《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-11話「3国会議」
ヘッケラン・バートリーは、もう25歳になる。
ケネスと同い年なのだ。
その25年の人生のなかで思い出に残ることは多々ある。帝国の者たちに愛されて育てられた。ガルシアとの思い出もいろいろある。が、バートリーのもっとも鮮明が記憶は、ケネスのことだ。ゲヘナ・デリュリアスを撃退した、強烈な魔法。ソルト・ドラグニルを撃退した悪系統の魔法。そして、バートリー自身がケネスに助けられたこと――。
(殺すべきだった)
と、思う。
ケネス・カートルド。魔神ヴィルザハードとなんらかの繋がりを持っていることは、間違いない。封印された魔神の姿が見えているのかもしれない。魔神復活を目論んでいることは、間違いない。
(殺すべきなのに……)
魔神復活なんて狂気としか思えない。そんな人物は処刑にでもかけるべきだと思う。が、それが出来なかった。助けられた恩義がある。恩義だけではない。バートリーのなかには、ケネスにたいする仄かな桃色の炎さえ灯っている。恋慕――。バートリーにはどうしても、ケネス・カートルドを殺すことが出来なかった。だから記憶をイジリ、常に目の届く位置に置いておいたのだ。
「バートリーさんよ。聞いてンのか?」
「あ、はい。失礼しました。すこし考え事を」
3国会議――。
帝国の持つ交易都市サルバルで行われている。エルフ族と魚人族たちとの話し合いでこの場所で会議を開くことが決まった。漁業が盛んな都市で、魚人族との交流が深いこともあって、魚人族たちにとっては足を運びやすかったのかもしれない。
石でできた円卓を、3人が囲んでいる。
帝国の代表はバートリー。エルフ国の代表はエルシェント。魚人族の代表はウオリン。エルフは森に住む種族で、聴覚が発達しており、耳が長い。魚人像は手足が水かきみたいになっている。3人の代表の後ろには、付き人がいる。エルフの後ろにもいたし、魚人の後ろにもいた。バートリーの背後に立っているのは、フィント・フーリンだ。
「それで《神の遺物》を、どこで守護するかって話なんだけども」
エルシェントが言う。
机上には《神の遺物》が2つ置かれている。
帝国の持つ『アースアースの鉱石』。魚人の持つ『ポテルタンの槍』。エルフの持つ『エルフタンの耳』だけは、エルシェントの耳につながっている。
彼女はその《神の遺物》を持って生まれたらしい。『エルフタンの耳』は、エルシェントの家系の遺伝子に組み込まれたものであり、その一族の耳が《神の遺物》として機能するということだった。
「ですから、帝国でお預かりします」
と、バートリーは返した。
「ンなの信用できるわけねェだろ。帝国の領土は広いんだからよ。これ以上、チカラをつけさせてたまるかってんだ」
「だから、帝国でお預かりするのです。帝国ならば、厳重に保護できる」
「なに言ってるんだい。『アクロデリアの香水』を潰されているうえに、『マディシャンの杖』も帝国領にあったもんだろうが」
「『アクロデリアの香水』は試験的に使ったのです。それに『マディシャンの杖』は、帝国領とはいえ、あれはマホ教が管理していたものです」
「だいたい、私はどうすりゃ良いんだよ。私の場合は右耳が《神の遺物》になってんだ。この『エルフタンの耳』は、ちぎれねェぞ」
「ですから、エルシェントさまも帝国で保護するということで」
「ンなのやってられるか。私の耳は、人の考えすら聞こえちまうんだ。ここに来るだけでも、ウルサクって仕方がねェ。人の住む場所なんかで住んでられん」
話が平行線だ。
この3点をどこが管理するのか。その話がいっこうに進まない。『エルフタンの耳』がエルシェントにくっ付いているのも厄介だ。
「そもそも、魔神ヴィルザハードの復活なんて、ホントウにあるのかよ。思いすごしなんじゃねェの?」
話が進まないどころではない、前提を理解してもらえていない。もう何度も会議を行っているのに、何も進展しない。いっそのこと帝国の武力をもってして、エルフと魚人を攻めてやろうかとさえ思えてくる。
「何度も申し上げている通り、《神の遺物》が魔神ヴィルザハード復活のカギになっている可能性が大きいのです。『マディシャンの杖』『カヌスのウロコ』『アクロデリアの香水』『デデデルの大槌』。すでに4つ破壊されていることは確認しています。残りは3つです」
魚人のウオリンが口をはさんできた。
「違う。残りは、4つ。主神ゲリュスの遺物がここにはない」
「主神ゲリュスの遺物は、目撃情報が少ないのです。すでに破壊されている可能性も考慮するべきか――と」
主神ゲリュス。
8大神の主神にして、すべての神の長男とされている。
「私は聞いたことあるぜ。主神ゲリュスの遺物も、私と同じだ。人の遺伝子に組み込まれたものだ。こういうタイプの《神の遺物》は、神に選ばれた者にのみ発現する」
エルシェントは耳をひくつかせて、誇らしげに言う。
(もしや……)
と、厭な予感が、バートリーを包む。
何か見落としてるんじゃないか? 根本からすべてがひっくり返るような、何かを見落としている気がしてならない。
「寒くなってきたな」
エルフのエルシェントが立ち上がって窓辺に移動した。
「おっ」
と、声をあげた。
「どうかされましたか?」
「いや。なんか……来るぞ」
バートリーも白く曇った窓を見つめた。曇り窓の向こうに空を飛ぶドラゴンゾンビの姿が見えた。そしてそれに続くアンデッドの群れも……。
