《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第6-3話「学院祭 Ⅲ」
外に出る。
いつも魔術実践学をやっている校庭に、今日は屋台が建ち並んでいる。学院祭ということで、あちこちの店が出張ってきている。
学生が催しているものもまじっている。揚げ物の香ばしさと、糖類の甘ったるい匂いの入り雑じった、独特な匂いが漂っていた。
ウソみたいな平和な光景に、ケネスはアッと驚かされる。でも、光が強いほど、闇は濃くなる。故郷を焼かれたり、人を殺したり、誰も知らないところで魔神とつるんだり、最近は命を狙われたり……そんな暗闇で忙しい人間には、別の世界の出来事に見えるのだった。
ケネスは校舎の壁にもたれかかって、小馬鹿にするような気持ちで、その騒ぎを見つめていた。
「くくっ」
と、薄ら笑いを浮かべて、煙草に火をつけた。
「あーっ。お久しぶりですねぇ」
と、声をかけられたので、そっちのほうを見ると、赤毛、緑毛、白毛の3人組がいた。ガルとマスクとテイラの3人だった。会うのはほとんど3年ぶりになる。3人ともマッタク変わらぬ風情だった。マスクが仮面をしているのも同じだし、テイラの短い白髪もそのままだ。
「お久しぶりです」
と、ケネスは校舎壁から背中を離して、自立した。握手のつもりで差し出したケネスの手を、真っ先につかんできたのはマスクだった。
この頃、仮面をつけた者たちにたいして警戒心を抱いているので、マスクのその面にもドキッとさせられるものがあったけれど、仮面の絵柄がぜんぜん違っている。マスクの仮面は、木彫りのものにたいして、刺客の仮面は白く塗り込められたものだ。
「ケネスさん。いやーっ。ずいぶんと背が伸びましたね。最初は、見てもわかりませんでしたよ」
「そうですかね」
言われてみれば、『孤独の放浪者』に出会った当時は、ケネスは3人を見上げていた。今では、見下ろすカッコウになる。
「ご活躍は耳にしておりますよぉ。《帝国の劫火》と言われて、帝国12魔術師の1人になったとか。おめでとうございます」
男のくせに妙に色気のあるしゃべりかたも、耳になつかしい。
「たいしたことじゃありませんよ。今日は学院祭に?」
「ええ。そのついでに、ケネスさんにも挨拶しておこうと思いましてね。いつかは、名のある魔術師になると思っておりましたよぉ」
「そちらは変わらず冒険者を?」
「いろんな村に回って、身の丈にあったクエストをこなしていますぅ。今では『孤独の放浪者』もなかなか、名のあるパーティになってきたんですよ。今では3人とも、Bランク冒険者ですよぉ」
マスクとガルとテイラの3人は、ミスリルに輝く銀色のプレートを見せつけた。
「いいですね。オレなんかまだFランクですよ」
と、ケネスは銅色のプレートを見せる。
「なに言ってるんですかぁ。ケネスさんはすでにAランク相当の冒険者ですよ。アダマンタイトのプレートを授かってもオカシクありません。いや。あるいは、七虹石のプレートであるSランクかもしれませんよぉ」
「はははっ。まさか」
と、ケネスは愛想笑いで応じておいた。
Sランク冒険者は、世界でも5人しかいないと言われている。そのうちの1人はSランク冒険者から、帝国12騎士の騎士長となったソーディラス・レオという男だ。《剣製》のスキルは、無限の剣をその場で創造してしまうスキルだと聞いたことがある。
「また機会があれば、一緒にクエストをお願いしますよぉ」
と、マスクは仮面をはずして、会釈をしてきた。
木彫りのマスクの内側には、火系魔法の練習でヤケドしたと言われている、ヤケド痕があった。
「こちらこそ」
「あ、あの……」
と、テイラが切羽詰ったように話しかけてきた。テイラは木の杖を持っており、白い髪にあわせて、白い長めの外套をまとっていた。肌も白いから、雪雲みたいなのだけれど、なぜか顔が真っ赤に紅潮していた。
「ん?」
「これ、作ったんです」
テイラがほとんど泣きそうな顔になって、小瓶を渡してきた。小瓶のなかには、青紫色の液体が入っていた。傷薬ではない。精神刺激薬でもない。
「なんですか、これ?」
「無効化のポーションを、さらに薄めたものです。スキルを失ったりはしませんけど、魔除け程度にはなるはずですから。私たちの思い出の品でもありますし」
テイラの気持ちなんだ、受け取ってやってくれ――とガルが言ってきた。
「では、お言葉に甘えて、いただきます」
無効化のポーションには、たしかにお世話になった。イキナリ帝都に王国軍が攻めてくるという異常事態だったのだ。あれほどの大事件は、そうそう起こり得ることはない。
