンスかと思って殴ったけどなんでそれが不意打ちになるんだよ。僕は今あなたの周りで攻撃のチャンスを探しているのがわかっていたはずなのに。そして少しだけ『電気鎧armor第三形態third』を誤解してくれている。ミイさんのはわからないけど僕のは体の内部まであるんだよ


「はっ」
「ぐほっ、・・・捕まえた。さあこれで電気をすべて吸収して体が反動で動かなくなるぞ」


ああ、やっぱり反動とかあるのか。てかそれを承知であんなに躊躇なく使わせていたのかよ。僕はまあ自分で納得しているから問題ないけれどミイさんはきちんと承認してくれているのか?


「僕に掴まれたら一瞬で電気は吸収されるからね。さあ終わりだ」
「『放電thunder』」
「!なに・・・」


確かに体の表面にまとっていた電気は消えたよ。でもこの魔法はからだの内部にも電気を発生させている。大部分は失われてしまったけれどそれでもギリギリ電撃を放つぐらいは確保出来る。でも、限界だ。電気を吸収されてしまったせいで強制的に魔法が解除されてしまう。腹に受けた傷をはじめとして様々な痛みが僕を襲う


「・・・ぐ、ぐう、イヨさん!」
「わかりました」


意識を失いかける直前にイヨさんに指示を出す。それによって僕はまたイヨさんの近くに移動する。ルドーさんとの接触が解除されたことによって僕の『電気鎧armor第三形態third』がまた復活する。これでまだ戦える


「・・・すぐに復活するとはなんて魔力量なんだ」
「そんなに多くないよ」


腕を前に出して構える。


「何をするつもりなのかは知らないけど私に君の魔法は効かないよ」
「・・・」


でも吸収するのはあくまで電気だけだ。それでも僕が持っていた電気が一度にすべて吸収されなかったということはあの服に移った後もわずかながら電気は吸収されないで止まっているのだろう。要はあれだ。ご飯を食べてもすぐに消化されないみたいな。つまり今、ルドーさんは僕の魔力を帯びた電気を纏っていることになる。あのドラゴンとの戦いを思い出せ


遠隔起動remote
「ぐわああ」


狙い通りルドーさんは爆発する。要は一時的にショートを起こさせるようなものだ。ドラゴンのときは極限状態だったから暴走させたけど今は落ち着いて考えることができたのでショートさせて軽い爆発にすることができる。これなら電気とは無関係の魔法になるので防ぐことができないだろう


「・・・ばか、な」
「装備に頼りすぎなんだよ」


イフリート、あいつの意識はまだ残ってる?『え?多分ないんじゃないかしら知らないけど。でも倒れたってそういうことでしょ?』まあそうなんだけどね。ルドーさんに恐々近づいて・・・あ


「イヨさん服とるの手伝って・・・ってごめん」
「関係ありません」


テキパキと慣れた手つきで服を脱がせていく。ねえ女性が男性の服をむしり取るってなんか嫌じゃないの?嫌というか・・・いやまじで僕の今の発言場所によってはセクハラ発言になりかねなかったからね。僕が外せば『電気鎧armor第三形態third』の分が吸収されて倒れてしまうところだった


「手馴れてるんだね」
「まあ夜伽とか」
「ごめんそれ以上言わないで」


こいつら一体彼女たちに何をさせているんだよ。お前ら普通にそれ犯罪だからな。合意なんて取っていないだろうし


「フフっ」
「どうしたのイヨさん」


思わず憤りから表情が硬くなった僕をみて笑いだす。いや僕そんなにおかしなことを笑われるようなことを言った覚えないんですけどね


「ミライさんって本当に私たちを人間として扱ってくれるのですね。さすがに冗談ですよ」
「そ、そっか」
「ですが、私は別に裸をみてもとくに何も思いませんよ?」
「えぇ・・・」


クローンですからって言われてもねぇ。ブラックジョークにしか聞こえないですけど。これもしかして笑うところだったかな?だったらちょっと申し訳ないことをしてしまったかな。


