《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第6-2話「学院祭 Ⅱ」
コンコン……
部屋のトビラがノックされた。ケネスはベッドから這い出て、訪問者を迎え入れることにした。このごろ、刺客の襲撃を警戒して、トビラを開けるのも慎重になっている。「どちらさまですか」。扉越しに尋ねると、「オレだ。コラッ。開けろッ」。なつかしい声がした。なつかしいと言っても、つい数ヶ月前に学院を卒業しただけだが。
「どうも」
と、トビラを開けると、そこにはクロノとサマルが立っていた。サマルは純白のローブをはおっていた。ふつうの魔術師は黒い外套を着るものだ。ケネスもこの学院の制服である黒いトンガリ帽子と黒い外套を着用している。サマルの白いローブは帝国魔術師のそれだ。
クロノは相変わらず、黒いフリルの付いたドレスを着ていた。2人は学院を卒業した後に、帝都で諜報部に配属されることになったと聞いている。職務内容はスパイのあぶり出しということだから、やってることは、生徒会の延長だ。
「よお。久しぶりだな。コラッ。元気にやってたかよ。コラッ」
「久しぶりって言っても、数ヶ月前まで一緒に生徒会活動してましたけどね」
サマルはじゃれ合うように、ケネスの肩を軽く小突いてきた。
「くくくっ」
と、ケネスはくぐもった声音で、ノドを鳴らして笑う。少し前までは、こんな笑い方はしなかった。こんなふうに笑うようになったのは、いつからだろうか――とケネスはふと思う。
「オレは先に外、行ってるぜ。屋台ももういくつか出てるし。なんつっても、ユリ姫ちゃんが歌ってるんだ」
「どうぞ」
サマルは欄干から跳び下りると、魔法樹に乗って姿を消した。クロノは黙ったまま、ジッとケネスのことを見つめていた。ヴィルザと同じぐらいの低身長に変わりはない。ケネスの腰よりすこし低い位置に頭がある。クロノは相変わらず、しゃべれないらしく、眠たげなジト目でケネスを見つめていた。何か話しかけて欲しそうに見えたので、声をかけてみることにした。
「ここ男子寮ですけど、入れたんですか?」
『大丈夫。卒業生だから』
と、相変わらずの筆談だ。ちゃんと会話用に羽根ペンと紙を用意していたようだ。クロノが言葉を交わせば、そこは#静謐__せいひつ__#な空間となる。クロノの持つ不思議な雰囲気に呑み込まれる。
「そういうもんですか」
『私とサマルは、帝国の諜報部に配属されることになった』
「知ってますよ。手紙。もらいましたから」
クロノはしゃべれないため《通話》もできない。ヤリトリする際には文通になる。ゴゴと言われる冒険者組合が飼っている鳥が、この寮にもときおり飛んできては、窓から手紙を投げ込んでくるのだ。だから、寝てるときとか、頭にペチンとよく紙がブツかる。……オレも一羽飼ってみようかな、と最近思っている。
『帝都に入っていてわかったけど、帝国は今、二分されようとしている』
「二分? 内乱?」
『第一皇子と第一皇女の派閥争い。次期皇位継承者に向けて、勢力が二分されていってる』
「第一皇子と第一皇女?」
と、ケネスはバカみたいに復唱した。
帝国は完全実力主義の国だ。それは魔力だけにとどまらない。軍の采配。政治の立ち回り。何をとっても結果が優先される。そこに男も女もありはしない。実際、ガルシア魔法長官は女性だし、バートリーも女性だ。一方、剣士と言われる者たちには、男が多い気がする。
『私とサマルも、どちら側につくのか、遠回しに迫られた。これから政治戦争がはげしくなりそうな気配がある』
「メンドウですねぇ」
やっぱり帝国軍人なんか、やめようかな、とチラリと思う。
『帝国12騎士や、帝国12魔術師と言われる人たちには、真っ先に声がかかっている。ケネスも卒業すると同時に、声をかけられると思う』
そう言えば、オレは帝国12魔術師の1人なんだよなぁ……と思い出した。あまり実感がない。
「ちなみに、生徒会長はどっち側についたんですか?」
クロノは紙をペロッとめくって、2枚目に文字をつづりはじめた。
『私は第一皇子側につくことにした。どちら側につくかは、自分の目で見て判断したほうが良いと思うけど、もしかするとこの学院祭で、声をかけられるかもしれないから、返答を考えておいたほうが良いと思う』
「返答って言われましても……」
第一皇子も第一皇女も、ケネスはマッタク知らないのだ。政治のことなんて興味がなかったので、いったいどんなプロパガンダを掲げているのかもわからない。
『保留する理由でも考えておいたら?』
「そうします。御忠告ありがとうございます」
クロノはこくりとうなずいた。
黒髪が揺れる。
「ところで、前から気にはなってたんですけど」
『?』
クロノは首をかしげて、洋紙いっぱいにクエスチョンマークを記した。
「しゃべれないのって、何か理由があるんですか?」
『生まれつき』
ということだ。
何か劇的なドラマが隠されているわけではないらしい。
「すみません。気になって」
『そちはどう? 順調にやってる?』
「ええ。オレは順調ですよ。生徒会長継がせてもらってますし、学年首席の座もいただきましたから」
単位の取得数や成績から、ロレンスにはケネスの後塵を拝させることになった。
