《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第6-5話「学院祭 Ⅴ」
ケネスはガルシアにつれられて、石造りの廊下を歩いた。生徒たちは祭のため外に出ており、本校舎の中にはあまり人はいなかった。廊下にある大きな窓から、その校庭の様子を見下ろすことができた。日常にはない活気が、渦巻いていた。その光景がまぶしくって、ケネスは目を細めた。
歩きつつ、第一皇女ルキサ・リ・デラルと、第一皇子ヘイストン・リ・デラルの陣営について、ガルシアは教えてくれた。
「皇帝陛下の体調が芳しくないとわかるや否や、すぐにこんな状態になるのだから、一枚岩とは言えんな。停戦中とはいえ、ケリュアル王国との戦争もあるというのに」
と、ガルシアは愚痴っていた。
帝国12騎士の誰々は、第一皇女の側についている……帝国12魔術師は意外と、第一皇子の派閥についた者が多い……とガルシアは熱心に語っていた。ケネスはそれを他人事のように聞いていた。しかし、ふと耳を奪われる話を聞くことになった。
「バートリーも、第一皇子側につくということだった」
「バートリーさんが?」
「ああ」
「でも、バートリーさんって、ガルシアさんの副官なんですよね?」
うむ、とガルシアは重々しくうなずく。
「帝国では魔術部隊を二つに分けるという話も出ている。私が率いる魔術部隊と、バートリーが率いる部隊とな。同じ帝国軍人とはいえ、これからは何かといがみ合うことになるかもしれん」
「いいんですか?」
「バートリーが望んだことだ。仕方ない。国よりもチカラを求める思想と、なによりも帝国をイチバンに考えるバートリーとは、すこし考え方も違うしな」
ガルシアは毅然とした調子でそう言ったけれど、どことなく元気がないようにも見えた。バートリーさんが第一皇子派になるということは、オレも政敵になってしまうんだろうか。そう考えるとケネスには、迷いが生じた。そう言えば、クロノやサマルも皇子側だと言っていた。
「しかも、帝国がゴタゴタしている隙を見計らって、暗躍している連中もいる」
「暗躍?」
誰もいない通路だったが、ガルシアは周囲を見回してから言葉を続けた。
「《神の遺物》だ」
「え?」
この頃、ケネスも執心している《神の遺物》の名前が出てきたので、思わず肩を震わせてしまう。ガルシアは正面を見据えており、ケネスのことを見ていなかったので、その反応については何とも思われなかったようだ。
「帝国は2つの《神の遺物》を保管していた。ひとつは『大地の神アースアースの鉱石』もうひとつは『愛の女神アクロデリアの香水』」
香水は知らないが、『アースアースの鉱石』なら、先日手に入れたところだ。いまだ破壊には至っていない。ベッドの下のカバンに詰め込んで隠している。もともとケネスを襲撃してきたグラトンが持っていたものだ。誰かがグラトンに渡したのだろうとヴィルザは予想していたが、どうやら帝都にあったものらしい。
「それがどうしたんです?」
アースアースの鉱石をケネスが持っていることも、グラトンがそれを持って襲ってきたことも、ガルシアは知らないのだろう。知らないということは、刺客を差し向けてくる黒幕ではない。いや。あるいは、知らないふりをしているのか……。
「その2つが、何者かに持ち出された」
「持ち出された?」
「おそらく帝都内部にいる者の仕業だと思う。帝都の城塔のひとつに厳重に保管されていたものが盗み出されたのだ。目下全力で捜索中だ。捜索中といっても、秘密裡に捜索しているところだがな」
それを聞いて、ケネスは青ざめるような思いがした。『アースアースの鉱石』を持っていることが知れたら、ケネスが持ち出したものと疑われかねない。
(正直に打ち明けたほうが良いか?)
命を狙われていることは、ガルシアに相談すれば乗ってくれるかもしれない。あやうく、すべて話してしまいそうになったけれど、ノドモトでとどまった。『アースアースの鉱石』を持っていることを知られたら、どうしてすぐに言わなかったのか問い詰められるかもしれない。
ヴィルザの存在を伏せたまま、伝えられる自信がなかった。
すでに『マディシャンの杖』と『カヌスのウロコ』も破壊している。そのことに言及されれば、答えようがない。
なにより――。
いずれ『アースアースの鉱石』も破壊するつもりなのだ。返すわけにはいかない。
(待てよ……)
と、ケネスは足を止めた。
いまさらながら、ケネスは自分の所業に気づかされた。
今までケネスは、ヴィルザの封印を解いても良いものかどうか……という点だけを考えて、《神の遺物》を破壊してきた。
ヴィルザは「封印を解いて欲しい」と、ころあるごとに懇願してくる。孤独は厭なのだと泣きついてくる。大人しくしているのであれば、ヴィルザの封印を解いても良いだろうと思っている。今までの付き合いでわかる。ヴィルザは残虐で無邪気なところがあるけれど、物分りは悪くない。ちゃんとケネスの言うことをきく。
それに、封印を解いたあかつきには、ケネスの故郷を復活させてくれるという約束もした。ロールや村人たちを生き返らせてくれるとも言っていた。
で――。
『マディシャンの杖』『カヌスのウロコ』を破壊してきたわけだが、それは世間から見れば、神に反逆するかのような行いだ。
《神の遺物》が魔神封印のカギを握っていることは、世間には知られていない。それでも、《神の遺物》を破壊して回る行為は、決して巷間に良い印象を与えない。神に反逆する大罪人だ。
「どうかしたか?」
と、ガルシアが怪訝そうに尋ねてきた。
「いえ。なんでもありません」
『アースアースの鉱石』を持っていることは、黙っていることにした。しかし、ひとつ有益な情報が手に入った。
