電気使いは今日もノリで生きる

歩海

『黒龍』登場

水無月4周目日曜日


「こいつは・・・」
「ミライ!すぐに離れてくださいこのモンスターは危険です」
「サリア先輩?」


僕がなにか対応する前にサリア先輩とセリア先輩が駆けつけてきた。この龍ってそんなに危険なのか?確かにこんなところに乗り込んで来るなんてそれは相当おかしなことだからな


「これは、こいつは」
『ほお、我が名を知っているのか』


サリア先輩が話す前に龍が喋る。それだけで場が凍りつく。威圧感がおかしいくらいに高い。自分に向けられていないとはわかっていても息苦しいまでの殺気だ。


「くっ」
「さすがは『黒龍』」


黒龍ってなんだっけ?聞いたことあるような無いような名前だな。でもまあすぐに思い出せないってことはそんなに重要なことでは無いのだろう。別に今ここで倒せばそれで問題無いし。


『がはは、我を黒龍と知ってもなお戦いを挑むか蛮勇も過ぎれば愚かだ』
「せ、正論だ」
「そこで納得するのかよ」


だってそうだろ。ジグのことを思い出せよ。強敵に無理に立ち向かった結果先輩たちからめちゃくちゃ怒られたんだぞ。ついでに言えば死にそうになっていたみたいだし


「それ全部ミライが悪いんじゃないか・・」
「しかも理由が怒られたことですか死にかけた件はどうでもいいと」
「あはは」


なんかかなり冷たい視線が突き刺さる。つい本音が出ちゃった。心配してくれているからこそっていうのもわかるし、全部僕が悪いんだけどね。ただ、あの件で僕は自分の目標を見つけることができたから死にかけたこと、戦ってどうなったのかなんて正直どうでもいいかな。でも・・・


「ちゃんと導いてくれる、見捨てないでくれる人がいるってわかったから蛮勇も悪くないかな」


よく異世界モノだと主人公含め、転移者たちの愚かな行いを叱ってくれるような人はいない。まあ主人公を活躍させるためにモブに愚かな行いをさせた時とかは怒られてる描写があるもんね。今回だって結局なんやかんや僕は見逃されているし。


「さすがにミライも反省してるか」
「・・・してないと・・・困る」
『まったくぞろぞろ湧いてきよって・・・ここまでくると滑稽さえ覚えるな』


黒龍がなんか言っているけど無視だ無視。それよりもシェミン先輩まで出てくるのは少し意外だな。グレン先輩はまあおかしくないけど


「ねえ、俺すごく自然にバカにされてない?」
「いつものことなので一々反応しないでください」
「いつも?俺いつもバカにされてるのかよ」


よかった。いつも通りの先輩たちだ。いつも通りってことは僕の本心もきちんと伝わっているってことかな。少し恥ずかしいけど先輩たちと出会えたことはものすごい幸運だと思ってるからね言わないけど。


「それで、黒龍。あなたはなぜここにきたのですか?」


え?理由聞いちゃうの?別に聞かなくても良くないか?あ、そっか、なんかすごいやつっぽいし動くだけで問題なんだろうね。


『は、我に理由を聞くか。いつもいつも人間は愚かだな』


理由を聞いただけで愚かとかお前も大変なんだな。かわいそうに


『我を愚弄するか』
「ミライ・・・君はいつもブレないね」


おー怒ったか。なんかすごい感出している割には煽られ耐性皆無なんだな


『我の行動に理由などない。ゆえになぜと言われても困る』
「なんとなくでこの地に来たというのですか」
『そうだ。まあ彼奴・・が復活するというから人間どもがどれだけの実力を持っているのか確かめたかったがな』


それ理由じゃねえかよ。さっきから面倒なやつだなこいつ。そういえば思い出したぞ。黒龍ってなんか最近活動が活発になってきているから気をつけてくださいねって言われていたやつか。


「それで、わかったのですか?」
『・・・それを今から確認する』


目を見開いたかと思うともう一度雄叫びをあげる。またさっきと同じように殺気で動けなくなる。重たくて冷たい。優れた武人は気だけで敵を怯ませるっていうけどまさしくそんな感じなのかな。まったく身動きが取れない。


『ほお、我の気を受けても意識を保つ者がこんなにもいるとはな』


意識を保つってそりゃできるでしょ・・・ってまじかよ。周りを見渡してみればみんな倒れているんだけど。あ、一ノ瀬も倒れている。龍の近くだけど大丈夫かな。


それでいまも立っているのは僕とクレアいつもの先輩たちと。クラスメートたちも全滅してるっぽいな。てか先輩たちは強いから耐えることができたっていうのはわかるんだけどなんで僕とクレアまでもが意識を保ってられたんだ?


