電気使いは今日もノリで生きる

歩海

第0章エピローグ



あれから一ヶ月の時間が過ぎた。厳密には一ヶ月かどうかはわからない。ただ、この世界に来てからもう30を超える日が過ぎたことだけは間違いない。


あのあと、傷は応急処置がされていただけなので二人とも立ち上がれはしたものの歩くのはかなり大変そうだったのでその場所で一晩過ごすことにした。おかげさまで戻った時にみんなにこっぴどく叱られてしまった。帰ってこない僕らを心配してくれたのだろう。その時に「死」というものを意識したそうだ。


僕は麒麟から聞いたことをすべて話した。王都にクラスメイトがいること、何かはわからないが僕たちがこの世界に呼ばれたのにはなにか理由があること、を。ただ、僕は自分の決めた目標は話さなかった。天衣と角先もそんな僕を気遣ってかなにも言わなかった。


王都にクラスメイトがいることが分かったので僕らは合流を優先することにした。つまりは全力でこの森を抜けるというものだ。やはり人間は理由があると強い、それを感じた。


僕はあれからどうなったのかというと、道すがらに出会うモンスターに対してちゃんと戦えるようになった。最初は難しかったが死にたくなかったので死に物狂いで戦える様になった。使える技能は『電撃thunder』と『電気鎧armor』だけで変わりはないけれど、あの熊がしていたことを参考にして新しい魔法習得に向けて頑張っている。


まだまだ戦闘にかんしては未熟ではあるものの、それでも一歩ずつ前に向けて進むことができていると思う



他の人についてだけど、まずは残念な知らせを一つ。僕は結局山胡桃さんとの関係を改善することができなかった。あの日、僕らが帰って来た時の姿は、僕以外が怪我を負っている状態だった。命に別条はなかったものの、なにがあったのか知らない彼女からしてみれば僕は友人さえも殺そうとした人に見えたのだろう。真実を話したとしても、僕だけが無事であるー戦わなかった事実は変わりなく、誤解を解こうと話した結果、僕は臆病者の烙印を押されてしまった。そんな彼女はあれから『収納箱アイテムボックス』を習得した。ある程度のものまでなら自在に収納できる優れもの。どうやらその中では時間さえも止まっているらしく、そのおかげで僕たちはいつでも生きている新鮮な魚を食べることができた。・・・この一ヶ月ほとんど魚しか食べてないんだよな。栄養が偏って偏って仕方がない。これも僕たちが誰も草花に詳しくなかったからかな。


天衣はあれから練習を積んで、ついには空を自由自在に飛べるようになった。空から俯瞰的にみる手段を手に入れたことで、僕たちは大分先の場所まで見ることができるようになった。他にも僕と同じく風を体にまとった状態『風鎧』を習得した。何気にこいつは器用だよなと感じる日々。もしかしたら一番成長したのはこいつではないのだろうか


角先は新しく魔法こそ覚えはしなかったものの、電気吸収量を大幅に上げた。熊の放出量に負けたことがどうしても悔しかったらしい。・・・それはいいんだけどもそれに付き合わされるのは当然僕なんだよな。毎日毎日こいつに電撃を打ちまくったよ。しかもその特訓をするためにはこいつに電気を限界まで貯めさせなければならない。つまりは僕がそれだけの電気量を放出しなければならにということになる。その日その日で火を起こすために電気は消費されるしおまけに過ごしているだけで少しずつ放出されるというのだ。さすがに毎日毎日電気で攻撃し続けたらいつかは超える時が来るからと言われて納得して付き合うことにしたんだけど、これは結局僕の特訓になってたからな?極限まで電気を放出してチカラ尽きるまで相手をして・・・こいつのせいで僕はまともに自分の時間を割けなかったと言っても過言ではない。体感的には僕が100人くらいいないとたまらなかった気がする。まあ、僕も放出量が大幅に向上したからいいけどさ・・・ほんと、雨が降って近くに雷が落ちるということがなかったら終わらなかったんじゃないか?外に出たあいつが何発の雷をその身に集めていたのか知りたくない。知れば自分の放出量の無さに泣きそうになってくるからだ。最終的には天衣が吹き飛ばして雨雲の中に突っ込んで行っていたな。こいつに関しては何もかもが規格外になるからここら辺で


麺山と米柔は特に戦闘用の魔法を習得しなかったけどももっとも偉大な魔法を習得した。そう、『地形把握』だ。砂は地面に存在しているもの。僕が電気を天衣が風を操れるように彼らも砂を操れるのではないか?結果としては操るのは無理だったが、それでも周辺の地形を把握することはできるようになった。どうやら魔法というものは同じまたは似たような魔法を複数人が同じタイミングで発動すると互いに打ち消しあったりするが、チカラを合わせようとすると相乗効果が生まれ、一人で発動するよりも強い魔法が発動するみたいだ。森全体を一度にすべて把握することは無理だったがチカラを合わせて少しずつ進めていくことで最終的には近くにある町ーすなわち王都の場所を特定することができた。これによって僕たちは王都を目指して進むことができるようになった。