あの鉱石は、帝都にあったものなのだ。
何者かが盗み出した。
それはグラトンではないはずだ。その〝何者か〟が、グラトンに渡したと考えるべきだ。すなわち、ケネスのことを殺そうと刺客を送り込んでくる人物だ。
歩きつつ、第一皇女ルキサ・リ・デラルと、第一皇子ヘイストン・リ・デラルの陣営について、ガルシアは教えてくれた。
「皇帝陛下の体調が芳しくないとわかるや否や、すぐにこんな状態になるのだから、一枚岩とは言えんな。停戦中とはいえ、ケリュアル王国との戦争もあるというのに」
と、ガルシアは愚痴っていた。
帝国12騎士の誰々は、第一皇女の側についている……帝国12魔術師は意外と、第一皇子の派閥についた者が多い……とガルシアは熱心に語っていた。ケネスはそれを他人事のように聞いていた。しかし、ふと耳を奪われる話を聞くことになった。
「バートリーも、第一皇子側につくということだった」
「バートリーさんが?」
「ああ」
「でも、バートリーさんって、ガルシアさんの副官なんですよね?」
うむ、とガルシアは重々しくうなずく。
「帝国では魔術部隊を二つに分けるという話も出ている。私が率いる魔術部隊と、バートリーが率いる部隊とな。同じ帝国軍人とはいえ、これからは何かといがみ合うことになるかもしれん」
「いいんですか?」
「バートリーが望んだことだ。仕方ない。国よりもチカラを求める思想と、なによりも帝国をイチバンに考えるバートリーとは、すこし考え方も違うしな」
ガルシアは毅然とした調子でそう言ったけれど、どことなく元気がないようにも見えた。バートリーさんが第一皇子派になるということは、オレも政敵になってしまうんだろうか。そう考えるとケネスには、迷いが生じた。そう言えば、クロノやサマルも皇子側だと言っていた。
「しかも、帝国がゴタゴタしている隙を見計らって、暗躍している連中もいる」
「暗躍?」
誰もいない通路だったが、ガルシアは周囲を見回してから言葉を続けた。
「《神の遺物》だ」
「え?」
この頃、ケネスも執心している《神の遺物》の名前が出てきたので、思わず肩を震わせてしまう。ガルシアは正面を見据えており、ケネスのことを見ていなかったので、その反応については何とも思われなかったようだ。
「帝国は2つの《神の遺物》を保管していた。ひとつは『大地の神アースアースの鉱石』もうひとつは『愛の女神アクロデリアの香水』」
香水は知らないが、『アースアースの鉱石』なら、先日手に入れたところだ。いまだ破壊には至っていない。ベッドの下のカバンに詰め込んで隠している。もともとケネスを襲撃してきたグラトンが持っていたものだ。誰かがグラトンに渡したのだろうとヴィルザは予想していたが、どうやら帝都にあったものらしい。
「それがどうしたんです?」
アースアースの鉱石をケネスが持っていることも、グラトンがそれを持って襲ってきたことも、ガルシアは知らないのだろう。知らないということは、刺客を差し向けてくる黒幕ではない。いや。あるいは、知らないふりをしているのか……。
「その2つが、何者かに持ち出された」
「持ち出された?」
「おそらく帝都内部にいる者の仕業だと思う。帝都の城塔のひとつに厳重に保管されていたものが盗み出されたのだ。目下全力で捜索中だ。捜索中といっても、秘密裡に捜索しているところだがな」
それを聞いて、ケネスは青ざめるような思いがした。『アースアースの鉱石』を持っていることが知れたら、ケネスが持ち出したものと疑われかねない。
(正直に打ち明けたほうが良いか?)
命を狙われていることは、ガルシアに相談すれば乗ってくれるかもしれない。あやうく、すべて話してしまいそうになったけれど、ノドモトでとどまった。『アースアースの鉱石』を持っていることを知られたら、どうしてすぐに言わなかったのか問い詰められるかもしれない。
ヴィルザの存在を伏せたまま、伝えられる自信がなかった。
すでに『マディシャンの杖』と『カヌスのウロコ』も破壊している。そのことに言及されれば、答えようがない。
なにより――。
いずれ『アースアースの鉱石』も破壊するつもりなのだ。返すわけにはいかない。
(待てよ……)
と、ケネスは足を止めた。
いまさらながら、ケネスは自分の所業に気づかされた。
今までケネスは、ヴィルザの封印を解いても良いものかどうか……という点だけを考えて、《神の遺物》を破壊してきた。
ヴィルザは「封印を解いて欲しい」と、ころあるごとに懇願してくる。孤独は厭なのだと泣きついてくる。大人しくしているのであれば、ヴィルザの封印を解いても良いだろうと思っている。今までの付き合いでわかる。ヴィルザは残虐で無邪気なところがあるけれど、物分りは悪くない。ちゃんとケネスの言うことをきく。
それに、封印を解いたあかつきには、ケネスの故郷を復活させてくれるという約束もした。ロールや村人たちを生き返らせてくれるとも言っていた。
で――。
『マディシャンの杖』『カヌスのウロコ』を破壊してきたわけだが、それは世間から見れば、神に反逆するかのような行いだ。
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「どうかしたか?」
と、ガルシアが怪訝そうに尋ねてきた。
「いえ。なんでもありません」
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それはグラトンではないはずだ。その〝何者か〟が、グラトンに渡したと考えるべきだ。すなわち、ケネスのことを殺そうと刺客を送り込んでくる人物だ。
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