《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第5-22話「ヴィルザハード城 Ⅶ」

「おい。気を付けろよ。ここが私の言っていたモンスターハウスじゃ。飼っておったモンスターどもが自然繁殖したようじゃな」



 ヴィルザがそう忠告してくれるが、返答する余裕はない。モンスターどもに気づかれなければ無用な戦闘も避けられる。そう思って、ケネスは足音を殺し、息をひそめて、音をたてずに歩いていた。



 正面。
 部屋の中央に鎮座ましましておられる宝箱までは、あと3メートルといったところだ。周囲のモンスターたちは部屋の隅にかたまっており、こちらに気づいている気配はない。



(大丈夫そうだな)
 と、気をゆるめたときだった。



 ガシャコンッ



 背後から大きな音が鳴り響いた。何事かと思って振り向く。部屋の入口である通路に、鉄の柵が落ちてきていた。ケネスの出口を完全にふさいでしまっている。あわててトビラに駆け寄る。鉄格子のむこうに、ニヤけ面のサマルがいた。



「ザ、ザマァ見やがれ。《帝国の劫火》め。ユリ姫ちゃんとイチャイチャしていた罰だ! ここで死んでしまえよ。コラッ」



「ちッ」
 と、思わず舌打ちを漏らしてしまった。



 妙に優しいと思ったら、この仕掛けに誘い込むためだったらしい。くだらないことを考えたものだ。ガシャコンッ、と鳴り響いたトビラの音で、しかも、モンスターたちは一斉にケネスの存在に気づいたようだ。



「あー。見事にモンスターハウスに捕えられたな」
 と、ヴィルザがさほど心配するふうもなく、そう言った。



「すぐに片付けるさ」



 シュネイの村に帰郷したさいに、ケネスはジャイアント・ゴブリンを屠ったことがある。それも今となっては、過去のことだ。今ではもっと強くなっている。まだ申請していないから、Fランクだ。が、ケネスはすでにBランク。あるいはそれ以上の実力を有している自信があった。



 襲いかかってくるモンスターの群れに対して、ケネスは魔法陣を展開した。青白い魔法陣が浮かび上がる。



「火系A級基礎魔法《地獄の劫火ヘル・フレイム》」



 黒い炎が辺り一帯を火の海にした。インクで塗りつぶされていくように、モンスターたちが焼き尽くされてゆく。その炎のなかをケネスは悠然と歩き、宝箱の中から、合格と書かれた羊皮紙を取り出した。



 鉄格子の前まで戻ると、サマルは腰を抜かしていた。



「つ……強ぇ……」



「これぐらい、普通ですよ。いいから、この鉄の柵、開けてくれないですかね。そっちからしか開けられないんでしょう」



「わ、わ、わかった。わかったから、そんなに怒るなよ。な?」



 サマルはそう言って壁から生えているレバーに手をかけた。が、そのとき巨大な振動で地面が揺れた。建物がグラグラと揺れて、天井の石と石の継ぎ目からは、砂粒がパラパラと落ちてきた。揺れて、コけそうになったケネスは、壁に手をついた。



 いったい何事かと抱いた疑問は、すぐに氷解することになった。サマルの向こうに、巨大な骨のドラゴンがいた。全身が骨でできている。顔だけでも、ケネスやサマルほどの大きさがあった。細い石造りの通路が、その骨のドラゴンでイッパイイッパイになっていた。



「ドラゴンゾンビか……」



 ウワサに聞いたことだけはある。ドラゴンがアンデッドになったものだ。かなり高位のモンスターで、冒険者ギルドのクエストなら、A級相当のモンスターということになる。



「ひぃぃぃ。助けてくれぇぇぇッ」
 と、サマルは頭をかかえてうずくまってしまった。



「おいッ。この柵を開けろって言っただろ!」
 ケネスはそう怒鳴った。



 ドラゴンゾンビがその骨の口を大きく開けて、サマルに噛みついた。サマルの着ていた外套がベリベリと破れていた。



「おい、この柵だ!」



 ケネスの声にようやく気付いたようで、サマルは息も絶え絶えの様子で、レバーをおろした。ガシャコンッ。派手な音をたてて鉄のトビラが開いた。サマルはユリを残して部屋のなかに跳びこんでいた。ドラゴンゾンビは、目の前のユリにむかって口を開いているところだった。ユリは依然として気絶しており、マッタクの無抵抗だった。



(……ッ)



 そのユリの姿が、なぜかロールと重なって見えた。風体容貌はマッタク似ていないのに、ロールが死んだときのことを思い出してしまったのだ。もうこれ以上、目の前で知人が死ぬのは厭だった。そう思うと恐怖は完全に洗い落とされていった。ケネスはドラゴンゾンビとユリのあいだに割り込んだ。



 魔法陣を展開しようとした。
 が――。



 それより先に異変を起こしたのは、ドラゴンゾンビのほうだった。今まさに、大口を開けて、獰猛そうなキバをむき出しにしていたのに、顔を引っ込めたのだ。ケネスの目の前で、カチン、歯の噛み合わさる音が響いた。



 ドラゴンゾンビは、何かに怯えるように後退していき、やがて姿を消したのだった。

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