電気使いは今日もノリで生きる

歩海

早く学校についてくれ



「ふう」


ここ一週間のことを振り返ってげんなりする。やっと落ち着ける。どうやら僕に聞きたかったことは麒麟のことだけだったらしい。そのあとは他の人に移っていったから。特に楠くんと星垣さんへの興味がすさまじかったな。楠くんのスキル『夢』はどうやらジュリエットさんも知らなかったようで新しいスキルが出たから研究せねばって感じだったし、星垣さんに至ってはその名の通り『星』というスキルが出たようで組織に勧誘の話まで出ていた。かなり希少なスキルらしく未来を見通すためにどうしても手に入れたい人材みたいだ。でも、自分で好きに生きていいと言い出した手前無理に勧誘できず、まずは学校で知識を貯めてから考えるということに落ち着いた。もちろん、行くあてがなかったらいつでも歓迎するらしい。


本当に迷惑な話だ。こっちはたまたま伝説の生き物と遭遇したってだけで他はとりたて普通な人間なのに。聞くことを終えたらさっさと解放して欲しかったのになんでか誰も代わってくれなかったよ。みんなきっと僕と変わりたくてしょうがないだろうになんで。


おまけにあのメンバーの中で僕が一番普通だったせいで毎晩毎晩馬車に降りたあとみんなから(特に男子から)質問攻めにあった。どうやら足場の整理されていない道を通った時にかなり馬車が揺れたらしい。ねてたからよくわかたないけど・・・あ、そういえば何回か頭を打ち付けたな。あれ揺れていたからなのか。


僕が頭を打ったか打ってないかはどうでもいいみたいで、みんなが気にしていたのはその際に日暮さん(と一ノ瀬)が誰かと急接近しなかったかどうかだ。まったく、漫画じゃないんだから馬車が揺れてそのせいでなにかイベントが起こるなんて日暮さんが楠に抱きついてたくらいで何も起こらなかったよ。


「「それ起こっているからな?なんだそれ楠の野郎うらやm・・・けしからん」」


ハモるなよお前ら。ハモったところでなにも起きないんだから余計なことをするんじゃない


「お前今相当疲れてるんだな」


まあ、今日僕を引っ張り込んだのは天衣、麺山、米柔の三人だしな。にしても、こっちは着いて早々お前らに引っ張られてしまったから疲れが取れないんだって。現代人が長時間馬車の荷台に乗っているってかなりきついんだぞ。おまけに女子がいるから下手に寝っ転がれないし。


「そこで寝っ転がってこその紅だろ?」
「ふざけんな。そんなことしたらお前らの誰かに殺されるだろうが」


勘弁してくれ。これで3日目か?いい加減に夜は眠らせろ。昼間は荷台内でずっと眠っているから寝不足にはならないだろうけど・・・うわぁ完全な昼夜逆転生活ひでぇ。つーかお前ら僕をどんなキャラで見ているんだよ。そんなことをするのなんて米柔くらいだろうに「なんでそこで俺の名前を出す「え?だってお前ふつ」すまなかった」


「あれ?紅もう日暮さんのことどうでもいいのか?」


僕がいつ日暮さんに気があるような振る舞いをしたんだよ「だってこないだ教室で」そういやぁあったな。


「忘れてたの?」
「あー・・・正直今はいいかなって」


恋ねぇ・・・五月雨さんの前では名目上頑張ろうみたいなことを言ったけど、どうでもいいなぁ。というか自分で自分を認められないやつに彼女とかできるわけないだろうに。それより今は倒したいやつがいるからな


「お前しけてんな」
「そういう麺山はどうなんだよ」


僕にそんなことを聞いてくるってことはお前は彼女の一人や二人・・・いるわけないか。すまない


「事実だけど謝らないでくれよ。余計に虚しくなる・・・じゃなくて、今のクラスの状況を見てみろよ」


この口ぶりからすると、なにか起きているらしいが・・・甘いな


「僕にそんな余裕があると思ってんのか。こっちはあの荷台に放り込まれ誰とも代わってもらえず夜はお前らからの愚痴に付き合い質問攻めにあっているこの僕に」
「あ、ははは」
「笑ってんじゃねぇ」


