《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-15話「処刑」
ケネスはデラル帝国の牢内にいた。
地下牢ではないようで、いちおう外から窓の明かりが差しこんでいる。だが、石造りの牢のなかにはベッドとトイレがあるだけの寂しい作りだった。
ヴィルザハード城で倒れているところ、帝国部隊に発見された。3国会議を襲撃されたバートリーが至急編成した部隊だった。目を手当されて、今は眼帯をしている。《可視化》は使えなくなっていた。のみならず、ケネスの心中には空虚さに満たされていた。
「失礼します」
バートリーが入ってきた。
「……」
ケネスはベッドに腰かけたままだった。バートリーはその前に立つ。
「ずいぶんと打ちひしがれているようですね。魔神ヴィルザハードを復活させて、満足したのですか? ホントウにこれが、ケネスのやりたかったことなのですか?」
表情の変わらぬバートリーが珍しく、物悲しく歪んでいた。
「ヴィルザはどうなりました?」
「魔神はヴィルザハード城にて復活を果たして、帝国と王国の国境あたりで暴れています。現在、王国側と急ぎ連絡をとって、魔神を相手に同盟を組もうとしているところです。ちなみに、国境付近にいた帝国の常備軍はたった数秒で潰滅しました」
バートリーは矢継ぎ早に言葉を続ける。
「あれは災厄のようなものです。歩むその道が戦火に燃えて、灰塵と化してゆく。まさに地獄の顕現です。ケネスは、あんなものを蘇らせて、どうしたかったのです」
「暴れないって、信じてたんですよ」
「魔神ヴィルザハードが?」
「ええ。ちゃんとオレの言うことを聞いてくれるはずだと思ってたんです。バカみたいに一途にね」
少しは、躊躇っても良かったじゃないかと思った。躊躇うどころか、ヴィルザは笑顔でケネスの目玉を潰しにかかってきたのだ。大猿天使の言いたかったことが、今になってわかる。もしもヴィルザが、ホントウにケネスのことを想っているならば、復活はしない――と言いたかったのだろう。なぜなら、ケネスの目玉を潰さなければ、ヴィルザは復活できないのだから。
しかし、復活した。
ケネスは外套のポケットに入れたままの結婚指輪を握りしめた。ここは牢獄だが、持物は没収されなかったようだ。腕には、またしても魔法封じの腕輪がはめられている。以前とは違って、今度は鎖つきだ。
「愚かな……。魔神ヴィルザハードを御せられると思ったのですか」
「ええ。本気で思ってたんですよ」
と、ケネスは虚しく笑った。
いったい、何のために生きてきたのだろうかとさえ思う。16歳のとき、魔神と出会い、同じ時間を生きてきたと思っていた。ハンバーガーを食べて喜ぶヴィルザが思い出される。お話しようと甘えてきたこと。胸が大きくなったと威張っていたこと。香水に酔ったフリをして言い寄ってきたこと。告白した。キスをした。そして交尾したこと。あの時間が、すべてウソだったのかと思うと、あまりに虚しい。
「帝都は今、怨嗟の声で満ちています。魔神ヴィルザハードを復活させた、《帝国の劫火》にたいして」
「恨まれてンですね」
「怒号の嵐です。都民はみんな、あなたの処刑を望んでいます。都民だけではない。王国側からも、同盟を組むならば、あなたの首を差し出せと言ってきています。魔神復活の首謀者である、あなたの首を」
「いつですか。処刑」
「早急に行います。明日の明朝。ケネスには死んでいただきます」
「それが、良いかもしれませんね」
処刑。
そう聞いても、不思議と恐怖はなかった。まあ、妥当などころだろうな、と思っただけだ。
空虚な心には、何も届きはしない。
「これ、差し入れです。最後になるかもしれませんので」
バートリーはそう言うと、煙草に火をつけて渡してきた。受け取って、口にくわえた。腐った平和の匂いが肺腑に満ちる。
「非常に残念です。私はケネス・カートルド。あなたのことを……ホントウにあなたのことを……」
長い沈黙があった。
「なんです?」
「いえ。なんでもありません。さようなら」
バートリーが部屋を立ち去る一瞬。その頬に涙がつたうのを見た。ケネスはボーッと煙草を吸っていた。
