《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第6-13話「学院祭 ⅩⅢ」
ない。ない。ない!
「やられたッ」
ケネスはそう叫んだ。
自室のベッドの下を探ってみたら、『アースアースの鉱石』がなくなっていた。破壊できないから、保管しておいたはずなのだ。
誰かに盗られた。
ベッドの下だけでなくて、クローゼットの中も探ってみたけれど、やはり、なくなっている。
「このバカ者! なんでもっと大切に保管しておかんのじゃッ」
と、ヴィルザは憤慨していた。
「バカ者はないだろッ。オレがベッドの下に入れてても、ヴィルザは何も言わなかったじゃないかッ」
「まさか、あんな岩の塊みたいなのを盗み出すヤツがおるとは、思わんかったんじゃ!」
「オレだってそうだ。まさか盗まれるなんて思わなかったんだよ!」
互いに怒鳴りあって、ふーふーと息を吐き合った。ケネスとヴィルザのにらみ合う狭間に、熱い呼気が渦巻いた。
「いつじゃ? いつからなかった?」
と、ヴィルザが声音を静めて尋ねてきた。
「今朝はあった」
「盗まれたのは、この媚薬騒ぎの間ということか」
「そういうことだ」
『アクロデリアの香水』を破壊したことによって、生徒たちの騒ぎは落ちついたようだ。今は先生たちが、処理に当たっている。こういうときこそ生徒会長の出番なのだろうが、それどころではない。
「まんまとやられたな。『アクロデリアの香水』を囮にして、『アースアースの鉱石』を奪われるとはな」
「なんだそりゃ。《神の遺物》の物々交換じゃあるまいし」
1つは壊せた。
しかし1つは奪われた。
4つ目の折り返し地点だと思っていたのに、また一歩後ろに下がった。大きな落胆があったけれど、ヴィルザのほうがもっと落胆しているはずだ。
「ただ交換しただけじゃあるまい。いろいろとマズイ気配がする」
「不気味なこと言うなよ」
ヴィルザの直感はよく当たる。神の直感に外れはない。
「怖れていた事態になっているのかもしれん」
「脅かすなよ。なんだよ、怖れていた事態って」
まあ、座れ。
やけに落ち着いてヴィルザはそう促してきた。言われたとおり、ケネスはベッドに腰かけた。外からは先生や生徒の声が聞こえてくる。外は、媚薬騒ぎの余燼でいまだ混乱しているようだ。
「何者かに『アースアースの鉱石』を盗まれたということは、つまり、ケネスが《神の遺物》を隠し持っていたことがバレたということじゃ」
「そうなるな」
「あんな露骨に、『アクロデリアの香水』が置かれていたのも、何者かがケネスの動向を知りたかったからかもしれん」
「オレの動向?」
ヴィルザの表情はいつになく深刻だ。
「『アクロデリアの香水』を前に、どうするのか。ケネスは躊躇なく、『アクロデリアの香水』を破壊した。これでケネスが、《神の遺物》を壊して周っていることが、何者かに露見した」
「いや……でも、近くには誰もいなかったし……」
「近くで見ていなくとも、すぐにわかることであろう。この騒動が治まったのは、『アクロデリアの香水』が破壊されたおかげなんじゃから」
「そ、そうだけど。あんな騒動を起こしてる物体があったら、誰だって壊すだろう!」
「しかし、既成事実はつくられた」
と、ヴィルザはケネスの鼻先に指をつきつけてきた。
「なんだよ。既成事実って」
「『マディシャンの杖』と『カヌスのウロコ』に関しては、バレてないと思うがな。『アースアースの鉱石』を隠し持ち、『アクロデリアの香水』を破壊した――という事実を作られたということじゃ」
「ってことは、どういうことになる?」
やっぱり座っていられなかった。立ち上がって無為に部屋の中を歩き回った。落ちつかない。煙草を取り出して、ケムリを吸いこんだ。龍の葉の焦げた臭いが、ケネスの肺腑に送り込まれる。
「私の復活を目論んでいるとは思われんじゃろうが、《神の遺物》を破壊して回っていることは知られたし、言い逃れできんということじゃな」
こう言えば、もっとわかりやすいか?