どうやら僕が代わってもらえなかったことと関係があるらしいな。さあ。今度はこっちの番だ。すべて話せ。


「ほら、今さ、ちょっとした異常状態だろ?それで吊り橋効果というかなんというか」


つまりはこの短期間で急にカップルが急増したと。ならそれこそ僕と変わりたいだろうに。この期に乗じて一ノ瀬や日暮さんを落とせばいいのに。


「そう考えたやつもいたんだけど・・・ほら、あいつら競争率が高いからひとまずは停戦協定を結んだんだ。学校に着くまで誰も手を出さないって」


なんでだよ?なんでそこで急に奥手になる。恋にルールなんてないだろ


「いやぁ。お前と変わろうにもあそこに乗るためにはそれなりに理由というか・・・あのメンバーを見たら自信をなくすだろ?」


そりゃ勇者にイケメンにレアスキルに新スキル、なんかやべーやつとクラスのヒロインと委員長だもんな。


「お前疲れてるだろ・・・後半変になってたぞ」


誰のせいだと思っているんだよ。まあ用は男子なら一ノ瀬に、女子なら日暮さんとジュリエットに気後れしたということなんだろう。恋が成功すればいいが、失敗すればダメージがでかいだろうし。


「一番の理由は最初にお前もなんかやべーやつって思われていたことなんだよな」
「え?」


なにそれ初耳


「ほら。お前だけじゃん。麒麟にあってるの。それでお前は実は選ばれたものじゃないかって思われているんだ」
「なにそれ。それはただの偶然で」
「そうなんだろうさ。それは俺たちは知ってる。でもさ、みんなからしてみたらすげーことなんだよ。さらに森で一ヶ月というサバイバルを生き抜いてる。それらを加味してそんなイメージになっちゃんたんだよ」


ま、今はもうお前は普通なやつって思っているけど最初が最初だし今更言いづらいんだよ。だから諦めてくれ。そう言われてもな・・・・結局最終的に僕は普通なやつってことに落ち着いたんかい。


「ま、そんなことだ。あー俺も彼女欲しいなぁ」
「それこそ四万十さんか五月雨さんを狙えばよかったのに。一ヶ月一緒だったんだから」
「それは紅も同じだろうに」
「まったくだ。角先のやつはいつのまにか山胡桃さんとくっついていたしよ」


そう、なんか仲が急接近していたあの二人だけど気がついていたら・・・ん?それも初めて聞いたんだけど


「知らなかったのか?だからお前さっき山胡桃さんの名前あげなかったんだろ」
「あはは」


そうだったのか。角先のやつ、僕に気を使ったんだな。まったく良くできた親友だよ。爆ぜろ。あいつ森でサバイバルしている時になんてものを手に入れてやがるんだ。命かかってたってのに


「それな。・・・それを言われるとさっきの紅の言葉もわかるな。今はそれどころじゃないってやつ」
「あー確かに」
「そうだなぁ」


今ここにいるのは僕、天衣、麺山、米柔の四人。だからみんなちゃんと理解してくれる。これは知らないとわからない部類のものだから。生き抜くのに必死で他のことが二の次になっている経験をしたものでないとわからない感情だ。


「ま、せっかくの学校生活だ。楽しもうぜ」
「そうだな〜俺も可愛い彼女できるかな」
「「「それはないかな(と思うよ)」」」
「お前ら揃いも揃ってひどいな」


今日は昨日おとといと違って楽しく過ごすことができたな。気を使ってくれたのかな。丁度いいガス抜きになったかも。こんな感じで一週間が過ぎていった。

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