《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第5-22話「ヴィルザハード城 Ⅶ」
「おい。気を付けろよ。ここが私の言っていたモンスターハウスじゃ。飼っておったモンスターどもが自然繁殖したようじゃな」
ヴィルザがそう忠告してくれるが、返答する余裕はない。モンスターどもに気づかれなければ無用な戦闘も避けられる。そう思って、ケネスは足音を殺し、息をひそめて、音をたてずに歩いていた。
正面。
部屋の中央に鎮座ましましておられる宝箱までは、あと3メートルといったところだ。周囲のモンスターたちは部屋の隅にかたまっており、こちらに気づいている気配はない。
(大丈夫そうだな)
と、気をゆるめたときだった。
ガシャコンッ
背後から大きな音が鳴り響いた。何事かと思って振り向く。部屋の入口である通路に、鉄の柵が落ちてきていた。ケネスの出口を完全にふさいでしまっている。あわててトビラに駆け寄る。鉄格子のむこうに、ニヤけ面のサマルがいた。
「ザ、ザマァ見やがれ。《帝国の劫火》め。ユリ姫ちゃんとイチャイチャしていた罰だ! ここで死んでしまえよ。コラッ」
「ちッ」
と、思わず舌打ちを漏らしてしまった。
妙に優しいと思ったら、この仕掛けに誘い込むためだったらしい。くだらないことを考えたものだ。ガシャコンッ、と鳴り響いたトビラの音で、しかも、モンスターたちは一斉にケネスの存在に気づいたようだ。
「あー。見事にモンスターハウスに捕えられたな」
と、ヴィルザがさほど心配するふうもなく、そう言った。
「すぐに片付けるさ」
シュネイの村に帰郷したさいに、ケネスはジャイアント・ゴブリンを屠ったことがある。それも今となっては、過去のことだ。今ではもっと強くなっている。まだ申請していないから、Fランクだ。が、ケネスはすでにBランク。あるいはそれ以上の実力を有している自信があった。
襲いかかってくるモンスターの群れに対して、ケネスは魔法陣を展開した。青白い魔法陣が浮かび上がる。
「火系A級基礎魔法《地獄の劫火》」
黒い炎が辺り一帯を火の海にした。インクで塗りつぶされていくように、モンスターたちが焼き尽くされてゆく。その炎のなかをケネスは悠然と歩き、宝箱の中から、合格と書かれた羊皮紙を取り出した。
鉄格子の前まで戻ると、サマルは腰を抜かしていた。
「つ……強ぇ……」
「これぐらい、普通ですよ。いいから、この鉄の柵、開けてくれないですかね。そっちからしか開けられないんでしょう」
「わ、わ、わかった。わかったから、そんなに怒るなよ。な?」
サマルはそう言って壁から生えているレバーに手をかけた。が、そのとき巨大な振動で地面が揺れた。建物がグラグラと揺れて、天井の石と石の継ぎ目からは、砂粒がパラパラと落ちてきた。揺れて、コけそうになったケネスは、壁に手をついた。
いったい何事かと抱いた疑問は、すぐに氷解することになった。サマルの向こうに、巨大な骨のドラゴンがいた。全身が骨でできている。顔だけでも、ケネスやサマルほどの大きさがあった。細い石造りの通路が、その骨のドラゴンでイッパイイッパイになっていた。
「ドラゴンゾンビか……」
ウワサに聞いたことだけはある。ドラゴンがアンデッドになったものだ。かなり高位のモンスターで、冒険者ギルドのクエストなら、A級相当のモンスターということになる。
「ひぃぃぃ。助けてくれぇぇぇッ」
と、サマルは頭をかかえてうずくまってしまった。
「おいッ。この柵を開けろって言っただろ!」
ケネスはそう怒鳴った。
ドラゴンゾンビがその骨の口を大きく開けて、サマルに噛みついた。サマルの着ていた外套がベリベリと破れていた。
「おい、この柵だ!」
ケネスの声にようやく気付いたようで、サマルは息も絶え絶えの様子で、レバーをおろした。ガシャコンッ。派手な音をたてて鉄のトビラが開いた。サマルはユリを残して部屋のなかに跳びこんでいた。ドラゴンゾンビは、目の前のユリにむかって口を開いているところだった。ユリは依然として気絶しており、マッタクの無抵抗だった。
(……ッ)
そのユリの姿が、なぜかロールと重なって見えた。風体容貌はマッタク似ていないのに、ロールが死んだときのことを思い出してしまったのだ。もうこれ以上、目の前で知人が死ぬのは厭だった。そう思うと恐怖は完全に洗い落とされていった。ケネスはドラゴンゾンビとユリのあいだに割り込んだ。
魔法陣を展開しようとした。
が――。
それより先に異変を起こしたのは、ドラゴンゾンビのほうだった。今まさに、大口を開けて、獰猛そうなキバをむき出しにしていたのに、顔を引っ込めたのだ。ケネスの目の前で、カチン、歯の噛み合わさる音が響いた。
ドラゴンゾンビは、何かに怯えるように後退していき、やがて姿を消したのだった。