と、ヴィルザは続けた。
「コゾウを捕える口実が出来た」
「オレを捕える? 誰が?」
「それは、先日から刺客を送り込んで来ておるヤツじゃろうなぁ。そしてそれは、おそらく帝国内部の人間」
「捕まえられるのか、オレ」
「逃げるなら、一緒に行くぞ。どこまでもな」
ヴィルザは余裕そうに微笑んだ。その微笑みを見ると、ケネスもすこしは落ちつくことができた。
「なんだか、出会った当初のことを思い出すな」
「ベルモンド・ゴーランを殺したときのことか。そう言えば、あのときも逃げ回っておったな」
「でも、今逃げ出したら、卒業できないしな。ガルシアさんとの約束もあるし」
「あの小娘との約束はもう果たしたであろうが。ついさっきチカラを認められたではないか」
「あれで良かったのかな? なんだか媚薬でオカシクなってたから、覚えてくれてると良いんだけど」
くくくくっ、とヴィルザが笑う。
「何かオカシイか?」
「媚薬でオカシクなったフリをしていたのが、私だけと思うでないわ」
「え! じゃあ、ガルシアさんも?」
「媚薬にオカシクなったフリをして、ケネスに襲いかかってきたと見て間違いない。あの女は、《神の遺物》をもってしても、抑えのきかぬ暴れ馬じゃ」
「ってことは……」
ガルシアはケネスにたいして言ったのだ。
君は強い、と。
あの言葉はまぎれもなく、ガルシアの本音だったということか。
「そっか。オレは……強くなることが出来たのか」
感慨深く、自分の手のひらを見つめた。
「あのガルシアとかいう女に認められたからと言って満足するでないぞ。私はまだぜんぜん認めてないからな。私の夫になりたいのなら、もっと強くなってもらわねばならん」
「オレの嫁になりたかったら、もっとお淑やかになってもらわないとな」
と、言いかえしてやった。
「うぐっ。言いよるわ。コゾウが」
めずらしくヴィルザが言いかえしては来なかった。
「まあ、もう少し、様子を見てみようか。もし捕えられるようなことになれば、そのとき逃げれば良いわけだし」
「油断するでないぞ。コゾウはいつも肝心なところで、気を抜くからな」
「悪かったな」
ケネスは生徒会長として、混乱の収拾の手伝いに向かうことにした。どうやらみんな、媚薬に犯されていたときのことを、覚えていないようだった。おかげで混乱を収拾させるのに、それほど手間がかからずに済んだ。
「やられたッ」
ケネスはそう叫んだ。
自室のベッドの下を探ってみたら、『アースアースの鉱石』がなくなっていた。破壊できないから、保管しておいたはずなのだ。
誰かに盗られた。
ベッドの下だけでなくて、クローゼットの中も探ってみたけれど、やはり、なくなっている。
「このバカ者! なんでもっと大切に保管しておかんのじゃッ」
と、ヴィルザは憤慨していた。
「バカ者はないだろッ。オレがベッドの下に入れてても、ヴィルザは何も言わなかったじゃないかッ」
「まさか、あんな岩の塊みたいなのを盗み出すヤツがおるとは、思わんかったんじゃ!」
「オレだってそうだ。まさか盗まれるなんて思わなかったんだよ!」
互いに怒鳴りあって、ふーふーと息を吐き合った。ケネスとヴィルザのにらみ合う狭間に、熱い呼気が渦巻いた。
「いつじゃ? いつからなかった?」
と、ヴィルザが声音を静めて尋ねてきた。
「今朝はあった」
「盗まれたのは、この媚薬騒ぎの間ということか」
「そういうことだ」
『アクロデリアの香水』を破壊したことによって、生徒たちの騒ぎは落ちついたようだ。今は先生たちが、処理に当たっている。こういうときこそ生徒会長の出番なのだろうが、それどころではない。
「まんまとやられたな。『アクロデリアの香水』を囮にして、『アースアースの鉱石』を奪われるとはな」
「なんだそりゃ。《神の遺物》の物々交換じゃあるまいし」
1つは壊せた。
しかし1つは奪われた。
4つ目の折り返し地点だと思っていたのに、また一歩後ろに下がった。大きな落胆があったけれど、ヴィルザのほうがもっと落胆しているはずだ。
「ただ交換しただけじゃあるまい。いろいろとマズイ気配がする」
「不気味なこと言うなよ」
ヴィルザの直感はよく当たる。神の直感に外れはない。
「怖れていた事態になっているのかもしれん」
「脅かすなよ。なんだよ、怖れていた事態って」
まあ、座れ。
