落ちこぼれの少年が世界を救うまで
初戦闘の果てに
「え?」
ーー誓うか?
それは、耳から音を拾っているというよりは、頭に直接語りかけている感じの声だった。いや、誓うか? って急に聞かれても……うん、そうだな。この状況だ。選択肢なんてないじゃないか。
「誓うに決まってる! 最後まで……こいつと戦ってやるよ」
ーーーー契約はなされた。これより私は、お前の剣となろう。その力で世界を救ってくれ
その言葉とともに急に光に包まれた。あまりの眩しさに目を瞑ると……まぶたの裏に、どこか懐かしい男の人の姿が見えた。どこで出会ったのか覚えていないけど……見覚えのある男の人の姿があった。
「な、なんだったんだ?」
光はすぐに消えた。それを感じ取ったので目を開けたがさっき見えた男の人などその姿は一切感じ取れなかった。何が起きたのかわからないが、獣の雄叫びが聞こえてきたので、慌てて意識を戻す。みれば、狼が俺から少しだけ距離をとっていた。まるで、俺を警戒しているように。
「どうして……? ん?」
不思議に思ったが、ふと、右手に何かを掴んでいる感覚があったので違和感を感じて視線を下に降ろすと、俺はいつの間にか、黒い刀を持っていた。そして、喰われたはずの、右腕がそこにはあった。
「え? ちょっ、なんで」
あまりのことに驚いてしまう。だって確かに俺は右腕を無くしてしまったはずだ。それなのに、どうして今俺に右腕が存在しているんだ? この急に手に入った刀と関係があるのだろうか。
「で、でも手に入ったものはありがたく使わせてもらうか」
気になることは山ほどあるのだけど、今はそれよりも自分の危機的状況をどうやって突破するかの方が大切だ。せっかく手に入った武器だし、それになぜだか知らないが狼はこの刀を恐れている。もしかしたら、いけるかもしれない。
「さぁ! かかってきやがれ!」
刀を構えながら俺は狼に向かって吠える。声を上げることで相手を威嚇して、そして同時に自分自身に鼓舞するため。だが、見誤ってはいけない。逃げることができるのなら、それが一番だ。なんかすごい感じで出てきたけど実は模造刀で鈍ですとかなっていたら目も当てられないからね。
狼に意識を向かせつつも周囲の様子を確認する。というかここがどこなのかわからないし、どっちの方向に逃げたらいいのかさえわからない。色々と考えてみるけどやっぱり、狼を倒す方が確実な気がしてきた。
「それで、どうやって殺そうか」
相手の動きは少しだけだけどわかる。前足に力を込めてこちらに飛びかかってくる攻撃、それと似ているけど鉤爪を使って切り裂いてくる攻撃。まあ後は普通にこちらを噛み砕くことだってできる。
「ん?」
俺が見ている前で狼は背中にある翼を広げた。そしてそのまま羽ばたき始める。これはもしかして逃げてくれるのだろうか。
「ま、そんなわけはないよね」
少しだけ飛び出すと、そのまま空中にとどまる。視線はずっと俺の方を見ている。これで視界から外してくれていたら逃げるって感じなのに、残念だ。
「そこから飛びかかってくるのか?」
ただ普通に飛びつくよりも高度がある分威力が高そうだ。2階から物を落とすよりも3階から物を落とした方が派手に飛び散るし。でも、狼はそれをせずにさらに翼を広げる。
「えっと?」
そして羽が一本一本翼から離れ始め、そしてそれらが鋭利状の物に変化して……そのまま雨となって俺に降り注がれていく。
「まじかよ!」
そんな攻撃方法もあるのか。近くの木の陰に身を潜めるも羽がどんどんと木の裏に突き刺さっていくのがわかる。そんな音がどんどん聞こえてくるってまじか。すぐに貫通した羽が俺の近くをかすめる。
「この刀で振り払うとかできないのかな」
飛んでくる羽を刀で切り落とす。決まればかなり格好いいだろう。だが、そんなリスクは追うことができない。失敗すれば間違いなく死んでしまうから。もっと確実性の高い手段を取らないといけない。
「何かないのか……この刀に特殊能力とかないの?」
改めて持っている刀を確認してみる。素人の俺でもわかる。かなり美しい刀だ。刀身は俺の腕よりも少し長いくらいだが黒く輝いている。少しだけ曲がっているようにも見えるが、切れるのは片側だけみたいだ。太いわけでもなく側面で攻撃を受けるといったことはできそうにない。
「美しい刀、としか思えないよな」
それでももしかしたら何か効果があるのかもしれない。それに賭けて俺は近くにあった木を試しに切った。これで何かがわかればいいのだけど……
「は?」
俺は目の前の現象に驚いて間抜けな声を上げてしまった。俺が切った木は切られた瞬間に光り輝いて、消えてしまった。かすかに光っている物が天高く上っているが……これ、どういうこと?
