電気使いは今日もノリで生きる
魔法一つ覚えるのはこんなに楽じゃないよな
僕らは移動を続けていた。移動と言ってもなにか当てがあるわけではない。いきあたりばったりの行動だ。とはいえ、太陽の感じから今の時間を大まかに知ることができた。11時か13時だ。・・・二個あるのはしょうがないじゃん。どっちが北なのかわからなかたから。そもそもスペースαが地球と同じような時間軸で動いているのかという疑問は当然出てきたんだけど、そこはもう諦めるしかない。いちいち考えていたらそれこそ時間の無駄だ。五月雨さんの判断で僕らはいったんこの問題を無視することにした。となれば次に考えなければならないのは今の時刻だ。これも地球と同じと仮定して考えるしかないが、今上空に出ている明るい物体をアポロαと名付け、そのアポロαが見える位置が真上よりもやや右。つまりは12時(仮)の近くと考えることができる。だが、さっきも言ったように北の方角がわからない。つまりは西と東がどちらであるのかわからない。なので大体の感じで12時付近の11時か13時であると予測した。まあこれはこれからアポロαが動くことでどちらが正しいのかわかるだろう。転移前の時間が13時頃だったことから今の時間も同じだろうと思っているけれども、ここは異世界、何があるかわからないからここまで断定することはできない。
「なあ『砂』スキルでこの辺りの地形とかわからないのか?」
「知るかよ。少ししたら試してみるからそれまで待っとけ」
思いついたまま言ってみる。そうそう、角先が提案したことなんだけどそれは移動しながら各々で自分のスキルで何ができるのか試してみようというものだ。せっかく異世界に来てスキル何てものが与えられたから使ってみたいと思うのが人情だ。それにいざという時に使えたほうが何かと便利だしね。
といっても、初めてのことでわからないことが多すぎる。そもそも『電気』ってなんのことなのか。電気の魔法を使うことができるのか。それとも体が電気みたいになっているのか。それについても考察しなければならない。
まずは手始めに電気の放出をイメージしてみるか。自分の指先から電気が出てくるのをイメージして・・・どうだ!
バチっ
「・・・・・」
「・・・紅?」
「すまない。見なかったことにしてくれ」
「あ、ああ」
角先のその労わるような声色が地味に傷つく。そりゃ天変地異が巻きおきこるおような超特大魔法が出てくるとは思っていないけどさ、それでも最初にしてはひどすぎるだろ。なんだよ一瞬指先が光ったと思ったらそれで終わりって。せめて電気が流れるような感じにならないの?僕の指先は電球じゃないよ。
「電球というかボルタ電池だよな」
「うるさい。ダニエルくらいはあるっつーの」
「見栄はるなって。時間的にも一瞬だろ?」
「ぐぬ・・・」
綺麗なまでに論破されてしまう。というかなんだよ。見なかったふりをしてくれるんじゃなかったのか。あ、ボルタ電池とダニエル電池について一応説明しておくと、ボルタ電池は最初に発明された電池でダニエル電池はボルタ電池を改良して発明された電池ってところだな。まあ今ある乾電池と違ってすぐに使えなくなっちゃうんだけどね。バチっ
「ほら、無理するなって」
く、もう一度挑戦してみたけど結果は同じかよ。うーん、何が問題なのかな。イメージが足りてないのかな。もっと強い電気が放出されるのをイメージして・・・バチ
「・・・さっきより弱くなった?!
「さっきからばちばちうるさいんだけど。何してるんだ紅」
「いや、電気を指から放出できないのかなって試してるんだけど・・・天衣はどう?何かできるようになった?」
僕と同じく基本属性のスキルを手に入れた天衣に聞いてみる。ここは恥を忍ぶべきだ。同じようなスキルを手に入れたんだし、なにか進展があったのなら聞いてみても損はない。
「うーん。俺も風を生み出そうとしているんだけどなかなかうまくいかないな」
「やっぱり小説みたいにはいかないよな」
「だな」
お互いに異世界転移ものの作品を読んだことがあるからかここら辺の知識のすり合わせはスムーズにできる。だいたいの主人公は当たり前のように魔法を使ったりしているがそれがここまで難しいとは。ん?そういえば
「なあ、呪文とかないのかな?」
「おお、そう言えばそうだな。風系統だと・・・これか『風球』」
・・・何も起こらない
「やっぱり無理か。これでだいたい魔法が発動したはずなんだけどな」
「うーん。難しいな」
これもハズレか。いい線いっているのかと思ったんだけどな。となると、手詰まりだな。他に主人公たちがしていることを思い出してみるか。頭で思い浮かべたらできたってのがメジャーなんだけどこれはさっき失敗したよな。そして次にありきたりなのが呪文の存在。これは天衣が試してみて失敗。他には・・ん?
「電気!」
「・・・何してんの?」
「いや、もしかしたらスキルの名前自体が魔法なんではないのかなと思って」
思いついたはいいけど、これ予想以上に恥ずかしかったんだけど。というかさっきから山胡桃からの視線がいたい。あんたらそんなこともできないの?と言わんばかりの視線だ。たっく、発動しているのかよくわからないスキル持ちは気楽でいいねぇ。『空間』スキルだなんてありえそうなのがアイテムボックスだからなにか食品が手に入らないとわかんないもんな。
「これもダメか・・・。ならどうしよっか?」
「そうだな・・・」
考えられる手は尽くしたんだけどな。他にほんと何があるっけ。うーん、今の所特におもいつかないから放置しておくか。
「あ、これはどうだ?」
そう言って、天衣は視線を地面に落とした。何をさがしているんだろう。あ、見つけたみたい。ん?落ちていた木の枝を拾った。そしてそのまま目をつぶって・・・?
ビュオオオオオオオオオオ
刹那、その木の枝の先から風が巻き起こった。自然に起きた風じゃない。急に、いきなり突然に、そこに風が現れる。
「「・・・・」」
僕らは顔を見合わせて固まってしまう。ついに、ついに魔法を発動させることができたんだ。
「すげえ・・・これが魔法」
「すごいな天衣。どうやったんだ?」
「ああ、どうすればいいか悩んだんだけど、ほら、よく魔法使いは杖を使ったりしてるだろ?だから俺も使ってみようかなって。そうしたら案の定よ」
なるほど、となると発動条件は杖ってことなのか?なら僕も・・・。木の枝を探してみる。まあここは森の中だしすぐに見つかるよね。
「スーハー・・・」
ああ、緊張する。これで成功しなかったらそれは僕が使うことができないってことに他ならないからな。天衣が成功したってのに僕が成功しないのもなんかムカつくし。まあ失敗したら失敗したらで原因が他にあるんじゃないかって推測することができるし構わないけど・・・それでも成功してほしいよな。
「フウ」
天衣がしたよう頭の中で電気の発生をイメージしてみる。枝のさきからほとばしる電気。そこまで強くなくてもいい・・・そうだな、枝から地面に向かって電気が走る感じで。
そう頭の中でイメージした・・・・そして
バチバチっ
「よっっしゃああ!」
成功した!イメージしたとうりに枝の先から電気がほとばしった。さっきみたいに一瞬で消えるような電気じゃない。正真正銘、電気が放たれた!これで・・・僕も魔法を使うことができた。ふう、良かったぁ。
「成功したみたいだな。紅。ただ、悪いんだけどこっちまで来てくれないか?」
そして僕を呼ぶ角先の方へと歩いて行った。発動に気を取られていたから気が付かなかったけどいつの間にかみんなと距離が離れてしまっていた。追いつかなきゃな。
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