《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第6-12話「学院祭 ⅩⅡ」
「ここっぽいな」
マディシャンの石像がおわす男子寮。
その一室。309号室。ケネスと同じ階の住人だ。
ケネスの《可視化》で見る桃色のケムリは、その部屋のトビラの隙間から漏れていた。
「さっさと、潰してしまえ。ケネスが飲んだ、あの無効化のポーションを薄めた薬も、いつまで持つかわからんしな」
「それもそうだな」
早急に破壊したほうが良さそうだ。
コンコン
ノックしてみた。返事はない。何度かノックしてみたけれど、反応はなかった。何気なく真鍮製のドアノブをひねってみた。開いた。
「開いてるな……」
「気を付けて開けよ。刺客が中で待機してるかもしれん」
「わかった」
ヴィルザの忠告を受けて、トビラを透過してみた。誰もいる気配はない。トビラを開ける。ナイフが飛んでくる……魔法が飛来してくる……といったことはなかった。
静かなものだ。部屋の作りはケネスのところと同じだ。家具の配置も同じ。ベッドと机とクローゼットが置かれているだけの簡素な部屋だ。ただ部屋の中央には、桃色のケムリをもうもうと吐き出すガラス瓶が鎮座ましましておられた。
「誰もいないのか」
見渡すほど広い部屋ではない。イチベツで誰もいないことはわかる。いちおうベッドの下と、クローゼットの中を探ってみたけれど、やはり誰もいなかった。
「妙じゃな。なんじゃこれは」
「たしかに妙だな。罠か?」
アクロデリアの香水が、まるで壊してくださいと主張するかのように、部屋の中央に置かれているのだ。
「はて。罠が仕掛けられているようには見えんがな。呪痕はどうじゃ? あるか?」
「ガラス瓶に入ってる」
なんとも言えない、名状しがたい形状をした記号が刻まれている。神様が記した記号だ。人間であるケネスには読み解けないのかもしれない。
「アースアースの鉱石は壊せておらんが、これで4つ目じゃ。折り返し地点じゃ。さっさと破壊してしまえ」
と、ヴィルザが急かしてきた。
封印されているヴィルザからしてみれば、焦らざるをえないだろう。
「長いようで、意外と短かったな」
ヴィルザと出会ってから、おおよそ3年の月日が経過した。3年で4つもの封印を破壊できたのかと思うと、順調なペースだと思う。
帝都でゲヘナ・デリュリアスの騒ぎがあって、ケネスも自分で魔法を使えるようになりたいと思って、魔術学院に入学した。そして、帰郷して戦火に巻き込まれ、1人で王国領に行ったりもした。あのときはヴィルザとケンカをして大変だったな……と歩んできた道をなつかしんだ。
「ささ。早く早く」
とヴィルザはケネスの外套のスソを引っ張ってくる。
「わかってるから、そんなに急かすなよ」
ほんの小さな火球を出した。その小さな炎をブツけるだけで、アクロデリアの香水は破壊することができた。呆気ない。『アースアースの鉱石』が異様に硬かったのにたいして、『アクロデリアの香水』は、あまりに脆かった。桃色のケムリはピタリと止んだ。砕け散ったガラス瓶は、空気中に溶けるように霧散していった。
「おおっ。これで3つの封印が解かれたのを実感する。かつてのチカラが、戻ってくるのを感じるぞ」
「それ以上、強くなるのかよ」
と、ケネスは呆れて言った。もはやヴィルザを怖れるということはなくなった。その変わり、ヴィルザの残虐性や、その保有する魔力量にたいして、ヘキエキするような思いを抱くことはある。
「忘れたわけではあるまい。魔神ヴィルザハードは、8大神が合わさったチカラよりも強いんじゃい」
ふん、とヴィルザは胸を張って見せた。
「相変わらず、胸は小さいままだがな」
「なにォ。胸の大きさを揶揄するなんて、デリカシーがなさすぎるわッ!」
「よく言うぜ」
今までケネスも、さんざんデリカシーのない揶揄を受けてきているのだ。
「この世界に残っている《神の遺物》も、8大神の遺物というだけじゃからな。本人たちはもっと強かった」
「だろうな」
《神の遺物》だけでも、トンデモナイ効果を発揮する。たった今破壊した香水もそうだ。が、神様本人ではないのだ。神様のほんの一部でしかない。そう考えると、8大神ってのはヤッパリすごかったんだなぁ……と思い知らされる。
「それにしても、いったい誰が、こんな露骨に、『アクロデリアの香水』を置いたんじゃろうな」
「さあな」
他人の部屋で長居していると不審に思われかねない。部屋に戻ることにした。
