《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第8-9話「ロレンスの目指したもの」

 背の高い石造りの建物にはさまれて、月明かりも届かぬ薄暗い裏路地にて、ロレンスと帝国騎士たちは戦闘態勢をとっていた。



 対するは、ガルシア・スプラウドである。第一皇女派に属して、政戦に負けるや否や、姿をくらました。次には、テロリストとして、帝都で騒ぎを起こす逆賊になっていた。



「姉さん……」



 逆賊になってくれて、ホントウに良かった。ロレンスはそう思っている。この人を認めさせるには、対決してわからせるしかない。それがイチバン手っ取り早い方法だと、思うからだ。 



「愚弟ロレンス。いいだろう。かかって来い。どれほど強くなったから見てやろう」



 その言葉に、ロレンスは歓喜に歯をカチカチと鳴らした。



 ずっと追いかけてきた。



 追いかけても、追いかけても、相手にされなかった。その姉がようやく、振り向いてくれたのだ。



「あんたも魔神ヴィルザハードを復活させたいクチか」



「もちろん。逆に問うが、見てみたくないのかね。世界を恐怖させたという魔神の本性を」



「見たいわけないだろ。世界が、滅ぶ」



「世界が滅びるなら、それが摂理だったというだけだ。勝者が正義であり、勝者が歴史なのだ」



「変わってないな。あんたは」



 昔から、ずっとそうだ。
 強い者にしか、執着しない。



「魔神ヴィルザハードだけではない。私はケネス・カートルドにも期待している。あれはもっと強くなる。バートリーの鳥籠に入れられたままでは、羽ばたくことも出来ん」



 ケネス……。
 ロレンスのライバルであり、良き友人だった。



 魔術学院で3年を過ごして、競い合ってきた。だが、勝てなかった。いつもケネスは、ロレンスの一歩上を行った。それは成績もそうだし、帝国への貢献度で言えば、ロレンスよりはるかに上だった。ロレンスも今や、《黒い鬼火》という二つ名があり、帝国12魔術師に名を連ねている。それでも、いっこうにケネスに追いつける気がしない。



 その差は、わずかに思えて、渓谷のように深かった。その差の正体を、6年前に知ることになった。バートリーに教えてもらった。ケネス・カートルドには魔神ヴィルザハードのチカラがある――と。



 そして、ケネスが魔神ヴィルザハード復活を目論んでいることも聞いた。そんなことは、させられない。そう思って、ロレンスはケネスを見張ることにしたのだ。ロレンスだけではない。クロノやサマルだってそうだ。



 魔神ヴィルザハードを復活させるなんて、気が狂ったとしか思えない。なにゆえ、そんなことをするのか。世界のためにもならないし、ケネス自身のためにもならない。そう思う。



 だから――。



「オレがケネスを止める。姉さん。そこを退いてもらうぜ」



「さっさと来い。愚弟よ。私がじきじきに、貴様の実力を見てやろうというのだ」



 かつての帝国12魔術師の筆頭。
 バートリー魔法長官すら上回る、帝国最強とうたわれた魔術師。ガルシア・スプラウド。どの程度のものか、そこが知れない。その底なし沼に、ロレンスは足を突っ込んだ。



「火系基礎魔法《火球ファイヤー・ボール》」



 魔法陣から大量の火球が出てくる。火球は薄暗い裏路地を赤く照らす。闇を駆け抜けて、ガルシアに直撃する。



「ぬるいわッ」



 ガルシアは《岩の手ロック・ハンド》をつくりあげていた。火球を受け止めている。火球は周囲にはじかれた。左右の石造りの建物にあたって、ガレキが崩れた。派手に砂煙があがる。



「火系最上位魔法《黄泉送り》」
 地面が溶けてゆく。
 ガルシアが地面の中に呑み込まれていった。



「これなら……」



 おおっ、と帝国騎士たちから声があがる。ロレンスの魔法にたいする賞賛。ガルシアを呑み込んだ驚きだろう。その声にロレンスはわずかな優越感をおぼえる。



「最上位魔法まで使えるようになったか。我が愚弟ながら、なかなかの成長ぶりだな。しかし、この私を止めるにはほど遠い」



 地中から鉄の手が生えてきた。岩の手のさらに上位魔法だ。鉄の手が地面をえぐり開いて、ガルシアが跳び出てくる。そのまま鉄の手のひらで、蝿を叩くかのようにロレンスを叩き潰そうとしてきた。



