《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-4話「空虚な幸福」
姿をくらましたガルシアを探したけれど、見つけることは出来なかった。
「クソッ。逃げられた!」
と、ロレンスは子供みたいにジダンダを踏んでいた。石畳のストリートに積もった淡雪が、ロレンスに蹴散らされていった。道行く人たちが、何事かと避けて通っていた。
『あらかじめ決めていた陣形があったはず。忘れた?』
クロノがメモ洋紙にそう書いて、ロレンスに押し付けた。ロレンスは苦々しい表情でそれを見ていた。
「いえ。すみません。ついカッとなって」
『次からは気を付けて』
とクロノは変わらぬジト目で、ロレンスに注意していた。メモ用紙を受け取ったロレンスはうなだれていた。その後も、しばらくガルシアの情報を集めたけれど、結局、たいした情報は手に入らなかった。
「帰ろうぜ。コラ。寒くなってきやがった」
とサマルの声を合図に、クロノ小隊は城に帰還することになった。
帝都の兵舎は大きい。小隊1つにつき、無数にある部屋の一室が与えられていた。ベッドは4台敷き詰められている。クロノのベッドだけ少し話して置いてある。テーブルも4人分の食器を並べれば、たちまちイッパイになってしまう。
家事の担当は4人で順番に回しており、今日はロレンスが担当だった。クロノがガルシアを逃がしたことを、上官に報告しに行っているあいだに、夕食をこしらえてくれた。ケネスも食器を運ぶのを手伝った。
夕食を並び終えたと同時に、クロノが戻ってきた。
「上官から、なんか言われなかったスか? コラ」
クロノは黙って首を左右に振った。
黒く長い髪が揺れる。
「すみません。オレが勝手な行動に出たばっかりに」
と、ロレンスが謝った。
『次から気を付けてくれれば良い。どのみち逃げられていたとは思うから』
4人で食卓につく。
ケネスはコーンスープをスプーンですくい上げた。黄色いトロッとした液体が口のなかに入り込んでくる。思いのほか熱くて、唇をヤケドしそうになった。あわてて唇からスプーンを話す。ケネスのその失態を見て、みんな笑っていた。
たかが小隊にしては恵まれているほうだと思うけれど、決して、贅沢な暮らしをしているわけではない。
それでも、ケネスは幸せだった。
6年という空虚な時間。ここにいるようで、いないような。気が付いたら、一瞬で時が過ぎ去ってしまったようなウソみたいな時間。その中でも、たしかに幸せはあった。
ハーディアル魔術学院で過ごしてきた仲間たちと、ともに帝国のために仕える。こうやって静かに歳をとってゆき、平凡な人生を送ってゆくのも悪くはない。でも、そんな安穏とした心の波に、結婚指輪が揺らぎを与える。
誰か――。
誰かいたはずだ。
(ホントウにオレは、こんな平和な場所にいても良いんだろうか?)