「な、なんですか、あれは……」
ドラゴンゾンビは、真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。
ケネスと同い年なのだ。
その25年の人生のなかで思い出に残ることは多々ある。帝国の者たちに愛されて育てられた。ガルシアとの思い出もいろいろある。が、バートリーのもっとも鮮明が記憶は、ケネスのことだ。ゲヘナ・デリュリアスを撃退した、強烈な魔法。ソルト・ドラグニルを撃退した悪系統の魔法。そして、バートリー自身がケネスに助けられたこと――。
(殺すべきだった)
と、思う。
ケネス・カートルド。魔神ヴィルザハードとなんらかの繋がりを持っていることは、間違いない。封印された魔神の姿が見えているのかもしれない。魔神復活を目論んでいることは、間違いない。
(殺すべきなのに……)
魔神復活なんて狂気としか思えない。そんな人物は処刑にでもかけるべきだと思う。が、それが出来なかった。助けられた恩義がある。恩義だけではない。バートリーのなかには、ケネスにたいする仄かな桃色の炎さえ灯っている。恋慕――。バートリーにはどうしても、ケネス・カートルドを殺すことが出来なかった。だから記憶をイジリ、常に目の届く位置に置いておいたのだ。
「バートリーさんよ。聞いてンのか?」
「あ、はい。失礼しました。すこし考え事を」
3国会議――。
帝国の持つ交易都市サルバルで行われている。エルフ族と魚人族たちとの話し合いでこの場所で会議を開くことが決まった。漁業が盛んな都市で、魚人族との交流が深いこともあって、魚人族たちにとっては足を運びやすかったのかもしれない。
石でできた円卓を、3人が囲んでいる。
帝国の代表はバートリー。エルフ国の代表はエルシェント。魚人族の代表はウオリン。エルフは森に住む種族で、聴覚が発達しており、耳が長い。魚人像は手足が水かきみたいになっている。3人の代表の後ろには、付き人がいる。エルフの後ろにもいたし、魚人の後ろにもいた。バートリーの背後に立っているのは、フィント・フーリンだ。
「それで《神の遺物》を、どこで守護するかって話なんだけども」
エルシェントが言う。
机上には《神の遺物》が2つ置かれている。
帝国の持つ『アースアースの鉱石』。魚人の持つ『ポテルタンの槍』。エルフの持つ『エルフタンの耳』だけは、エルシェントの耳につながっている。
彼女はその《神の遺物》を持って生まれたらしい。『エルフタンの耳』は、エルシェントの家系の遺伝子に組み込まれたものであり、その一族の耳が《神の遺物》として機能するということだった。
「ですから、帝国でお預かりします」
と、バートリーは返した。
「ンなの信用できるわけねェだろ。帝国の領土は広いんだからよ。これ以上、チカラをつけさせてたまるかってんだ」
「だから、帝国でお預かりするのです。帝国ならば、厳重に保護できる」
「なに言ってるんだい。『アクロデリアの香水』を潰されているうえに、『マディシャンの杖』も帝国領にあったもんだろうが」
「『アクロデリアの香水』は試験的に使ったのです。それに『マディシャンの杖』は、帝国領とはいえ、あれはマホ教が管理していたものです」
「だいたい、私はどうすりゃ良いんだよ。私の場合は右耳が《神の遺物》になってんだ。この『エルフタンの耳』は、ちぎれねェぞ」
「ですから、エルシェントさまも帝国で保護するということで」
「ンなのやってられるか。私の耳は、人の考えすら聞こえちまうんだ。ここに来るだけでも、ウルサクって仕方がねェ。人の住む場所なんかで住んでられん」
話が平行線だ。
この3点をどこが管理するのか。その話がいっこうに進まない。『エルフタンの耳』がエルシェントにくっ付いているのも厄介だ。
「そもそも、魔神ヴィルザハードの復活なんて、ホントウにあるのかよ。思いすごしなんじゃねェの?」
話が進まないどころではない、前提を理解してもらえていない。もう何度も会議を行っているのに、何も進展しない。いっそのこと帝国の武力をもってして、エルフと魚人を攻めてやろうかとさえ思えてくる。
「何度も申し上げている通り、《神の遺物》が魔神ヴィルザハード復活のカギになっている可能性が大きいのです。『マディシャンの杖』『カヌスのウロコ』『アクロデリアの香水』『デデデルの大槌』。すでに4つ破壊されていることは確認しています。残りは3つです」
魚人のウオリンが口をはさんできた。
「違う。残りは、4つ。主神ゲリュスの遺物がここにはない」
「主神ゲリュスの遺物は、目撃情報が少ないのです。すでに破壊されている可能性も考慮するべきか――と」
主神ゲリュス。
8大神の主神にして、すべての神の長男とされている。
「私は聞いたことあるぜ。主神ゲリュスの遺物も、私と同じだ。人の遺伝子に組み込まれたものだ。こういうタイプの《神の遺物》は、神に選ばれた者にのみ発現する」
エルシェントは耳をひくつかせて、誇らしげに言う。
(もしや……)
と、厭な予感が、バートリーを包む。
何か見落としてるんじゃないか? 根本からすべてがひっくり返るような、何かを見落としている気がしてならない。
「寒くなってきたな」
エルフのエルシェントが立ち上がって窓辺に移動した。
「おっ」
と、声をあげた。
「どうかされましたか?」
「いや。なんか……来るぞ」
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