電気使いは今日もノリで生きる

歩海

技能の簡単な覚え方



石が焼けるまでの間、火加減は角先と山胡桃さんが見てくれるらしいので僕は天衣と二人で探索に出かけていた。歩きながら各々自分の訓練を行っていく。あまり開けっぴろげに公開したくなかったからちょうど良かった。


バチバチ・・・ビュウウウ・・・・


二人の特訓の音だけが響く。


「なあ、お前は何をしているんだ?そうやって電気をパチパチやってさ」
「ああ、電気を体に纏うことができないかなって」


僕がやろうとしているのは電気を手から出すだけでなく、体全体から出すことができるようにするというものだ。電気の鎧を纏うといえばわかりやすいだろうか。まあ長時間纏うことができていなくても構わないんだけどね。


「お前も俺と似たようなことをしているんだな」
「お前がしてるのは物体の移動だろ?違うだろ」
「いやいや、それは今日やることで・・・俺も風を体に纏えないかって思考錯誤してるんだよ」


もしかして天衣も僕とおなじことを考えているのかな。そりゃ容易に想像できるもんな。というかこいつの能力めちゃくちゃ便利じゃないか?今の状況で一番役に立つ能力だと言ってもいい。少しのものを安全に運ぶことはできるは、濡れた体・・・・乾かす《・・・》こともできるは・・・それに洗った制服もその場で乾燥させることができるんじゃないか?僕らは学校にいるときに異世界転移しちゃったので身だしなみは全員学校の制服だ。


「おお、それ便利だな。うわーやらなきゃならないこと多すぎる」
「あれ?そういうつもりじゃないのか?」


てっきりそうだと思っていたんだが違ったのか?だとすれば何のために・・・?


「ああ、五月雨さんに言われたんだけど風を体に纏うことができたらそのまま飛ぶことができるんじゃないかって。そうすれば空からこの森を見ることができるだろ?この森脱出に役立つんじゃないかって」


なるほど五月雨さんの考えだったか。こいつがそんなこと考えつくはずがないよな。「いや、お前ほんとちょいちょい失礼なこと言うのなんなの?」だってお前水浴びをしたらどうなるか全然想像していなかったじゃん。「・・・それはそうだけど」


五月雨さんはどうやら「先」を見据えているみたいだな。だから身だしなみに気をつけているんだな。転移前のクラスの状況から鑑みるにほとんどのクラスメイトが転移したとみていいようだ。ああ、あの三イケメンとかを意識してるのかな。あいつら爆ぜねえかな。あれ、天衣から冷めた目じゃなくてかわいそうな人を見る目で見られてるんだけど


「どうしたんだ?お前。そんな目をしてると悲しくなるだけだぞ」
「お前ほんとデリカシーないよな・・・というかお前ってこんなキャラだったんだな皮肉屋というかなんというか」


なんか勝手に納得されたようでムカつくなぁ。それに五月雨さんだってこの世界で誰かこの世界の住民と会うことを想定しているんだろ。僕らの見た目が綺麗か否かで相手に与える影響は段違いだ。そしてそれは僕らのそのあとの対応に差が出てきてしまう。できる限りいい方向に向かうために体を清めておきたいんだろう。


「そっちだけを思えばいいものをお前なんで余計なことまで思うんだよ」
「なんか言ったか?」
「いや別に?」


ならいいけどさ。さて、訓練の続きをするとしますか。うーん、コツとかないのかな。手からしか電気を出せないんだよな。ヒントとなりそうなのは・・・。チラッと天衣の方を見る。こいつが『鎌鼬』を使ったときのことなんだよな。こいつは腕全体・・・に風をまとわせていた。あれを応用すればきっと体の全てを覆うことができるだろう。


バチバチ


うまくいかないなぁ。最初に『電撃』を覚えた時もそうだったけどそんなぽんぽん技なんて使いこなせないよな。角先にしたって四万十さんにいたってどうやって技を習得したっていうんだ?そんな風景を特に見た覚えがないんだけど・・・僕の見てないうちに特訓でもしていたのかな。なんか悔しいな。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。だから・・・


「なあ天衣。お前『鎌鼬』を使う時どうしてる?」
「え?そりゃあお前に言われたように腕を枝に見立てて・・・」
「!!!!」


そうか!それなら・・・落ちている枝を拾う。


「何をしようとしているんだ?」
「少し待ってて集中する」


枝から電撃を放つ・・のではなくて、枝に電気を纏わせる・・・・。やることは最初と変わらない。枝に電気がまとわりついているその様をイメージするだけだ。枝を構え、腕を前に出す。


イメージするんだ。イメージの対象は・・・そうだな。なんかアニメでよく見るオーラだ。あれをイメージして・・・


ビリビリビリビリ


「おーすげえ。枝に電気の膜?というか雷属性が付与された枝みたいになっているな」
「そうだな。そして」


枝を投げ捨てる。あとは同じ作業の繰り返しだ。枝の感覚・・を思い出して、同じように体に電気を纏わせる。


ピリっ


ピコーン『技能『電気鎧armor』を習得しました』


うまくいったな。なんだそういうことなのか。これからいろんな技能を習得していくんだろうが、この基本をきちんと押さえておこう。


「お、うまくいったっぽいな。なあ教えたんだし俺のも手伝ってくれよ」
「いいけど・・・これ気がついてしまえば簡単なことだぞ」


大切なのはあくまでイメージ。使う人間が使いたい技能を正確にイメージすることでその技能を習得できる。だが、イメージできたとしてもそれはあくまで『頭』ー次の話を進めやすくするためにここでは『心』とでもしておくかーだけの話である。まだ『体』はそれを使うことをイメージできていない。だから一度枝といった別の媒体を使うことによって『体』に技能を使う感覚を覚え込ませる。おそらく枝は簡単に成功した理由に枝には意志が宿っていない、待てよ五月雨さんのスキルが『精霊』ってことを考えると自分の意志とは無関係と考える方が自然か。だからこそ、簡単に技能を使うことができた。『心』と『体』とくれば当然残りの『技』が出てくるが、これは異世界風に言うなら枝のレア度が必要とか僕自身の力が必要なんだろうけど、『電撃《thunder》』も『電気鎧《armor》』もそんなに技術を必要とするものじゃないのだろう。だからあまり慣れていない僕でも使うことができた。それが今回の実験で得た推論かな。


さて、やらなければならないことは終わったしのんびり散歩がてら探索でもしましょうかね。どうせすぐに戻らなかったって問題ないだろ。


「いや、早めに戻った方がいい。女子たちからこれ以上評価を下げられたくないだろ?」
「これ以上って・・・そうだな。もう帰るか」


今ならまだ新技の習得をしていましたって言い訳ができる。まあ今朝の五月雨さんの様子を見たら変にたてつかない方が賢明だよね。今どうなっているのかな。遠くを見通すことができたら楽なのにな・・・ん?


「なあ天衣、遠くの音を風で拾うことってできないのか?それをすれば索敵とかが大分楽なんだけど」
「お!それもそうだな・・こんど試してみるよ。にしてもお前ほんとうにいろんなことを思いつくなぁ」
「そうか?思ったことを口にしてるだけだけどな」
「・・・それがいい意味でも悪い意味でも発動しているんんだよな」


なんかしみじみ言われて傷つくなあ。お、戻ってこれたな。どれどれ・・・石の様子は・・・?


「あ、遅かったね。早くしてよみんな待っているんだから」


はい、時間切れ《タイムオーバー》でした。

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