「うわあああああ」
うっかり意識を逸らしてしまったために、硬い羽が俺の左腕に突き刺さる。やべっ、すっかり忘れていたよ。すぐに引き抜いて……いや、逆に引き抜いたら血がドバドバと出てしまう可能性があるのでやめた方がいいな。俺は慌てて狼の方に意識を戻す。これは、切った物を光にして消すことができるってことでいいのかな?
「それよりも、どうやってあいつを地面に降ろすのかが問題だ」
そう、この刀が切れば効果が発揮されるというのはわかった。でもその前提条件である斬るという行動をするためにはあいつを地面に引きずり落とさなければいけない。もうしばらく隠れていたら諦めて降りてくるかな? いや、そんなことはしないだろう。考える頭があったから飛んだのだろうし。一応居場所を変えるために走り回っているが……しっかりとこちらの居場所を把握して攻撃してきているしね。
「せめて遠距離で攻撃する手段があれば……ん? うわあああああ」
ふと見れば、いつの間にか刀が炎に覆われていた。ただの炎じゃない。蒼い炎だ。それが刀を覆うように巻きついている。いつ、誰が、こんなことをしたのか全くわからない。でも、
「これを……飛ばせばいいのかな?」
なぜだかわからないが、俺は考える間も無く、隠れている木の陰から躍りでると、飛んでいる狼めがけて刀を振り抜いた。すると。纏っていた炎が狼めがけて突き進んでいく。そのまま片方の翼にぶつかると……一気に広がって翼を燃やし続けた。
「ギャン!」
片方の翼を燃やされたことで飛行を維持することができなくなったのだろう。狼はなすすべ無く地面に激突する。なんかわからないが、これで刀が届く。
「もう一発……ってないのかよ」
もう片方の翼も燃やしてしまおうと刀を見るけれどそこにはもう炎なんて存在しなかった。どうやら一度きりの攻撃だったみたいだ。でも、助かったのは事実。
「突っ込むしかない! うおおおおおおおおお」
俺は落ちた衝撃で動けないでいる狼に向かって突撃していった。狼もすぐに俺の接近に気がついて動けないながらも迎え撃とうとしている。無事な方の翼を広げてさっきと同じように羽を飛ばしてくる。
「くそっ」
がむしゃらに刀を振り回して防いで見る。飛び出してしまった以上木の陰に隠れるといったことはもうできない。全ての羽を撃ち落とすことを信じて突き進むしかない。
「ああああああ」
叫びながらも刀を振り回して狼に接近することに成功した。そのまま右脚に一撃、切りつける。
「ギャン!」
「浅かった」
血は吹き出したが手応えをあんまり感じなかった。肉をしっかりと斬ることはできなかったみたいだ。そして切られなかった左脚の鉤爪が俺の方に迫ってきて……あ、これは防げない。
だから俺は、狼の心臓めがけて刀を突き刺した。左脚を上げたことによって胸元の部分を突くことができたからだ。鉤爪の攻撃は受けてしまうけれど……それよりも先に狼を仕留めることができたならばなんとかなるだろう。一か八かの賭けになるけれど、それでも俺は信じて刀を前に突き出した。しかし、鉤爪は俺のからだに当たることはなかった。
ーガキン
その時、俺は確かに何かがぶつかる音を聞いた。それが何か目にするよりも先にただ、突き刺した刀を深く奥へと進ませていく。狼の苦しげな声が聞こえて来る。その声を聞きながら俺はしっかりと刀を突き刺した。
「はぁ……はぁ……」
そしてすぐに俺はその場から離れた。それと同時に狼の体が震えてそして、地に力なく崩れ落ちた。左脚の方を見れば、まるで刀に斬られたかのように傷が付いていた。それによく見れば明らかに俺ではない誰かによって付けられた傷が身体中のあちらこちらに見受けられる。でも、今はそんなことはどうでもいい。
「俺は……生き残ったのか……」
圧倒的な死の前から、俺は生還することができた、それだけで、その事実だけで充分だった。
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