電気使いは今日もノリで生きる

歩海

ダンジョンと精霊

文月一週目水曜日


「ミライ!早く起きてくれ!」
「うるさい黙れ」
「なんて言葉使い・・・いや、今はそんなことどうでもいい」


なんなんだよ。人が気持ち良く眠っていたっていうのに。というか僕の部屋に普通に侵入してますよね。セキュリティーの概念はどうなっているんだ


「セリア先輩の魔法で直接ミライの部屋に入れてもらった・・・ってそんなこと今は置いといて、大変なんだ」


大変というからには起きないといけないな。でもこれでしょうもない話だったら例え先輩だとしても一発殴らせてもらいますからね。顔とお腹に一発づつ


「いやそれ二発じゃん」
「シオン先輩だからセーフです」
「いや僕というか誰でもアウトだから」
「さっさと話せよ」
「ついに敬語すら消え去った!」


寝起きの人間の機嫌の悪さをバカにしてはいけませんよ。普段は思っていても口に出せないことをペラペラと話すことがありますし。ぼんやりしていたり怒っているときに人間は本音を話すってよく聞く話ですからね。


「つまりは普段は心のうちで思っているってことだよね」
「さっきからどうしたんですか?キャラ崩壊してますよ」
「誰のせいだと・・・ああクレアだな」
「クレア?クレアがどうかしたんですか?」


そこは普通に僕の名前のはずなのになぜにクレアの名前が出てくるのだろう。風評被害も甚だしい。


「あいつがいなくなったんだよ」
「・・・」


よしもう一眠りするか。なんか変なことを言ってるし、これは夢だ。あれ?ということは今見ているのは夢?じゃあ寝なきゃじゃなくて起きなきゃか。これだけ意識がはっきりしているっていうことはこれは明晰夢かな?聞いたことあるけどいざ実際に体験してみるとこんな感じなのかな


「おい、現実逃避をするな」
「先輩こそなにを。あいつがいなくなるわけないでしょうが、まだ先輩を殴ってもいなにのに」
「ちょっと待て僕あいつから恨まれてるのか!知りたくなかった」
「それくらいありえないって話ですよ。あ、少なくともあいつは先輩のことを尊敬してましたよ」
「よかった・・・って少なくともってどういうこと?つまりはミライは?ねえ?」
「やっぱり来て正解でしたね」


突然僕でもシオン先輩でもない第三者の声が響いたそう、いつもおなじみ僕らが暴走した時のブレーキ役、サリア先輩だ。


「サリア先輩、おはようございます」
「おはようございます、ミライ。はあ、やっぱりシオンだとわちゃわちゃしますね」
「すみません」


いつも色々とお世話になっているからサリア先輩には逆らうことができないんだよね。そしてそれはシオン先輩も同じようだ。3年も付き合いがあるのだろうしきっとかなりの弱みを握られているんだろうな


「はぁ、とにかくミライ。クレアがいなくなったことは事実です」
「本当に・・・」


まじかよ。でもなんで?昨日そんなそぶりまったく見せていなかったのに


「サリア先輩ならすぐに信じるのかよ」
「信頼の差です」
「シオン、あなたはもう食堂のほうに言ってもらえますか?」
「ナチュラルに出て行けと言われてる!?」


そのまますごすごと去っていく。なんか、かわいそうになってきたな。もう少しだけ労ってあげよう。


「ええ、それでクレアの行き先なのですけど・・・」
「心当たりがあるんですか?」


最近変わったことって・・・まさかいやちょっとまって。ひとつだけ思い当たることが見つかりました。でもそれってさすがに回収が早すぎないか?昨日の今日だぞ。


僕が気がついたことを察したのだろう。答えを単刀直入に言ってくる。


「そう、ダンジョン・・・・・です。声が聞こえたといっているのはおそらく」
「最深部にいるなにか・・・が呼んでいる、というわけですね」
「ええ」


なんだ。そんなことか。なら安心だ。そこまで心配することないや


「どうしてそこまでおちつけるのですか?」
「え?」


だって、呼ばれたということはつまり言い換えると選ばれたっていうことですよね?最深部にいるなにかに。ならそこまで命の心配をしなくてもいいじゃないってことではないでしょうか。まさか呼んでおいてむざむざ殺すなんてことはしないはずだし


「ああ、そうですね。そちらの世界の物語はそんな感じなのですね」
「え?」


さっきから失礼な態度を取り続けているな。ちょっと気をつけないと。でも確かにイメージするのは異世界モノの物語だ。主人公は謎の声に導かれてダンジョンを捜索するとなにやら高位の生命体に出会いその力を授かってチート化するという。


「なにやら出来過ぎていますね」
「そういうもんなんですよ。あれ?ということはこの世界では違うのですか?」
「はい。まず、呼ぶのはあくまで『精霊の気紛れ』です」
「どういうことですか?」
「なんていうか、第六感と言えばいいのでしょうか」
「あ、わかります」


要は霊感とかそういう類のモノだろう。心霊現象が起きた時に霊感がある人は何かを感じ取るけどでもだからといってなにもできない。高位の霊能力者は祓うことができるかもしれないがただ霊感の高い人間だけがなにかできるとは思えない。そんな感じだろう


「いえ、違います」


違うんですか。めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。


「面白そうな人を選んでは誘うといったほうが近いですね。またはその精霊とかなり親和性が高いと感じることがあるみたいです」
「そうなんですね。でも、その言い方だとダンジョンの奥にいるのって精霊で間違いないのですか?」


なんでこの人そんなことわかるのだろう。サリア先輩だからって言われたら納得できるけど


「リルが教えてくれました。精霊の気配を」
「リル?」
「私の契約精霊です。フェンリルだからリル。かわいい名前でしょう?」
「そうですね」


でもということは単に面白そうだから呼ばれたってことはつまり


「容赦無く殺してくるでしょう。それに今回クレアが呼ばれましたが他には誰も呼ばれてませんつまり今回の精霊も予想することができます」
「まあスキル的に考えればわかりますよね」
「はい、そうなると少し厄介です。今回は火の精霊『イフリート』精霊間には格差は基本的に無いですが人々への浸透性は大きく異なります」


こういうのってなんだっけ。誰にも知られなくなった神様が弱くなったり消えたりするみたいな感じなのかな。多くの人に認知されているということはそれだけ力が強い可能性があると


「はい、四大精霊の一つとなれば力がかなり強いはずです。つまり今回のダンジョンはおそらく」
「かなりレベルが高いと」
「そうなります」


普通にクレアが死ぬことがあるってことか。でも考えにくいな。あいつ強いし。悔しいけど冷静な判断能力も持ち合わせている。無理することは決してしないだろう


「まあ問題はクレアだけではないのですけどね」
「どういう意味ですか?」
「・・・すみません。それはこちらの話です」


そっか・・・なんか僕の知らない世界がありそうだけど僕は興味無いしいいや。それよりも


「あの、」
「なんですか?」
「なんでクレアがいないんですか?消える理由がわからないです」
「それは、おそらく転移させたのでしょう。今ダンジョン内にいると思います」


フェンリル曰く、イフリートはかなりイタズラ好きというか退屈なのが嫌いらしいので、できる限り早く楽しみたいのかこうして人をダンジョンのなかに連れ去ることが多いとか


「なんて迷惑な」
「だから心配なんですよ」


そうですね。先ほどは心配無いとか言ってすみませんでした。

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