五月雨さんはもっとも変化がなかったが、そもそも精霊魔法なんてそんなもんだと割り切っていたみたいだ。それでも話を聞いてくれる精霊の種類は増えたみたいで喜んでいた。砂の精霊がチカラを貸してくれていたみたいでその結果『砂』コンビの『地形把握』はより広範囲を探知できるようになっていたみたいだ。二人のコンビプレイ+精霊のチカラ(つまりは五月雨さんの手助け)によって森を脱出することができたみたいだ。そういった影でみんなを支えてくれているみたいだ。


四万十さんはこれまたどんどんチートを開花させていった。『回復ヒール』『付加』の他に『浄化』を使えるようになった。これは物質を清めてくれるようで、いちいち煮沸していた水をじかに飲むことができるようになった。細菌類もまとめて駆除できるようになったので食中毒の心配がなくなった。おまけに『回復』と組み合わせていくことによって風邪を引いたとしてもすぐに治療が行われるようになった。僕らの探検を安全にかつ快適にしてくれた。もし四万十さんはいなかったらと思うとぞっとする。まあこれは彼女だけに限らずに全員に言えることなんだけど。だと信じたい。僕の出番なんて最初だけだからね。火おこしも雷に突っ込んだ角先が賄えるようになったというかもはや僕と同じことができるようになっていたし。僕からしたら『帯電』も地味にチートだからな。電気を自分で生み出すことができないとはいえ一度溜め込んでしまえば『電気』使いと同じことができるなんて。と、話が逸れたけれど、僕らはこの8人・・・8個のスキルだったからこそ、森を脱出することができたんだと思う。なぜ僕らだけここに転移しちゃったのかはわからないが、今はそんなことを気にしない。とにかく僕らは森を脱出できたんだ!


「『地形把握』!っと、この先にお城?のようなものがある。この世界のこの場所の都かもしれないな」
「マジか!方向は?」
「こっちの方向にまっすぐ行くと整備された道が見えてくるからあとはそれの道なりに沿って進んでいけばたどり着くよ」


僕らはその言葉を信じて進んで行く。王都にいきなりいって大丈夫かと思ったけども麒麟の言葉が正しければ王都にはクラスメイトがいるだろう。それで多分なんとかなるはずだ。多分。


しばらく進んで行くと、道が見えた。さらに都合のいいことに人がいた。位の高い人がいるのだろうか。立派な馬車だ。おまけに武装した集団ー騎士団かな?ーも後ろに控えている。


「よかった。あれ国の要人だよ。保護してもらおう」
「今更だけど・・・言語大丈夫?」
「・・・・」


ま、まあ麒麟とまともに会話ができていたし大丈夫でしょう。実際、それは杞憂だった。僕たちの言葉は正しく彼らに伝わった。


「あのーすみません」
「なんだ?このお方の前を横切ろうなどと無礼であるぞ」


そして向こうの言葉もわかる。なんでお互いに通じるのかはわからないけれどまあラッキーと思っておこう。


「いえ、あの・・・信じてもらえるか分からないのですが、この国に召喚された人の仲間といいますか」
「!!!」


召喚されたという言葉を聞いた瞬間彼らに緊張が走った。え?何かまずいことを言ったのかな。あ、僕だと余計なことを言いそうってことで交渉と説明は角先と五月雨さんが行ってます。適材適所だね(泣)


話を聞いてくれた騎士が後ろの立派な馬車に話しかけている。雲行きが怪しいなあ。本当に大丈夫なのだろうか。そもそもこのお方っていっているけど実際のところどれだけ偉いのか分からないし。もしかしたらそこまで位高くない・・・下級の貴族だったりしてな。だから召喚の話が伝わっていないとか。召喚の儀とか秘密裏にやること多いらしいし。


「・・・少なくともお前が話すよりかは大丈夫だ」


思っていることを素直に言っていたら身が持たないねぇ。「なら直せ」もう癖みたいなものだしなかなか治らないんだよね。


お、どうやら話し合いが終わったようだ。先ほどの騎士が戻ってきたぞ。


「お前たちが言っていることの意味はわからないが・・・嘘を言っているわけではないようだ」
「!で、では」
「うん、というわけでひとまず捕えさせてもらうぞ・・・・・・・・・


その言葉を聞いた瞬間眠たくなっていた。なにかしらの魔法を掛けられたようだ。


「ぐ・・・・『電気よrarm』」


慌てたこちらも魔法を唱えて応戦しようとしても遅かった。そのまま意識を失ってしまう。・・・眠くなったということは精神系の魔法だよな。『電気鎧armor』って体の表面を覆うだけで精神にくるやつ弾けないじゃん


「安心しろ。殺しはしない・・・少なくとも今はな」


騎士はそう呟いていたが、それを聞いていたものは一人としていなかった。








第0章 森からの脱出 完

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