電気使いは今日もノリで生きる
人って弱いよね
熊と戦っていたらいつの間にか美しい獣の姿に変わっていました。4足歩行を行っているが、足は地面についていない。姿は馬?馬に似ているかな。でもサイズは小さい、子馬みたいな感じだ。強いて言うならみんながイメージするユニコーンに近いかな。頭の部分に一本ほどツノが生えているし。でもなにより存在感を放っているのはその毛並み、五色の毛の色を持っていてそれは、とても美しかった。
そんな生き物が一体なんでここにいるのだろうかそして熊はどこにいったのだろう。疑問は絶えない。
『臆病なくせに質問が多いですね』
臆病なのは・・・間違っていないな。さっきの戦いにおいて僕は何もできなかった。できなかっただけならまだいい。僕は何もしようとしなかったんだ。これを臆病と呼ばずしてなんと呼ぶのだろう。
『最後には一応戦う姿勢を見せましたが・・・まあそれに免じて幾つか答えましょう。異世界人なのでサービスです』
僕らが地球からきたことを知っているのか?ますます謎が深まるばかり。それでも教えてくれたことをまとめると、
この生き物の名前は『麒麟』というのだそうだ。麒麟っていうと、あれだよね。中国の昔話とかに出てくる青竜とか朱雀とかと同じ伝説上の生き物だよな。電気を司ると言われている伝説の生き物。
『違いますね、確かに雷をイメージする人間も多いですが、私は才徳兼備の象徴ですね。もちろん雷属性も使えますので』
そうですか。雷属性もですか。その言い様だと得意な属性は別というわけね。そしてあの熊ー個体種『グリム』は麒麟が追っ払ったと。殺したわけではないのでまだ生きていると。それでもそれなりに怪我を負わせたのでしばらくは傷の回復のために動けないだろうと。
この森の名前は『麒麟の森』。名前の由来は麒麟がここに住んでいるから。なんのひねりもないつけ方だが『おや?私の名前に何か?』なんでもございません。
この森は麒麟が主なそうで、基本的に暴れている動物などはいないらしい。それでもこの森に住んでいるモンスターは他の土地と比べレベルが高いそうだ。そんな高難度ダンジョンにいきなり放り込まれるなんて無理ゲーもいいところだ。
『それについては・・・少しばかり手違いがあったことを謝罪します。あなたたちも本来王都に転移させる予定だったんです』
『も』ってことは他にもクラスメートたちがいるってことなのか。やっぱり僕たちだけじゃなかったんだ。それよりも気になっていることは転移させる予定って話。つまりそれが意味することは
「目的はなんなんですか。僕たちを転移させたんですか」
麒麟は目的を、理由を知っている。それはとても大切なことでー
『あなたはそれを知ってどうしようというのですか?何もできないあなたが』
「・・・」
『無知は罪ですが、知らぬが仏という言葉もあります。あなたは知らない方がいい』
正論なのかはわからないが麒麟の言っていることに何も反論できない。先ほどの自分の姿がずっとちらついて離れない。
『もういいですか?今のあなたには多くを語る必要がない』
そのまま空へと飛び立ち、立ち去ろうとする。待って、もっと、教えてよ。僕たちがここにいる意味をここに連れてこられた目的を
『では最後に一つー私に「理由」を求めないでください』
「!!!!」
麒麟が最後に告げた言葉、それが一番僕の心に突き刺さった。他人に「理由」を求めるのは自分で「理由」を見つけることができないから。一人では何もできないから他者を理由にすることでやっと動くことができる。弱いから・・・理由がなければという思いは裏を返せば自分で決めて進むことができないということ
僕はどこまで弱い人間なんだろう。みんなの前ではなんでもないように振舞っていたけれどもいざという時になんの役にも立ちやしない。一番ダメな人間じゃないか。天衣や角先はすごいやつだと思ってーそうだ!あいつら大丈夫か
慌てて倒れている二人に近づいていく。もしタイミングが遅かったら二人は・・・
「・・・・・」
よかった。気を失っているだけだ。角先は脇腹をえぐられていたけど・・・・あ、簡単な治療が施されている。麒麟の力だろうか。
二人が目を覚ますまでしばらくここにいよう。僕にできるのだろうか。何もできなかった僕が・・・いや、今度こそは・・・本当に?ずっと、ずっと堂々巡りしてる。僕はどうすればいいんだろう。僕は何がしたいんだろう。
「そういえば・・・角先と最初に会った時もこんな感じだったっけ」
なんだかんだでこいつとは付き合い長いからな。最初に会ったのは高校一年生の頃。え?1年くらいの付き合いだって?こっちはまだ17歳しか生きていないんだよ。そのうちの一年間ってことはそれなりの比重を占めるはずだろ。特に昔の記憶なんてないしな。さらに昔にはまともに友人なんて・・・この話はやめようか。
高校入学当初の僕は、今と違って人とのコミュニケーションをとりたいとお思ってもなく、また取ることも苦手としていた。今も変わらない?ナニモキコエナイネ
だから、ずっと一人で過ごすのかなって思っていた。でも、少しだけ、期待していた。よく世間では高校デビューだとか大学デビューとかなにかとからかってくる人もいるが、僕はそうは思わない。むしろ環境が変わった時だからこそ、自分の何かを変えたいと思うのではないだろうか。
正直なところ、僕は今までの自分に少しだけ嫌気がさしていた。容姿については何も思うところがないが、まあ普通の日本人だからね。黒目黒髪・・・そりゃそうか。あまりぱっとしない風貌。あのイケメントリオみたいに女子たちが騒ぎ立てるほどでもないし、さりとて『あいつ気持ち悪くね』と噂されるような顔では・・・ない、はず。知らないけどきっと。きっとそうだよ。というかなんで僕たちってイケメンが爽やかで不細工は気持ち悪いがイコールで結ばれているのかな。そんなんだからいろいろな差別問題が解決しないんだよ。そんな感じで見た目についてはほんとぱっとしていない。じゃあ成績とかはどうなのかっていうと、理科は好きかな。二年生になって理系に進んだし、二年生になってからは化学とかわりと得意だけど・・・と好きと得意は別だっけ。ま、とにかくみんなに自慢できるような立派な成績があったわけでもなく、理科はそれなりだったけど他は平均点あるかないかかな。運動面は・・・昨日の今日で筋肉痛になっていただろ?苦手ですよ。
そんなわけで特に特筆すべきことのない僕だったから、『何か』を変えたくて高校に入学した。そのころから少しばかり異世界モノの話を読んでいたしね。こういった現実的でないことは起きないとは思っていたけど大体の話が高校生くらいだからきっと高校生にはなにかあるんだろうって思っていたね。いわゆる『痛い勘違い』というやつさ。それが行き過ぎれば高校デビュー(笑)とからかわれるんだよな。
そんなこととを夢見ていたけど現実はそんなに甘くない。入学式が終わり、クラスのホームルームが終わって・・・活発的な人はもう友人を作れている。友人同士でなかよく話している姿が見られる。いったいどんなコミュニケーションの高さを持っているんだろう。羨ましい。
「お前はあいつらの輪に加わらないのか?」
なんともなしに眺めていたら急に声をかけられた、それが、角先との初めての出会いだった。
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