電気使いは今日もノリで生きる

歩海

ついに念願の初勝利だったらよかったのに



「さあ、決着をつけようか」


残念ながら誤解は解くことができませんでした。というかそもそも誤解すら起きてなかったみたいだ。僕とクレアはここ、新修練場でお互いに距離をとって構えている。


「おい、なんかあっちで新入生通しで模擬戦が行われようとしているぜ」
「あれ?片方ってクレアじゃねえか?」
「あー新入生最速でギルドに入ったっていう期待の新星」


そしてどこからか話を聞きつけてきたのかギャラリーが湧いて出てきていた。そして地味に名前がして渡っているクレア。これは・・・まさか勝ちフラグか?すごく申し訳ない話ではあるけれどこの世界に来てからずっと負け続けているからそろそろ初勝利がほしいな。というか、有名な理由がギルドに入ったのが最速ってどういうことだよ。


「それじゃあ始めようか」
「そうだな」


まずは相手の出方を見るか・・・と言いたいけど、先手必勝!お互いに相手の手の内がわからないのは同じ。ならば先に主導権を取る


「『放電thunder』」


狙いは、相手の足元。牽制目的で放つ


「こんなもの」


僕の放電をクレアの火が相殺する。どうやらあいつの能力は『火』系統というわけか。ならお互いに相性は互角。属性には不利有利が存在してるんだっけ。基本的には自然界の法則に従っていると。


「『放電thunder』」


今度も牽制目的。さらにできれば接近戦に持ち込む。今まで戦ってきた人が例外なだけで体力のない人はおおい。情報を集めるためにもここは一旦近接戦闘にシフトするべきだ。


「『電気鎧armor』」
「なんだその魔法は?」


どうやら知らないらしい。これはチャンスだ。相手の意表をつくことができる。


「くそぉ」


見るからに軌道の嫁る蹴り。かわしてもいいけど、ここは一旦腕で受けよう。


「ぐっ・・・」


鎧というだけあって体の表面を覆っているからこの状態の時に直接殴られるということは相手は電気に直接触れるということ。まだ僕の力は弱いから静電気に当たったくらいの痛みしか与えられないけどそれでも相手を怯ませることはできたみたいだ。


「『放電thunder』」


ならばこのチャンスを逃すわけにはいかない。至近距離で電撃を叩き込む。ひるんでいた時の攻撃に対応できるはずもなく、その身に食らってしまう。


「ぐあああ」


よろけてしまい、顔を覆ってる。それだと次の僕の攻撃が見えないでしょ。拳を握り相手の腹を叩く。


「はぁはぁ・・・『ファイア』」


おっと、苦し紛れに魔法を放ってきたか。でもこれではっきりした。クレアは接近戦が苦手。つまりはもう一度近づくことができれば一気に勝負を決めることができる。プランはできた。あとはそれを実行するだけ


「僕の・・・勝ちだ!」


電気をまとって突っ込んでいく。フェイクを仕掛けて電撃を放っていく。


「まだまだぁ。『炎の壁』」
「うおぉ」


目の前に火が広がっていく。これでは近づくことができない。なるほど、僕の戦い方を見てすぐに対策を立ててきたってことか。


「な!」


そして広がった火の向こうから火の玉が向かってくる。やばい。僕には防ぐ手段なんてない。火の玉の数は・・・は?数えられない。多すぎだろ。




「君みたいな自然魔法の中で簡単なのは『火球ファイア・ボール』や『水球ウォーター・ボール』みたいにして自然現象を球の形にしてぶつけること」


模擬戦闘の中でシオン先輩に言われたことが蘇ってくる。簡単な魔法。でも、聞いていたのと話が違う。こういったのって基本的に一つだけじゃないのだろうか。


それでも先輩方と戦いの中で避け方を身につけたから少しはかわすことができる。でも全部は無理だ。数が多すぎる。いくつか当たってしまう


そのままの勢いで地面を転がる。気を取り直さないと電気鎧armorが切れてしまう。鎧だから当然自分が意識しないとすぐにムラができてしまい弱くなってしまう。


(まてよ、当たってしまうのなら)


ムラができてしまうのならしょうがない。そしてそのムラ・・を逆に利用してみよう。そう、前だけに集中するんだ。


「『火の玉』」


もう一度火球群が飛んでくる。これを全て避けることなく受けきる。


(時間を数える、1、2、・・・)


何個かまた当たって体力が削られたけど・・・大体のサイクルの時間はつかんだ。次に移す。そのためにはまず火の壁をなんとかしないとな。


「『放電thunder』」


放つというよりは解き放つ。新しい技は覚えることができなかったけど、放電を自分の体を中心にして発動することは意識的にできるようになった。この衝撃波で壁を吹き飛ばす。


「壁を消してももう遅い!『火の玉』」


来たな。でも大丈夫、さっきの感じからして意識を前に集中することができれば今回も耐え切れる


「うおおおおおお」


一発、2発、よし、いける。右手を構えて


「『放電thunder』」


「な!」


当たった。あとは。このまま勢いに乗って、右ストレート!


