ケネスがポーションを受け取ると、テイラは会釈をして、あわてて姿をくらました。その様子にガルとマスクは顔を見合わせて笑っていた。
いつも魔術実践学をやっている校庭に、今日は屋台が建ち並んでいる。学院祭ということで、あちこちの店が出張ってきている。
学生が催しているものもまじっている。揚げ物の香ばしさと、糖類の甘ったるい匂いの入り雑じった、独特な匂いが漂っていた。
ウソみたいな平和な光景に、ケネスはアッと驚かされる。でも、光が強いほど、闇は濃くなる。故郷を焼かれたり、人を殺したり、誰も知らないところで魔神とつるんだり、最近は命を狙われたり……そんな暗闇で忙しい人間には、別の世界の出来事に見えるのだった。
ケネスは校舎の壁にもたれかかって、小馬鹿にするような気持ちで、その騒ぎを見つめていた。
「くくっ」
と、薄ら笑いを浮かべて、煙草に火をつけた。
「あーっ。お久しぶりですねぇ」
と、声をかけられたので、そっちのほうを見ると、赤毛、緑毛、白毛の3人組がいた。ガルとマスクとテイラの3人だった。会うのはほとんど3年ぶりになる。3人ともマッタク変わらぬ風情だった。マスクが仮面をしているのも同じだし、テイラの短い白髪もそのままだ。
「お久しぶりです」
と、ケネスは校舎壁から背中を離して、自立した。握手のつもりで差し出したケネスの手を、真っ先につかんできたのはマスクだった。
この頃、仮面をつけた者たちにたいして警戒心を抱いているので、マスクのその面にもドキッとさせられるものがあったけれど、仮面の絵柄がぜんぜん違っている。マスクの仮面は、木彫りのものにたいして、刺客の仮面は白く塗り込められたものだ。
「ケネスさん。いやーっ。ずいぶんと背が伸びましたね。最初は、見てもわかりませんでしたよ」
「そうですかね」
言われてみれば、『孤独の放浪者』に出会った当時は、ケネスは3人を見上げていた。今では、見下ろすカッコウになる。
「ご活躍は耳にしておりますよぉ。《帝国の劫火》と言われて、帝国12魔術師の1人になったとか。おめでとうございます」
男のくせに妙に色気のあるしゃべりかたも、耳になつかしい。
「たいしたことじゃありませんよ。今日は学院祭に?」
「ええ。そのついでに、ケネスさんにも挨拶しておこうと思いましてね。いつかは、名のある魔術師になると思っておりましたよぉ」
「そちらは変わらず冒険者を?」
「いろんな村に回って、身の丈にあったクエストをこなしていますぅ。今では『孤独の放浪者』もなかなか、名のあるパーティになってきたんですよ。今では3人とも、Bランク冒険者ですよぉ」
マスクとガルとテイラの3人は、ミスリルに輝く銀色のプレートを見せつけた。
「いいですね。オレなんかまだFランクですよ」
と、ケネスは銅色のプレートを見せる。
「なに言ってるんですかぁ。ケネスさんはすでにAランク相当の冒険者ですよ。アダマンタイトのプレートを授かってもオカシクありません。いや。あるいは、七虹石のプレートであるSランクかもしれませんよぉ」
「はははっ。まさか」
と、ケネスは愛想笑いで応じておいた。
Sランク冒険者は、世界でも5人しかいないと言われている。そのうちの1人はSランク冒険者から、帝国12騎士の騎士長となったソーディラス・レオという男だ。《剣製》のスキルは、無限の剣をその場で創造してしまうスキルだと聞いたことがある。
「また機会があれば、一緒にクエストをお願いしますよぉ」
と、マスクは仮面をはずして、会釈をしてきた。
木彫りのマスクの内側には、火系魔法の練習でヤケドしたと言われている、ヤケド痕があった。
「こちらこそ」
「あ、あの……」
と、テイラが切羽詰ったように話しかけてきた。テイラは木の杖を持っており、白い髪にあわせて、白い長めの外套をまとっていた。肌も白いから、雪雲みたいなのだけれど、なぜか顔が真っ赤に紅潮していた。
「ん?」
「これ、作ったんです」
テイラがほとんど泣きそうな顔になって、小瓶を渡してきた。小瓶のなかには、青紫色の液体が入っていた。傷薬ではない。精神刺激薬でもない。
「なんですか、これ?」
「無効化のポーションを、さらに薄めたものです。スキルを失ったりはしませんけど、魔除け程度にはなるはずですから。私たちの思い出の品でもありますし」
テイラの気持ちなんだ、受け取ってやってくれ――とガルが言ってきた。
「では、お言葉に甘えて、いただきます」
無効化のポーションには、たしかにお世話になった。イキナリ帝都に王国軍が攻めてくるという異常事態だったのだ。あれほどの大事件は、そうそう起こり得ることはない。
ケネスがポーションを受け取ると、テイラは会釈をして、あわてて姿をくらました。その様子にガルとマスクは顔を見合わせて笑っていた。
コメント