マディシャンの石像がおわす男子寮。
その一室。309号室。ケネスと同じ階の住人だ。
ケネスの《可視化》で見る桃色のケムリは、その部屋のトビラの隙間から漏れていた。
「さっさと、潰してしまえ。ケネスが飲んだ、あの無効化のポーションを薄めた薬も、いつまで持つかわからんしな」
「それもそうだな」
早急に破壊したほうが良さそうだ。
コンコン
ノックしてみた。返事はない。何度かノックしてみたけれど、反応はなかった。何気なく真鍮製のドアノブをひねってみた。開いた。
「開いてるな……」
「気を付けて開けよ。刺客が中で待機してるかもしれん」
「わかった」
ヴィルザの忠告を受けて、トビラを透過してみた。誰もいる気配はない。トビラを開ける。ナイフが飛んでくる……魔法が飛来してくる……といったことはなかった。
静かなものだ。部屋の作りはケネスのところと同じだ。家具の配置も同じ。ベッドと机とクローゼットが置かれているだけの簡素な部屋だ。ただ部屋の中央には、桃色のケムリをもうもうと吐き出すガラス瓶が鎮座ましましておられた。
「誰もいないのか」
見渡すほど広い部屋ではない。イチベツで誰もいないことはわかる。いちおうベッドの下と、クローゼットの中を探ってみたけれど、やはり誰もいなかった。
「妙じゃな。なんじゃこれは」
「たしかに妙だな。罠か?」
アクロデリアの香水が、まるで壊してくださいと主張するかのように、部屋の中央に置かれているのだ。
「はて。罠が仕掛けられているようには見えんがな。呪痕はどうじゃ? あるか?」
「ガラス瓶に入ってる」
なんとも言えない、名状しがたい形状をした記号が刻まれている。神様が記した記号だ。人間であるケネスには読み解けないのかもしれない。
「アースアースの鉱石は壊せておらんが、これで4つ目じゃ。折り返し地点じゃ。さっさと破壊してしまえ」
と、ヴィルザが急かしてきた。
封印されているヴィルザからしてみれば、焦らざるをえないだろう。
「長いようで、意外と短かったな」
ヴィルザと出会ってから、おおよそ3年の月日が経過した。3年で4つもの封印を破壊できたのかと思うと、順調なペースだと思う。
帝都でゲヘナ・デリュリアスの騒ぎがあって、ケネスも自分で魔法を使えるようになりたいと思って、魔術学院に入学した。そして、帰郷して戦火に巻き込まれ、1人で王国領に行ったりもした。あのときはヴィルザとケンカをして大変だったな……と歩んできた道をなつかしんだ。
「ささ。早く早く」
とヴィルザはケネスの外套のスソを引っ張ってくる。
「わかってるから、そんなに急かすなよ」
ほんの小さな火球を出した。その小さな炎をブツけるだけで、アクロデリアの香水は破壊することができた。呆気ない。『アースアースの鉱石』が異様に硬かったのにたいして、『アクロデリアの香水』は、あまりに脆かった。桃色のケムリはピタリと止んだ。砕け散ったガラス瓶は、空気中に溶けるように霧散していった。
「おおっ。これで3つの封印が解かれたのを実感する。かつてのチカラが、戻ってくるのを感じるぞ」
「それ以上、強くなるのかよ」
と、ケネスは呆れて言った。もはやヴィルザを怖れるということはなくなった。その変わり、ヴィルザの残虐性や、その保有する魔力量にたいして、ヘキエキするような思いを抱くことはある。
「忘れたわけではあるまい。魔神ヴィルザハードは、8大神が合わさったチカラよりも強いんじゃい」
ふん、とヴィルザは胸を張って見せた。
「相変わらず、胸は小さいままだがな」
「なにォ。胸の大きさを揶揄するなんて、デリカシーがなさすぎるわッ!」
「よく言うぜ」
今までケネスも、さんざんデリカシーのない揶揄を受けてきているのだ。
「この世界に残っている《神の遺物》も、8大神の遺物というだけじゃからな。本人たちはもっと強かった」
「だろうな」
《神の遺物》だけでも、トンデモナイ効果を発揮する。たった今破壊した香水もそうだ。が、神様本人ではないのだ。神様のほんの一部でしかない。そう考えると、8大神ってのはヤッパリすごかったんだなぁ……と思い知らされる。
「それにしても、いったい誰が、こんな露骨に、『アクロデリアの香水』を置いたんじゃろうな」
「さあな」
他人の部屋で長居していると不審に思われかねない。部屋に戻ることにした。
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