《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第8-4話「空虚な幸福」

 姿をくらましたガルシアを探したけれど、見つけることは出来なかった。



「クソッ。逃げられた!」
 と、ロレンスは子供みたいにジダンダを踏んでいた。石畳のストリートに積もった淡雪が、ロレンスに蹴散らされていった。道行く人たちが、何事かと避けて通っていた。



『あらかじめ決めていた陣形があったはず。忘れた?』



 クロノがメモ洋紙にそう書いて、ロレンスに押し付けた。ロレンスは苦々しい表情でそれを見ていた。



「いえ。すみません。ついカッとなって」



『次からは気を付けて』
 とクロノは変わらぬジト目で、ロレンスに注意していた。メモ用紙を受け取ったロレンスはうなだれていた。その後も、しばらくガルシアの情報を集めたけれど、結局、たいした情報は手に入らなかった。



「帰ろうぜ。コラ。寒くなってきやがった」
 とサマルの声を合図に、クロノ小隊は城に帰還することになった。



 帝都の兵舎は大きい。小隊1つにつき、無数にある部屋の一室が与えられていた。ベッドは4台敷き詰められている。クロノのベッドだけ少し話して置いてある。テーブルも4人分の食器を並べれば、たちまちイッパイになってしまう。



 家事の担当は4人で順番に回しており、今日はロレンスが担当だった。クロノがガルシアを逃がしたことを、上官に報告しに行っているあいだに、夕食をこしらえてくれた。ケネスも食器を運ぶのを手伝った。



 夕食を並び終えたと同時に、クロノが戻ってきた。



「上官から、なんか言われなかったスか? コラ」
 クロノは黙って首を左右に振った。
 黒く長い髪が揺れる。



「すみません。オレが勝手な行動に出たばっかりに」
 と、ロレンスが謝った。



『次から気を付けてくれれば良い。どのみち逃げられていたとは思うから』



 4人で食卓につく。



 ケネスはコーンスープをスプーンですくい上げた。黄色いトロッとした液体が口のなかに入り込んでくる。思いのほか熱くて、唇をヤケドしそうになった。あわてて唇からスプーンを話す。ケネスのその失態を見て、みんな笑っていた。



 たかが小隊にしては恵まれているほうだと思うけれど、決して、贅沢な暮らしをしているわけではない。
 それでも、ケネスは幸せだった。



 6年という空虚な時間。ここにいるようで、いないような。気が付いたら、一瞬で時が過ぎ去ってしまったようなウソみたいな時間。その中でも、たしかに幸せはあった。



 ハーディアル魔術学院で過ごしてきた仲間たちと、ともに帝国のために仕える。こうやって静かに歳をとってゆき、平凡な人生を送ってゆくのも悪くはない。でも、そんな安穏とした心の波に、結婚指輪が揺らぎを与える。



 誰か――。
 誰かいたはずだ。



(ホントウにオレは、こんな平和な場所にいても良いんだろうか?)



 もっと危険なヤツと向き合わなければならない、使命があった気がするのだ。



「しかし、最近はテロリストの相手ばかりだな。コラ」
 と、サマルが呟く。



「ケリュアル王国とも、そんなに争うこともなくなりましたからね。何があったのかは知りませんけど、バートリー魔法長官が裏でいろいろ動いた……と言われてますけど」
 と、ロレンスが応じた。



 バートリーは、王国や――他にもエルフたちや、魚人族にたいして、ヒンパンに接触しているそうだ。外交目的なのか何なのか知らないが、ずいぶんと忙しくたちまわっている。ケネスに対しても、異様なぐらい親切に接してくれる。でも、ときおり、腫物に触るような態度に思えることもある。



「そう言えば今日……」
 と、ケネスは口を開いた。



「どうした?」
 とロレンスが応じる。



「いや。なんでもない」



 ガルシアを探しているときに、不思議な幻聴が聞こえたのだ。酷くなつかしいような声だった。あのことを話そうと思ったのだけれど、話してはいけないような気がして、口をつぐんだのだった。

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