電気使いは今日もノリで生きる

歩海

女子からの株が大暴落しました

聞けば僕らの組は4番目とのことだったのでこのまま夜が更けるまでずっと起きていた。最初はそれなりに弾んでいた会話も今ではポツリポツリとなってきた。僕はそもそも人見知りする質で四万十さんも本来は積極的に人と話すようなタイプではない。気まずい沈黙ではなく、どこか心地よさのある沈黙が続いていた。


「ん・・・」
「お、起きたかおはよ」


そんな感じで過ごしているといつの間にか日が昇り始めていた。ここは外のために日が登れば日光を遮るものが何もないため日の光がダイレクトに届く。だから眩しさのあまり起き出す人もいる。天衣と五月雨さんだ。まあこの二人は最初の見張りということでしっかりとした睡眠をとることができたのだろう。疲れを感じさせない感じで体を起こした。


「おはよ・・・うー体痛い」
「それは確かにな」


みんなが起き始めて気が緩んだのだろう。体のあちこちが痛い。野宿が始めてだから外での寝方、寝心地の悪い場所での寝方がようわからず、体の節々が痛い。まあそりゃこんな場所で寝たらそりゃ体痛めるよな。それに・・・立ち上がって歩いたわけではないが、きっと昨日の歩行によって太ももあたりは筋肉痛はだろうな。え?普段から運動していたら大丈夫?なめるなこちとら帰宅部なんだよ(泣)


「おはよう、早速で悪いけど、今日はどうしてもやらなければならないことがあるわ。まだ寝ている人もいるけれど・・・まあ天衣くんと紅くんがいれば大丈夫でしょう。すぐに取り掛かるわよ」
「ちょ、ちょっと待って。何をしよってんだ」


なんだろう。かなり焦っている感じだな。そんなに緊急を要することってなんだろう。あ、寝床かな。昨日と今日はたまたま晴れていたからよかったけど、これから雨が降る日が当然くる。その時にしのげる場所を確保しておかなければ僕たち全員ずぶぬれだ。風邪を引いてしまうかもしれない。それは嫌だな。じゃあ今日は雨宿りできそうな場所を探す感じかな。


「紅くんって乙女心が全くわかってないんですね」


え?僕何か間違ったこと言いました?すごく冷たい目を向けられているのですけど。あ、五月雨さんからもきてる。僕にそんな趣味はないのでやめていただきたい。かなり心臓に悪いので。


「紅・・・流石にそれはひどいぞ。だからお前はモテナイんだ」
「大丈夫だ。モテナイのはお前も同じだから。仮に僕がモテナイとしてもお前がモテるという事実は存在しないから。周りを下げたところでこういうのは絶対評価だから相対評価じゃないから」
「うるせー。今はそんなことを言ってるんじゃねえよ」
「じゃあ何のことなんだよ」


もしかして天衣はわかっているのか。彼女たちが心配しているってことを。ま、どうせ見当違いなことを思ってるんだろうな。この状況で絶対に必要なものなんて食事と寝床ぐらいだし。


「風呂だよ風呂・・・さすがにここまでいえばわかるよな」
「・・・」


あ、そういえばそうだったね。いやー。忘れてた忘れてた。お風呂に入れないって確かに女子からしたら辛いよな。


「今気づいたって顔してるけどよ。まさかお前平気なのか?」


向けられる視線が一層冷たくなったんだけど、僕が不潔だと思われている?いやいや、そんなことないですよ。単に余裕がないだけですよ。いやほんと


「コホン。というわけでお風呂を作りましょう。あとできれば服も洗濯したいけど・・・贅沢は言っていられないわね」


服を川であらってその間裸でいれば辛いですよね。うん。さすがにこれ以上考えるのはやめよう。女子からの視線が氷点下を割りそうだ。好感度が一気に下がりまくってるんだけどなんでだろうな。ここは一発逆転をかけてなにかいい案を考えなきゃ。


「それでどうするのかだけど」


あ、もう考えているんですかそうですか。名誉挽回のチャンスだったのにな。それで、具体的にはというと、ああ、木を伐採しまくって川の一部分を囲い、そのあとその部分を加熱すると。で肝心の加熱方法が


「電気を加え続けて加熱、と」


どう考えても無理なんだけど。そりゃ電気ケトルというものがありますけどね。それとはどう見ても別物でしょう。だいたい腕突っ込んで電撃放って加熱するのにどれだけのエネルギーが必要なのかわかってるのか?水の比熱は確か約4.2J/Kだったはず。で、水の量は推定300L。水温は・・・まあ室温の25度と仮定しよう。つまりお風呂の温度である40度にするために必要な熱量は・・・18900000Jですか。僕の電撃がよくわからないけど一般的な家庭の電気である100V1Aだとすれば・・・189000秒時間に直せば52.5時間連続で加え続ければいいと。


「さすがにそんなにもたないんだけど?というかこれ熱効率100%での計算のもとだからね?」
「でも電撃もう少し強くないか?まあそれでも辛いだろうが」
「うーん。そんな無茶なことはさせたくないけど・・・困ったわね」
「そんなに時間かかるんですね」


どんぶり勘定だから実際のところはわからない。でも今の僕は長時間電撃を放ち続けることは不可能だ。そもそも水が電気分解されるのが先じゃないのかな。やっぱり一から作り上げるのって難しいんだな。しかも誰の助けも借りないで。今では当たり前のようにできていることでも昔の人の試行錯誤によって作られたことなんだな・・・昔の人?


「あ!」
「どうしました?」
「五右衛門風呂・・・だっけ?とにかく、加熱した石を水の中に入れて温度を上げるやつ。火はあるんだし石もそこらへんに山ほどある。これならいいんじゃないか?」


そんな感じのやつテレビでやってなかったっけ?何風呂っていうんだろ。それなら無茶なことは何もないし大分現実的だと思う。問題はそれがきちんと成功するのかってことだけど


「それならなんとかなりそうね・・・でも誰が石を入れるの?加熱された石なんて触ったら火傷してしまうわ」
「それは・・・」


気合いで僕が入れますって言おうかな。でも火傷は嫌だな。


「それは俺がうまいこと風で運ぶよ。物を風で運ぶ練習はしたかったしちょうどいいだろ」
「確かにそうね。じゃあ加熱をはじめましょ。聖奈ちゃん。また『付加』をお願いね」
「はい。わかりました」


昨日と同じように『付加』が施された木々で台を作りその上に石を置いていく。直接加熱しても良かったがそれだと取り出すときに危険すぎるということで取り出しやすい上に置いた。


「加熱している間に木で囲いを作りましょうか。天衣くんは練習しておいてほしいから私と聖奈ちゃんと紅くんの三人で作業しましょ」
「それならもう麺山と米柔に頼んで済ませておいたよ。木よりも土壁の方が早くて楽だしな」
「あ、角先起きたのか」
「ああ、まだ少し眠いがなんとかな。これでお風呂はなんとかなりそうだな」


シャンプーも洗剤もないからほとんど水浴びみたいなものだけどそれでも大分違うよな。こう、気分的に。


「そうだな・・・これはレディーファーストということで、先に女子たちに入ってもらうとして、その間俺たちは周囲の探索だな。今は雨が降っていないからいいけどそのときのために雨宿りの場所を確保しておきたい。それに、居心地がいいなら拠点を移してもいい。あとは街とかが近くにないかそれもな」


まあ妥当かな。・・・米柔のやつなんかたくらんでいる顔をしているけど触らぬ神に祟りなし知らんぷりをして過ごそ。え?じゃあ僕が何をするのかって?そりゃもちろんこの先に起こりうるであろう危機を回避するための特訓だよ

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