「なんで僕も不思議に思われるのかな」
「だって僕の方が強いじゃん」
「あれは勝利を譲ってやったんだよ」
「は?なんだよそれ」
「二人ともいい加減にしてください」
「「すみません」」


確かに敵を前にして漫才なんてするのは間違いだな。緊張をほぐすっていうのではいいんだけどさすがに待ってくれる保証なんてないからな


『ほお、貴様とそこのやつはなぜそんなに弱いのに立っていられるとは・・・』


敵にまで言われてしまったんだけど。そんなに意外か。そうだよ僕が一番驚いているよ。


『・・・なるほど。「拒絶」持ちか』
「は?」
「『拒絶』?」


いきなり変なこと言いださないでくれよ。さっきから発している言葉の意味がまったくわからないんだけど。そもそもなんだよ『拒絶』って。そんな技覚えてないよ


『ああ、貴様ら人間は「領域」と呼んでいるんだったな』


なるほど『領域』のことかよ〜なら最初からそう言ってくれたらよかったのに・・・え?


「どういうことなんだよ!シオン先輩」
「ここで僕に話し振るのかよ」


あ、やっぱりいた。今まで出てきていなかったからいないのかと思っていたよ。先輩も試合見に来てくれていたんですね


「まあミライの試合があるって言うからね」
「シオン。今はそれより黒龍をなんとかしないといけませんわ」


シズク先輩も来ていたんですね。


『ほお、貴様がこの者たちに「拒絶」を教えた者か・・・ふむなるほどな』
「だから勝手に納得しないでくれ」


これがあれだよ。いわゆる老害ってやつだよ。こっちの話を全く聞こうとしない。「いやまだ話聞いてると思うぞ?」あ、そうなんだ。もう少し心を広く持つ必要があるのかな


『それが何の力であるのか知らぬまま使っておるのか。哀れよな』
「お前言うに事欠いてそんなこと言っちゃう?」


まあこの龍に言われたところで痛くもかゆくもないんだけどな。あ、でも初対面のやつにいきなり哀れみを言われてもそれはそれでムカつくかも。


「あーもう面倒くさい『放電thunder』」
「ミライ!もうすこい様子をみてください」
「す、すみません」


やべ、怒られた。でも二発目は撃たないので勘弁してください。今のはむかついたこと対してですので


しかしながら、僕の放った電撃は鱗に弾かれてしまう。虚しさだけが残るんだけど。


「こいつがあの『黒龍』なら・・・並大抵の魔法だとその鱗で弾かれてしまうよ」
「だからその『黒龍』って何なの?」
『そこの金髪。あのバカに説明してやれ待っていてやる』


なんか情けをかけられた気がするんだけど


「いい、ミライ。『黒龍』っていうのはね・・・古龍種でかなり強い龍なんだ」
「それだけ?」


もったいぶった割には結構しょうもないぞ。一行で終わる説明だなんて


「それしか残らないんだよ。今まで『黒龍』と出会った者は殺されているか出会った直後に意識を失っている。だから『黒龍』が危険であること、出会ってはいけないことしかわからないんだよ」


それホンモノの強者じゃないかよ「掌返しがすぎない?」それって要は出会った者はすべて葬るってやつだろ。格好良すぎだろ。人生で一度は言ってみたい言葉ベスト10に入る言葉じゃないのかな


『そういうわけだ。力のある者を屠るのは不本意だが・・・意識があることを恨むが良い』


そして『黒龍』は空気を吸い込むと、灼熱の炎を口から吐き出した

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