地下牢ではないようで、いちおう外から窓の明かりが差しこんでいる。だが、石造りの牢のなかにはベッドとトイレがあるだけの寂しい作りだった。
ヴィルザハード城で倒れているところ、帝国部隊に発見された。3国会議を襲撃されたバートリーが至急編成した部隊だった。目を手当されて、今は眼帯をしている。《可視化》は使えなくなっていた。のみならず、ケネスの心中には空虚さに満たされていた。
「失礼します」
バートリーが入ってきた。
「……」
ケネスはベッドに腰かけたままだった。バートリーはその前に立つ。
「ずいぶんと打ちひしがれているようですね。魔神ヴィルザハードを復活させて、満足したのですか? ホントウにこれが、ケネスのやりたかったことなのですか?」
表情の変わらぬバートリーが珍しく、物悲しく歪んでいた。
「ヴィルザはどうなりました?」
「魔神はヴィルザハード城にて復活を果たして、帝国と王国の国境あたりで暴れています。現在、王国側と急ぎ連絡をとって、魔神を相手に同盟を組もうとしているところです。ちなみに、国境付近にいた帝国の常備軍はたった数秒で潰滅しました」
バートリーは矢継ぎ早に言葉を続ける。
「あれは災厄のようなものです。歩むその道が戦火に燃えて、灰塵と化してゆく。まさに地獄の顕現です。ケネスは、あんなものを蘇らせて、どうしたかったのです」
「暴れないって、信じてたんですよ」
「魔神ヴィルザハードが?」
「ええ。ちゃんとオレの言うことを聞いてくれるはずだと思ってたんです。バカみたいに一途にね」
少しは、躊躇っても良かったじゃないかと思った。躊躇うどころか、ヴィルザは笑顔でケネスの目玉を潰しにかかってきたのだ。大猿天使の言いたかったことが、今になってわかる。もしもヴィルザが、ホントウにケネスのことを想っているならば、復活はしない――と言いたかったのだろう。なぜなら、ケネスの目玉を潰さなければ、ヴィルザは復活できないのだから。
しかし、復活した。
ケネスは外套のポケットに入れたままの結婚指輪を握りしめた。ここは牢獄だが、持物は没収されなかったようだ。腕には、またしても魔法封じの腕輪がはめられている。以前とは違って、今度は鎖つきだ。
「愚かな……。魔神ヴィルザハードを御せられると思ったのですか」
「ええ。本気で思ってたんですよ」
と、ケネスは虚しく笑った。
いったい、何のために生きてきたのだろうかとさえ思う。16歳のとき、魔神と出会い、同じ時間を生きてきたと思っていた。ハンバーガーを食べて喜ぶヴィルザが思い出される。お話しようと甘えてきたこと。胸が大きくなったと威張っていたこと。香水に酔ったフリをして言い寄ってきたこと。告白した。キスをした。そして交尾したこと。あの時間が、すべてウソだったのかと思うと、あまりに虚しい。
「帝都は今、怨嗟の声で満ちています。魔神ヴィルザハードを復活させた、《帝国の劫火》にたいして」
「恨まれてンですね」
「怒号の嵐です。都民はみんな、あなたの処刑を望んでいます。都民だけではない。王国側からも、同盟を組むならば、あなたの首を差し出せと言ってきています。魔神復活の首謀者である、あなたの首を」
「いつですか。処刑」
「早急に行います。明日の明朝。ケネスには死んでいただきます」
「それが、良いかもしれませんね」
処刑。
そう聞いても、不思議と恐怖はなかった。まあ、妥当などころだろうな、と思っただけだ。
空虚な心には、何も届きはしない。
「これ、差し入れです。最後になるかもしれませんので」
バートリーはそう言うと、煙草に火をつけて渡してきた。受け取って、口にくわえた。腐った平和の匂いが肺腑に満ちる。
「非常に残念です。私はケネス・カートルド。あなたのことを……ホントウにあなたのことを……」
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「いえ。なんでもありません。さようなら」
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