 避ける?
 否。



「火系最上位魔法《溶解ディソリューション》」



 ガルシアが発生させた鉄の手を溶かし尽くす。鉄がドロドロと溶けてゆき、足元に黒々とした水たまりをつくった。黒い水たまりをはさんで、ロレンスとガルシアは対峙する。



「姉さん。魔神ヴィルザハードを復活させようってなら、悪いけど、意地でも止めさせてもらう」



「つまらんな」



「な、なに?」



「強くなったとはいえ、やはりつまらん愚弟だよ。いろんな系統の魔法を使えるわけでもないし、魔神の悪系統の魔法を使うわけでもない。使うのは、炎ばかりか」



「炎しか使わないのは、ケネスだって……」



「なら、ケネスがいれば良い。炎に関してはケネスのほうが強いのだ。だったら、貴様に存在意義はない」



「……ッ」



 ケネスと比べられて、劣等感を突かれた。さらには存在意義がないとまで言われれば、鼻白む思いだ。ただでさえロレンスは劣等感を抱き続けて生きてきたのだ。



「何か間違えているか? 同じ系統の魔法を使うなら、最強が1人いれば、それで充分。2人も3人も劣化のコピーは必要ない」



「黙れェ」



 たとえケネスに追いつかなくとも、ロレンスにはロレンスの戦い方がある。ずっとこの日を待ち望んできた。姉――ガルシア・スプラウドと対峙する日を。そして、魔法で倒して、自分の存在を認めさせる日を。



「火系基礎魔法《火球ファイヤー・ボール》」



 炎の球を飛ばす。
 いくつも飛ばす。これでもか。これでもか。神の額を割るツブテのように。憎悪を込めて火の球を連打する。ガルシアの哄笑が響く。



「この後におよんで、火球とはな。もっと私を楽しませる魔法はないのか? え? ケネスは6年前には《ファラリスの雄牛》を出したぞ。私の見たことのない魔法だった。愚弟よ。貴様は私を満足させてくれそうにないな」



 ガルシアは呆れたように言うと、「風系最上位魔法《鬼斬オーク・キル》」とつぶやいた。空間すらも切り裂く風系最上位の魔法が放たれた。一度目はかわした。ロレンスの頬をかすめて、実体のない風の刃が飛来してゆく。



「ぐわぁぁッ」とロレンスの後方で悲鳴があがった。振り向く。控えていた帝国騎士たちが、胴体から切断されていた。風の刃を受けた結果だった。風の刃はしかも、後ろの建物を切り裂いてしまっていた。切り裂かれた石造りの建物は、音をたてて瓦解していった。凄愴たる砂塵が吹き起こった。



「死んどけ」



鬼斬オーク・キル》。2発目。まっすぐロレンスに向かってきた。まるで空気の刃のような、半透明な刀。



「やっぱり来たか! 姉さんなら、オレに本気の殺意をブツけてくると思った!」



 対姉用に、何か方策を考えて来なかったわけではない。
 ロレンスは魔法陣を展開した。



「火系固有魔法《炎反射フレイム・ミラー》!」



 魔法陣の周囲を炎が囲む。ガルシアの放った《鬼斬オーク・キル》の刃が、ロレンスの魔法陣に吸い込まれてゆく。そして炎をまとった《鬼斬オーク・キル》が、ガルシアに向けて射出された。



 ロレンスが、対姉用にずっと考え続けてきた魔法だった。相手の魔法を反射させる。ただお返しするだけじゃなくて、ロレンスの炎をまとわせる。反射させるのだから、相手の魔法が強ければ、強いほど良い。



「お返しだァ」
 跳ね返した《鬼斬オーク・キル》は、ガルシアに当たったように見えた。



 あ、と思った。



 勝ちたい。認めてもらいたい。その一心で、ロレンスは夢中だった。だから、ガルシアが死ぬことは考えていなかった。いや。正確にはその考えが頭からスッポリ抜け落ちていたのだ。あの姉が、死ぬはずがない。そう思っていた。



「ね、姉さん?」



鬼斬オーク・キル》に触れた周囲の建物が音をたてて崩れてゆく。たちのぼる砂塵のなかに、ガルシアが揺らめくように立っていた。が、無傷ではない。ガルシアの左腕が失せていた。死んではない。死んでいないことに、ホッとする自分がいた。砂ケムリのせいでハッキリとは見えない。けぶるシルエットが、しゃべりかけてきた。



「愚弟よ。なかなか面白い魔法を発明したな。自分だけの魔法だから、固有魔法というわけか」



「あんたのために、考え出した魔法だ」



「軍人ではなく、魔法の研究者になるべきだったかもしれないな」



 強くなったではないか。



 ガルシアはそう言葉を残して、姿をくらました。



 ロレンスは呆然とその場に立ち尽くしていた。心の弾みをおさえきれず、なぜか涙がこみ上げてきた。涙が出てくるのに、頬のにやけが止まらない。今は、ヴィルザハードのこともケネスのことも、考えることが出来なかった。

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