電気使いは今日もノリで生きる
なんで入学前からこんなことになってるんだ
「新入生かだとするとかなり珍しいね。どうしてこの時期に?」
質問してくるけど、なんて答えよう。信用できるのかわからないし。先輩なのは間違いないだろうからあまりことを大げさにする気はないけど
改めて目の前の人を見てみる。まず目を引くのは整った顔立ちだからだろうがその中でも紫色をした目が一段と目立っている。髪の毛が灰色ということも相まって普通の紫よりも輝いて見える。身長はそう高くはない。でもなんとなく漂う軽い男感だけはなんとかしてほしいな。
「まあ理由についてとやかく詮索はしないさ。きっと君にも事情があるんだろう。だが、悪いが僕も使わせてもらうよ?ここにはよくくるんだ」
「そうなんですか?」
「そうだよ。ここは別に秘密の場所でもなんでもない。まあ新入生とかは新しい修練場を使うことが多いけどね。それにここは修練場として使われることはあまりないから」
なんだろう。すごく気になることを言っている気がする。でも別にいいか。向こうも名乗らなかったし、こちらも名乗る義理はない。しばらくは無視して自分の特訓をするとしよう。
「電気鎧」
自分の体に電気をまとう。これはしっかり反復練習をしたからスムーズに行えるようになってきた。で、問題はここから。
僕が旧修練場を選んだのには理由がある。それはここだけしたが普通の地面だってことだ。新しいところだと大半が人工芝生だったりコンクリートだったりしている。それでは僕がしようとしていることが全くできない。
両手を前に出し自分の腕が磁石になったようにイメージする。手をつなぎ体と合わせて円状を作ることによって自分の体を一巻きコイルの状態にする。電気を右から左へ流していく。心臓が電池代わりだ。まったく使うことのできない力だけど、こうして自分の体を磁石化するのには使える。
コイルの磁界の強さは巻き数と流れる電流の大きさによってきまる。巻き数は残念ながら変更することができないので流れる電流を強くする。
こうして磁石になることで、ある物をひっつかせようとしているんだけど・・・
「むむむむむ・・・」
10分ぐらい粘ってみたけど一向に集まってくる気配がないな。うまく磁石化することができていないのだろうか。でも教科書とかに載っていたコイルってこんな感じだよな。それともまだまだ僕の電気が弱いのかな。だから発生する磁場も弱くて引き寄せられない。
「でも電気量ってどうやったら強くできるんだ」
これも授業で教えてくれるのかな・・・というかそもそも授業がどんなのかわからないから考えるだけ無駄か。悩んでいても始まらないし、もう一回やってみようか
「君、面白いことをしているね」
話しかけてこないでください。今集中しようとしているんで。
「今のままじゃどんなに頑張っても難しいよ。まずは『領地』を整えなきゃ」
「え?」
『領地』新しい言葉が出てきたけどなんのことだ?それより今、この人もしかしてアドバイスをくれたのか?
「君、地面にある砂鉄を腕に集めようとしているよね。確かに『電気』や『雷』の人にとって『帯電』は天敵だ。でも砂鉄を使えば多少はその弱点をカバーできる」
「なんでわかったんですか?」
そう、僕がしようとしていたのは砂鉄を集めて自分を覆う鎧にしたり、また剣の形にして振り回そうとしたんだ。理科の実験でやったと思うけど、砂鉄は磁石にくっつく。つまり電気を流すことである程度操ることが可能になるんだ。僕がもっと力をつければきっとかなり自由度が上がると思うけど・・・それはこれから考えればいいか。悔しいが、これはあの熊のパクリだ。あいつがしていたよう自分の体につければ距離をごまかせたりできそうだし。
「知り合いに同じようなことをしようとしていた人がいてね。それに僕も属性は違うがぶつかった壁だからね」
「なら・・・どうすればいいんですか?」
教えてくれるのなら知りたい。そんなに手詰まりって感じでもないけど、早く習得できるのなら早いほうがいいし。この人ならきっと教えてくれそうだし。
「そうだな・・・教えてあげてもいいんだけど」
「けど、なんですか?」
まさか僕に目の前の人が所属しているギルドに入れと。知りたかったらうちに来い的な。もしくは金銭とかかな?そこまでお金に困っているようには見えないけど、服も質素ながらそれなりに素材がいい物使ってそうだし。目の前の人はニヤッと笑うと
「僕と手合わせをしよう」
簡潔に提案してきた。
「な、なんでですか」
思わず詰めよる。相手のほうが先輩だけどさすがにこれは意味がわからない。
「なんでってタダで教えるわけにはいかないだろ?まあ心配するなって。ちゃんとハンデはつけるからさ」
言うことは確かに理論が通っている。でもハンデって言ってもこの人はどれだけ強いんだろう。旧修練場に来るぐらいだからきっとかなり強いんじゃないかな。
「それにここはそういう場所なんだ。喧嘩とか本格的な対戦がしたいって人のための」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ。まああまりいい顔されないんだけどね。ただの試合じゃないし」
「どういう意味ですか?」
「えーっと、言ってもいいけどいいのかい?それを話せばもう後には引けないよ?」
なんかものすごい訳アリ感がすごい。けどどんなことがあるんだろ。も、もしかしてここは不良の吹き溜まりだったのか?目の前の人はそういうのとは無縁そうだけど・・・でも人は見かけによらないっていうからな。もしくは成績の悪い人たちがいるとか。それならまだありそうだけど・・・ここの成績システム的にそれはなさそうだなぁ
「うん、沈黙は肯定と受け取るよ。ま、そんなに難しい話じゃない。勝てばいい話だし」
「要はここはお金を賭けて試合をする場所なんだ」
「え、えええええ?」
お、お金を賭けた試合ってことは結局僕からお金を取ろうってことじゃないですか。
「まあ一回銅貨一枚だしそこまで痛手じゃないよ」
「そ、それは先輩たちが依頼でお金をきちんと稼いでいるからでしょう?」
こっちは何も知らない新入生なんだけど。当然最初のお金でしばらく乗り切らなければならないっていうのに
「だからハンデをつけるって言ったじゃないか。それに聞いてしまった以上、一回は試合をしてもらうからな」
なんか騙されたようでむかつくなぁ。
そして告げられたハンデの内容は、二つ。一つ目は相手はしばらくの間攻撃をしてこない。守りに徹するというものだ。つまり反撃の心配なんてしなくていいから全力で殴れるってことだな。二つ目は必ず僕がしようとしていることのヒントを与えるというもの。それをしなければ僕の勝ちなる。でも、
「それ、どうやって判断するんですか?」
二つ目のやつあってないようなハンデなんだけど
「僕の自己申告だね。大丈夫。絶対にヒントは出すからさ。それにさ、技術は見て盗めって言うだろ?僕が言ったらつまらないじゃないか」
「それはそうですけど・・・」
「これでいいかい?じゃあ始めよう。僕の名前はシオン。よろしく」
「紅 美頼です」
?名前を名乗った時に驚いた表情をしたけど・・・一体どうしたんだろう。でも今はそんなことはどうでもいい。勝利条件は相手に「まいった」と言わせること。当然ながら致命傷を与えるのはダメ。
「あ、でもミライは遠慮せずに来ていいからね」
なら遠慮なく。全力で行くとするか。
「その言葉。後悔しても知りませんからね!『放電』」
僕は自分の持てる全力の雷撃を打ち込んだ
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