「『放電thunder』これで意識が戻っても体の痺れからまともに動くことできないだろう」
『完璧なまでに死体蹴りするわね。死んでいないけど』


そんなこと言ってやるなって・・・って死体といえば


「ムツキさん!」
『あんたも似たようなもんじゃないのよ』


さっき僕をかばって倒れてしまったのを少しだけ忘れてしまっていた。でも今はどうなったんだろうか。慌てて駆け寄る。ミナさんが傷口に手を当てて止血をしようとしてくれているけどでてくる血の勢いがやばい。てかもはや赤というよりもどす黒い色をしているんだけど。てかこれどれだけの血が失われている?人間て確か血液を30%失ってしまったらダメなんだろ?


「・・・私はこれまでのようね」
「ムツキ!」
「ミナ、フタバ、ごめんね。希望が見つかったっていうのに・・・私はすぐに死んじゃうなんて」
「・・・」
「ムツキお姉ちゃん・・・」
「ムツキさん」


呼びかけたはいいものの続きを言おうとしたら詰まってしまう。僕が一体何を言えるというのか。できることを探すかのごとく僕はムツキさんの手を握る。逆に言えばこれしか…これしかできない。


「ミライさん。この子たちをお願いできる?・・・私もねいつか解放されたいと願っていたの。私と同じ、いや私の妹たちが死んでいくのを見て辛かった・・・フタバはね今でも感情豊かだけどイチカやミイは大分感情が失われてるの。それをみて・・少しだけ怖かった」
「大丈夫。必ず助ける。でも、ムツキさんだって」
「ダメ」


自己活性heel』を使おうとしたら止められた。あれ本来は僕しか使うことができないけれどでも僕と同じ電気スキルをもつムツキさんならきっと使えるかもしれないと思ったのに。それなら・・・助けられるかもしれないのに


「あなたが私を助けようとしてくれるのはわかってる。でもね、それは自分に使って。あなたも大分血が流れてる。もうすぐ失血死してしまうわ」


ルドーさんとの戦いで閉じかけていた傷口が開いてしまった。それにすぐにかけなおすことができたとはいえ『電気鎧armor第三形態third』が切れた一瞬感じた痛みはやばかった。おまけに発動中と同じくまったく何も感じない箇所もあって血を失いすぎたことによる痺れがあちこちでキテいるのだともわかった。


「わかったよ。ごめんなさい『自己活性heel』」


こういうのはすぐにかけたほうがいいだろう。もしかしたら倫理的にはダメなのかもしれないが、それでも僕の意思を見せれあげるのにこれが一番いいのかもしれない。


「それからさっきはありがとう。僕を助けてくれて」


僕の代わりに、死んでくれて。ダンジョンの時とは違う。誰かの死に関してきちんと悲しむことができている。・・・『電気鎧armor第三形態third』発動中でも今視界が滲んできているんだ。感情が抑制されている今でさえ


「いいのよ。それに、私たちを倒したのはまぐれじゃないのね。こうしてルドーを倒せたんだし」
「・・・ムツキさんのおかげ、だよ」
「そう・・・」


もうほとんど光のない目を僕、イヨさん、フタバさん、ミナさんに向ける。ああ、これから・・彼女は・・・最後の力を振り絞るかのように言葉を紡ぐ。彼女の体が電気を帯びていく。まるで最後の輝きを示すかのごとく。


「みんなありがとう。先に逝くわ。でもすぐにこないでね?私はいつまでも待っているから・・・人生を謳歌して会いに来てね。そして・・・おし・・え・・・て」




外の世界のあれこれを




言葉が途切れて最後は聞こえなかったんだけどそれでも彼女は何を言おうとしていたのかだけは伝わった。もしかしたら繋がった手から彼女の思いが電流となって頭に流れていたのかもしれない。少しして僕は、静かに彼女の目に手をかけその目を閉じる。こんな場所なのに、なんて穏やかな顔をしているのだろう。


『あなたのおかげよ。結果はどうあれ誇りなさい。そして、他の子達をちゃんと責任をもって見なさいね』


ああ、わかってるよ。託されたもんな。託されたからにはきちんと守り通さないと

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