やけに落ち着いてヴィルザはそう促してきた。言われたとおり、ケネスはベッドに腰かけた。外からは先生や生徒の声が聞こえてくる。外は、媚薬騒ぎの余燼でいまだ混乱しているようだ。
「何者かに『アースアースの鉱石』を盗まれたということは、つまり、ケネスが《神の遺物》を隠し持っていたことがバレたということじゃ」
「そうなるな」
「あんな露骨に、『アクロデリアの香水』が置かれていたのも、何者かがケネスの動向を知りたかったからかもしれん」
「オレの動向?」
ヴィルザの表情はいつになく深刻だ。
「『アクロデリアの香水』を前に、どうするのか。ケネスは躊躇なく、『アクロデリアの香水』を破壊した。これでケネスが、《神の遺物》を壊して周っていることが、何者かに露見した」
「いや……でも、近くには誰もいなかったし……」
「近くで見ていなくとも、すぐにわかることであろう。この騒動が治まったのは、『アクロデリアの香水』が破壊されたおかげなんじゃから」
「そ、そうだけど。あんな騒動を起こしてる物体があったら、誰だって壊すだろう!」
「しかし、既成事実はつくられた」
と、ヴィルザはケネスの鼻先に指をつきつけてきた。
「なんだよ。既成事実って」
「『マディシャンの杖』と『カヌスのウロコ』に関しては、バレてないと思うがな。『アースアースの鉱石』を隠し持ち、『アクロデリアの香水』を破壊した――という事実を作られたということじゃ」
「ってことは、どういうことになる?」
やっぱり座っていられなかった。立ち上がって無為に部屋の中を歩き回った。落ちつかない。煙草を取り出して、ケムリを吸いこんだ。龍の葉の焦げた臭いが、ケネスの肺腑に送り込まれる。
「私の復活を目論んでいるとは思われんじゃろうが、《神の遺物》を破壊して回っていることは知られたし、言い逃れできんということじゃな」
こう言えば、もっとわかりやすいか?
と、ヴィルザは続けた。
「コゾウを捕える口実が出来た」
「オレを捕える? 誰が?」
「それは、先日から刺客を送り込んで来ておるヤツじゃろうなぁ。そしてそれは、おそらく帝国内部の人間」
「捕まえられるのか、オレ」
「逃げるなら、一緒に行くぞ。どこまでもな」
ヴィルザは余裕そうに微笑んだ。その微笑みを見ると、ケネスもすこしは落ちつくことができた。
「なんだか、出会った当初のことを思い出すな」
「ベルモンド・ゴーランを殺したときのことか。そう言えば、あのときも逃げ回っておったな」
「でも、今逃げ出したら、卒業できないしな。ガルシアさんとの約束もあるし」
「あの小娘との約束はもう果たしたであろうが。ついさっきチカラを認められたではないか」
「あれで良かったのかな? なんだか媚薬でオカシクなってたから、覚えてくれてると良いんだけど」
くくくくっ、とヴィルザが笑う。
「何かオカシイか?」
「媚薬でオカシクなったフリをしていたのが、私だけと思うでないわ」
「え! じゃあ、ガルシアさんも?」
「媚薬にオカシクなったフリをして、ケネスに襲いかかってきたと見て間違いない。あの女は、《神の遺物》をもってしても、抑えのきかぬ暴れ馬じゃ」
「ってことは……」
ガルシアはケネスにたいして言ったのだ。
君は強い、と。
あの言葉はまぎれもなく、ガルシアの本音だったということか。
「そっか。オレは……強くなることが出来たのか」
感慨深く、自分の手のひらを見つめた。
「あのガルシアとかいう女に認められたからと言って満足するでないぞ。私はまだぜんぜん認めてないからな。私の夫になりたいのなら、もっと強くなってもらわねばならん」
「オレの嫁になりたかったら、もっとお淑やかになってもらわないとな」
と、言いかえしてやった。
「うぐっ。言いよるわ。コゾウが」
めずらしくヴィルザが言いかえしては来なかった。
「まあ、もう少し、様子を見てみようか。もし捕えられるようなことになれば、そのとき逃げれば良いわけだし」
「油断するでないぞ。コゾウはいつも肝心なところで、気を抜くからな」
「悪かったな」
ケネスは生徒会長として、混乱の収拾の手伝いに向かうことにした。どうやらみんな、媚薬に犯されていたときのことを、覚えていないようだった。おかげで混乱を収拾させるのに、それほど手間がかからずに済んだ。
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