《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第5-25話「黒幕」

「さて、アースアースの《神の遺物アーティファクト》を壊して、戻ろうではないか」
 と、ヴィルザが血肉の山を見て、法悦すら浮かばせる表情で言った。



 やっぱりヴィルザは、こういうのが好きなのだろう。ケネスはヘキエキする思いで、砕け散った石榴の山のような肉片を蹴散らして、アースアースの《神の遺物アーティファクト》に近づいた。



 黒い、鉱石だ。それを大事そうに抱えているのは、グラトンだった。仮面が外れて、その顔をあらわにしている。



「グラトン先生……。なぜ、あなたがオレの命を狙ってきたんですか? この仮面の者はグラトン先生の指示で動いていたんですか?」
 尋ねてももう返事はない。



 上半身と下半身が切断されてしまっている。下半身はどこへ行ったのかわからない。肉塊の山にまぎれているのかもしれない。魔術実践学の講師だ。殺してしまったことに、襲われたとはいえ罪悪感があった。穏やかだったグラトンの死相が苦悶に歪んでいることもまた、ケネスに厭な感情をあたえた。



「こやつが首謀者か。講師じゃな」
 とヴィルザはグラトンの死体を蹴るマネをした。もっともその足は、死体をすり抜けていたけれど。



「なんで、オレのこと襲って来たんだろ」



「さあの。私に訊かれても、さすがにわからん。しかし、これは巧妙に仕組まれたことであろうな」



「なんで、わかるんだ?」



「この講師が、この私の城を、期末テストの舞台に選んだのであろう。ここなら、生徒が死んでもそうオカシクはないからな。以前から、ここでケネスを殺そうと決めておったのやもしれん。アンデッドが少ないのも、こやつらが片付けていたからであろうな」



「かもしれないな」



 1年のときから世話になってきた講師に、命を狙われていたのかと思うと、胸がチクリと痛んだ。しかし、ヴィルザハード城を、期末テストの舞台に選ぶなんて、妙だとは思っていた。


  
「しかし、引っ掛かる」
「何が?」



「このグラトンという女講師。すこし前までは、ケネスにたいしてマッタク殺気を持っていなかったはずじゃ」



「オレもそれは思う。個人的に世話になってたぐらいだ」



 講義だけでなく、個人的に魔術を教わったりもしたのだ。



「上手く隠していたというよりも、殺そうとなんかしていなかったように感じる。今も、ケネスを相手にすることに、躊躇いがあったように感じたが」



「でも、ハンプティは殺されてる」



「おそらく、顔を見られたのであろう。それで仕方なく殺した。仮面をしているぐらいだから、顔を隠しておきたかったのであろうな」



「こうしてオレを殺そうとしてきたのは事実だろ。まさか、これもテストの一環だったなんて言うんじゃないだろうな」



 冷や汗が背中をつたう。
 もしテストなら、殺すのは過剰防衛だ。



「そりゃなかろう。今の土人形ゴーレムのコブシなんて当たれば、肉片バラバラじゃぞ。それもうひとつ妙なのが」



「まだあるのか」
「これじゃ」



 グラトンが大切に抱えている、アースアースの《神の遺物アーティファクト》をヴィルザは指差した。



 黒い鉱石は大量の血を浴びているはずだが、すべて弾いていた。血の水滴が、流れ落ちている。



「それがどうかしたのか?」



「こやつ、どっから、こんなもの持って来おった? まさか、もとから持っていたわけではあるまい」



 たしかに《神の遺物アーティファクト》は、そう簡単に手に入るシロモノではない。『マディシャンの杖』は、学院が封印していたし、『カヌスのウロコ』はソルトが大切に守っていた。後から聞いた話では、カヌスのウロコはドラグニル一族が代々守り続けてきたのだということだ。



「何が言いたいんだ?」



「黒幕がおるな」
 ヴィルザはツルンとしたアゴを指でさすりながらそう言った。



「グラトン先生が黒幕なんじゃないのか?」



「この講師を動かした黒幕がおるんじゃろうな。その黒幕が、アースアースの《神の遺物アーティファクト》をグラトンに渡したと考えるべきであろう。ケネスを殺すために」



「その黒幕とやらが、オレを殺そうと目論んでるってことか」



「なにか覚えはないのか?」
 と、ヴィルザがケネスの顔を覗きこんでくる。



「ンなこと言われてもなぁ……」



 ヴィルザと出会うまえは、マッタク無力な少年だった。恨みを買うようなことをした覚えもない。問題はヴィルザと出会ってからだが、考えられるとすれば――。



「王国軍かな。オレはゲヘナ・デリュリアスとソルト・ドラグニルを殺してるわけだし」



 ケリュアル王国の者が、《帝国の劫火》を目のカタキにしていても不思議ではない。



「いや、違う」
 と、ヴィルザはかぶりを振った。
 真っ赤な髪が左右にぶんぶん揺れる。



「どうして否定できる?」



「王国軍の者が、グラトンを動かせると思うか? グラトンが王国軍のスパイなら別じゃが、こやつは帝国の人間だろう。自分の可愛い生徒を、グラトンは仕方なく殺そうとしたのだ。それだけグラトンの心を動かせる者――ということじゃ」



「じゃあ、わかんねェよ」
 投げやりな調子で言った。
 頭が痛くなってきた。こんな血肉の粥のなかにいるからか、胸やけまでしてくる。先生に命を狙われていたというショックもまた、ケネスの気持ちを圧してくる。



「コゾウは生徒会に入ったんじゃから、いろいろと手に入る情報もあろう。学院に戻って調べてみるが良い」



「そうだな。とにかく――」



 このアースアースの《神の遺物アーティファクト》を破壊して、さっさと学院に戻ろうと思った。一刻も早くこの場から離れたい。

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