部屋のトビラがノックされた。ケネスはベッドから這い出て、訪問者を迎え入れることにした。このごろ、刺客の襲撃を警戒して、トビラを開けるのも慎重になっている。「どちらさまですか」。扉越しに尋ねると、「オレだ。コラッ。開けろッ」。なつかしい声がした。なつかしいと言っても、つい数ヶ月前に学院を卒業しただけだが。
「どうも」
と、トビラを開けると、そこにはクロノとサマルが立っていた。サマルは純白のローブをはおっていた。ふつうの魔術師は黒い外套を着るものだ。ケネスもこの学院の制服である黒いトンガリ帽子と黒い外套を着用している。サマルの白いローブは帝国魔術師のそれだ。
クロノは相変わらず、黒いフリルの付いたドレスを着ていた。2人は学院を卒業した後に、帝都で諜報部に配属されることになったと聞いている。職務内容はスパイのあぶり出しということだから、やってることは、生徒会の延長だ。
「よお。久しぶりだな。コラッ。元気にやってたかよ。コラッ」
「久しぶりって言っても、数ヶ月前まで一緒に生徒会活動してましたけどね」
サマルはじゃれ合うように、ケネスの肩を軽く小突いてきた。
「くくくっ」
と、ケネスはくぐもった声音で、ノドを鳴らして笑う。少し前までは、こんな笑い方はしなかった。こんなふうに笑うようになったのは、いつからだろうか――とケネスはふと思う。
「オレは先に外、行ってるぜ。屋台ももういくつか出てるし。なんつっても、ユリ姫ちゃんが歌ってるんだ」
「どうぞ」
サマルは欄干から跳び下りると、魔法樹に乗って姿を消した。クロノは黙ったまま、ジッとケネスのことを見つめていた。ヴィルザと同じぐらいの低身長に変わりはない。ケネスの腰よりすこし低い位置に頭がある。クロノは相変わらず、しゃべれないらしく、眠たげなジト目でケネスを見つめていた。何か話しかけて欲しそうに見えたので、声をかけてみることにした。
「ここ男子寮ですけど、入れたんですか?」
『大丈夫。卒業生だから』
と、相変わらずの筆談だ。ちゃんと会話用に羽根ペンと紙を用意していたようだ。クロノが言葉を交わせば、そこは#静謐__せいひつ__#な空間となる。クロノの持つ不思議な雰囲気に呑み込まれる。
「そういうもんですか」
『私とサマルは、帝国の諜報部に配属されることになった』
「知ってますよ。手紙。もらいましたから」
クロノはしゃべれないため《通話》もできない。ヤリトリする際には文通になる。ゴゴと言われる冒険者組合が飼っている鳥が、この寮にもときおり飛んできては、窓から手紙を投げ込んでくるのだ。だから、寝てるときとか、頭にペチンとよく紙がブツかる。……オレも一羽飼ってみようかな、と最近思っている。
『帝都に入っていてわかったけど、帝国は今、二分されようとしている』
「二分? 内乱?」
『第一皇子と第一皇女の派閥争い。次期皇位継承者に向けて、勢力が二分されていってる』
「第一皇子と第一皇女?」
と、ケネスはバカみたいに復唱した。
帝国は完全実力主義の国だ。それは魔力だけにとどまらない。軍の采配。政治の立ち回り。何をとっても結果が優先される。そこに男も女もありはしない。実際、ガルシア魔法長官は女性だし、バートリーも女性だ。一方、剣士と言われる者たちには、男が多い気がする。
『私とサマルも、どちら側につくのか、遠回しに迫られた。これから政治戦争がはげしくなりそうな気配がある』
「メンドウですねぇ」
やっぱり帝国軍人なんか、やめようかな、とチラリと思う。
『帝国12騎士や、帝国12魔術師と言われる人たちには、真っ先に声がかかっている。ケネスも卒業すると同時に、声をかけられると思う』
そう言えば、オレは帝国12魔術師の1人なんだよなぁ……と思い出した。あまり実感がない。
「ちなみに、生徒会長はどっち側についたんですか?」
クロノは紙をペロッとめくって、2枚目に文字をつづりはじめた。
『私は第一皇子側につくことにした。どちら側につくかは、自分の目で見て判断したほうが良いと思うけど、もしかするとこの学院祭で、声をかけられるかもしれないから、返答を考えておいたほうが良いと思う』
「返答って言われましても……」
第一皇子も第一皇女も、ケネスはマッタク知らないのだ。政治のことなんて興味がなかったので、いったいどんなプロパガンダを掲げているのかもわからない。
『保留する理由でも考えておいたら?』
「そうします。御忠告ありがとうございます」
クロノはこくりとうなずいた。
黒髪が揺れる。
「ところで、前から気にはなってたんですけど」
『?』
クロノは首をかしげて、洋紙いっぱいにクエスチョンマークを記した。
「しゃべれないのって、何か理由があるんですか?」
『生まれつき』
ということだ。
何か劇的なドラマが隠されているわけではないらしい。
「すみません。気になって」
『そちはどう? 順調にやってる?』
「ええ。オレは順調ですよ。生徒会長継がせてもらってますし、学年首席の座もいただきましたから」
単位の取得数や成績から、ロレンスにはケネスの後塵を拝させることになった。
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