もっと危険なヤツと向き合わなければならない、使命があった気がするのだ。
「しかし、最近はテロリストの相手ばかりだな。コラ」
と、サマルが呟く。
「ケリュアル王国とも、そんなに争うこともなくなりましたからね。何があったのかは知りませんけど、バートリー魔法長官が裏でいろいろ動いた……と言われてますけど」
と、ロレンスが応じた。
バートリーは、王国や――他にもエルフたちや、魚人族にたいして、ヒンパンに接触しているそうだ。外交目的なのか何なのか知らないが、ずいぶんと忙しくたちまわっている。ケネスに対しても、異様なぐらい親切に接してくれる。でも、ときおり、腫物に触るような態度に思えることもある。
「そう言えば今日……」
と、ケネスは口を開いた。
「どうした?」
とロレンスが応じる。
「いや。なんでもない」
ガルシアを探しているときに、不思議な幻聴が聞こえたのだ。酷くなつかしいような声だった。あのことを話そうと思ったのだけれど、話してはいけないような気がして、口をつぐんだのだった。
「クソッ。逃げられた!」
と、ロレンスは子供みたいにジダンダを踏んでいた。石畳のストリートに積もった淡雪が、ロレンスに蹴散らされていった。道行く人たちが、何事かと避けて通っていた。
『あらかじめ決めていた陣形があったはず。忘れた?』
クロノがメモ洋紙にそう書いて、ロレンスに押し付けた。ロレンスは苦々しい表情でそれを見ていた。
「いえ。すみません。ついカッとなって」
『次からは気を付けて』
とクロノは変わらぬジト目で、ロレンスに注意していた。メモ用紙を受け取ったロレンスはうなだれていた。その後も、しばらくガルシアの情報を集めたけれど、結局、たいした情報は手に入らなかった。
「帰ろうぜ。コラ。寒くなってきやがった」
とサマルの声を合図に、クロノ小隊は城に帰還することになった。
帝都の兵舎は大きい。小隊1つにつき、無数にある部屋の一室が与えられていた。ベッドは4台敷き詰められている。クロノのベッドだけ少し話して置いてある。テーブルも4人分の食器を並べれば、たちまちイッパイになってしまう。
家事の担当は4人で順番に回しており、今日はロレンスが担当だった。クロノがガルシアを逃がしたことを、上官に報告しに行っているあいだに、夕食をこしらえてくれた。ケネスも食器を運ぶのを手伝った。
夕食を並び終えたと同時に、クロノが戻ってきた。
「上官から、なんか言われなかったスか? コラ」
クロノは黙って首を左右に振った。
黒く長い髪が揺れる。
「すみません。オレが勝手な行動に出たばっかりに」
と、ロレンスが謝った。
『次から気を付けてくれれば良い。どのみち逃げられていたとは思うから』
4人で食卓につく。
ケネスはコーンスープをスプーンですくい上げた。黄色いトロッとした液体が口のなかに入り込んでくる。思いのほか熱くて、唇をヤケドしそうになった。あわてて唇からスプーンを話す。ケネスのその失態を見て、みんな笑っていた。
たかが小隊にしては恵まれているほうだと思うけれど、決して、贅沢な暮らしをしているわけではない。
それでも、ケネスは幸せだった。
6年という空虚な時間。ここにいるようで、いないような。気が付いたら、一瞬で時が過ぎ去ってしまったようなウソみたいな時間。その中でも、たしかに幸せはあった。
ハーディアル魔術学院で過ごしてきた仲間たちと、ともに帝国のために仕える。こうやって静かに歳をとってゆき、平凡な人生を送ってゆくのも悪くはない。でも、そんな安穏とした心の波に、結婚指輪が揺らぎを与える。
誰か――。
誰かいたはずだ。
(ホントウにオレは、こんな平和な場所にいても良いんだろうか?)
もっと危険なヤツと向き合わなければならない、使命があった気がするのだ。
「しかし、最近はテロリストの相手ばかりだな。コラ」
と、サマルが呟く。
「ケリュアル王国とも、そんなに争うこともなくなりましたからね。何があったのかは知りませんけど、バートリー魔法長官が裏でいろいろ動いた……と言われてますけど」
と、ロレンスが応じた。
バートリーは、王国や――他にもエルフたちや、魚人族にたいして、ヒンパンに接触しているそうだ。外交目的なのか何なのか知らないが、ずいぶんと忙しくたちまわっている。ケネスに対しても、異様なぐらい親切に接してくれる。でも、ときおり、腫物に触るような態度に思えることもある。
「そう言えば今日……」
と、ケネスは口を開いた。
「どうした?」
とロレンスが応じる。
「いや。なんでもない」
ガルシアを探しているときに、不思議な幻聴が聞こえたのだ。酷くなつかしいような声だった。あのことを話そうと思ったのだけれど、話してはいけないような気がして、口をつぐんだのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
238
-
-
1
-
-
52
-
-
2265
-
-
32
-
-
0
-
-
969
-
-
4
-
-
1168
コメント