右ストレートが綺麗に決まったためにクレアは地面に倒れている。これは勝負あったか?ついに、僕のはつしょうr−


「うおおおおお」
「すげえぞ、あいつクレアに勝ちやがった」
「まじか、やべえ」


ああ、そういえばギャラリーいたな。でも困ったな。これで僕ももしかしたら人気者になっちゃうかもしれない


「まだ・・・・だ」
「!」


ぴくり、クレアの指が動く。そして腕を地面に突き立て、立ち上がろうとする。あちこち電撃によって焦げているしボロボロだけど、それでもその目からは闘志は消えていない。


「まだ、僕は、戦える!」


麒麟にあった時を思い出す。あの時、僕は動けなかった。だからしょうがないな。わかったよ。最後まで付き合ってやるか


ー動こうとしている人を無下にすることはきっと自分の目標から遠ざかってしまう


「お、クレアのやるまだやろーとしてるよ」
「まじかよもう負け決まったのにな」


ギャラリーからはもうやめとけよオーラがどんどん飛んでくる。あんたら少し黙っておいてくれないかな。これは僕とクレアの戦いだってのに。


「まだ・・・まだだ。僕は・・・こんなところで・・・・・・・負けるような・・・・・・努力しか・・・・してないわけ・・・・・・じゃない・・・・
「!」


その言葉が出てくるということ、それはつまりー


「何言ってるんだよ、お前は負けたんだよ」
「見苦しいぞ〜」
「いつまでスペース取ってるんだ。早くどけよ」


おい・・・今お前ら何て言ってるんだ


「ふさけんなー引っ込めー」
「負け犬が吠えてるだけだー」


「・・・・ミライ!まだ、僕は負けを認めない。まだ僕は負けたわけじゃない」


完全に立ち上がり、僕を見据える。・・・そうだな。すごいよクレア、こんなに外野から言われてもそうして立ち上がることができるんだなんて。麒麟に言われて何も言い返せなかった僕とは大違いだ。


「ぐちぐち言うなって。もうお前は負けたんだよ」
「まったく、何が期待の新星だよあんなポット出のやつに負けちまうなんてな」
「ほんと期待はずれの新星だな」
「お、それいいな」
「ぎゃははははは」


・・・・・うるさい


「もしかしたら俺の方が強いのかもな」
「ありえそう。見た感じ相手もまともな魔法を使ってないっぽいし。それにあいつなんで第7ギルドに入れたんだ?コネとか使ったんじゃないか」
「絶対そうだって。なんだよ。優秀なやつほど早く決まるって噂、嘘だったのか」
「案外あいつが流してたりしてな」


・・・・・・・・・うるさい


「おーい、今度は俺とやろうぜ。早くみんなに負けた方がこれからすごいしやすいだろ」
「俺たちがお前の実力を正しく評価してやるよ」


「「うるさい!お前らは関係ないだろ!」」


偶然ながら、クレアと僕の声が重なった。いい加減に黙ってくれないかな。でも今は試合中・・・だ。クレアが負けを認めていない以上この試合は終わっていない。なのに観客に攻撃するのはマナーに反する。どうすれば・・・あーもう面倒臭い。まとめて、僕の領域・・で覆ってやるよ


「お前らは黙って僕らの戦いを見てろ!」


自分を中心にして電気が地面を伝わっていく。シオン先輩の『氷の領域アイス・フィールド』に近い感じがする。これがどんな影響を与えるのかわからないけど・・・でもこれで、一歩進むことができた!


「なにお前だけ進んだ気になっているんだよ!『火の領域fire・field』」


クレアを中心にして僕と同じように領域が広がっていく。違うのは僕が電気なのに対してクレアは火だ。


「なんだこれは?」
「危ないぞ・・逃げろ!」


誰もこの魔法を知らないのかみんな慌てて逃げていく。そうしてここには僕とクレアだけが残った。


「・・・礼を言わないとな。ミライ。ありがとう」
「・・・すまない。クレア、謝罪させてもらうよ」
「え?」


どうやら勘違いというか、ちゃんと君を見るべきだった。君を初勝利の相手とだけ考えていたのは謝りたい。クレア、君はすごいさっきの『こんなところで・・・・・・・負けるような・・・・・・努力しか・・・・してないわけ・・・・・・じゃない・・・・』という言葉。それは自分を信じているからこそ認めているからこそのもの。そしてそれは傲慢からくるものじゃない。努力をしているからこそ、自分で力を磨いてきたからこそ、その言葉が漏れたんだろう。それにさっきの火球を見ればわかる。努力したからこそ、普通でない魔法を放つことができたんだろう。


「そっか、でもすまない。ミライ。君はすごいやつだシオン先輩が君に構うのもわかる気がするよ」
「それをいうならクレアも同じさ。そこまで努力をできるなんて」


お互いにお互いを称え合う。もう、最初みたいな険悪な空気なんてなかった。そんな僕らに近づいてくる影が一つ


「うんうん、お互いに認め合えたね。よかった」
「「・・・・」」
「なにかな?・・・わかったわかったよ。ちゃんと全部話すって」


わかりました。お願いしますね?シオン先輩

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