ヴィルザがそう忠告してくれるが、返答する余裕はない。モンスターどもに気づかれなければ無用な戦闘も避けられる。そう思って、ケネスは足音を殺し、息をひそめて、音をたてずに歩いていた。
正面。
部屋の中央に鎮座ましましておられる宝箱までは、あと3メートルといったところだ。周囲のモンスターたちは部屋の隅にかたまっており、こちらに気づいている気配はない。
(大丈夫そうだな)
と、気をゆるめたときだった。
ガシャコンッ
背後から大きな音が鳴り響いた。何事かと思って振り向く。部屋の入口である通路に、鉄の柵が落ちてきていた。ケネスの出口を完全にふさいでしまっている。あわててトビラに駆け寄る。鉄格子のむこうに、ニヤけ面のサマルがいた。
「ザ、ザマァ見やがれ。《帝国の劫火》め。ユリ姫ちゃんとイチャイチャしていた罰だ! ここで死んでしまえよ。コラッ」
「ちッ」
と、思わず舌打ちを漏らしてしまった。
妙に優しいと思ったら、この仕掛けに誘い込むためだったらしい。くだらないことを考えたものだ。ガシャコンッ、と鳴り響いたトビラの音で、しかも、モンスターたちは一斉にケネスの存在に気づいたようだ。
「あー。見事にモンスターハウスに捕えられたな」
と、ヴィルザがさほど心配するふうもなく、そう言った。
「すぐに片付けるさ」
シュネイの村に帰郷したさいに、ケネスはジャイアント・ゴブリンを屠ったことがある。それも今となっては、過去のことだ。今ではもっと強くなっている。まだ申請していないから、Fランクだ。が、ケネスはすでにBランク。あるいはそれ以上の実力を有している自信があった。
襲いかかってくるモンスターの群れに対して、ケネスは魔法陣を展開した。青白い魔法陣が浮かび上がる。
「火系A級基礎魔法《地獄の劫火》」
黒い炎が辺り一帯を火の海にした。インクで塗りつぶされていくように、モンスターたちが焼き尽くされてゆく。その炎のなかをケネスは悠然と歩き、宝箱の中から、合格と書かれた羊皮紙を取り出した。
鉄格子の前まで戻ると、サマルは腰を抜かしていた。
「つ……強ぇ……」
「これぐらい、普通ですよ。いいから、この鉄の柵、開けてくれないですかね。そっちからしか開けられないんでしょう」
「わ、わ、わかった。わかったから、そんなに怒るなよ。な?」
サマルはそう言って壁から生えているレバーに手をかけた。が、そのとき巨大な振動で地面が揺れた。建物がグラグラと揺れて、天井の石と石の継ぎ目からは、砂粒がパラパラと落ちてきた。揺れて、コけそうになったケネスは、壁に手をついた。
いったい何事かと抱いた疑問は、すぐに氷解することになった。サマルの向こうに、巨大な骨のドラゴンがいた。全身が骨でできている。顔だけでも、ケネスやサマルほどの大きさがあった。細い石造りの通路が、その骨のドラゴンでイッパイイッパイになっていた。
「ドラゴンゾンビか……」
ウワサに聞いたことだけはある。ドラゴンがアンデッドになったものだ。かなり高位のモンスターで、冒険者ギルドのクエストなら、A級相当のモンスターということになる。
「ひぃぃぃ。助けてくれぇぇぇッ」
と、サマルは頭をかかえてうずくまってしまった。
「おいッ。この柵を開けろって言っただろ!」
ケネスはそう怒鳴った。
ドラゴンゾンビがその骨の口を大きく開けて、サマルに噛みついた。サマルの着ていた外套がベリベリと破れていた。
「おい、この柵だ!」
ケネスの声にようやく気付いたようで、サマルは息も絶え絶えの様子で、レバーをおろした。ガシャコンッ。派手な音をたてて鉄のトビラが開いた。サマルはユリを残して部屋のなかに跳びこんでいた。ドラゴンゾンビは、目の前のユリにむかって口を開いているところだった。ユリは依然として気絶しており、マッタクの無抵抗だった。
(……ッ)
そのユリの姿が、なぜかロールと重なって見えた。風体容貌はマッタク似ていないのに、ロールが死んだときのことを思い出してしまったのだ。もうこれ以上、目の前で知人が死ぬのは厭だった。そう思うと恐怖は完全に洗い落とされていった。ケネスはドラゴンゾンビとユリのあいだに割り込んだ。
魔法陣を展開しようとした。
が――。
それより先に異変を起こしたのは、ドラゴンゾンビのほうだった。今まさに、大口を開けて、獰猛そうなキバをむき出しにしていたのに、顔を引っ込めたのだ。ケネスの目の前で、カチン、歯の噛み合わさる音が響いた。
ドラゴンゾンビは、何かに怯えるように後退していき、やがて姿を消したのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
49989
-
-
24251
-
-
2
-
-
1359
-
-
3
-
-
22803
-
-
35
-
-
17
-
-
11128
コメント