《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第5-2話「ユリテリア・トネト」
「あ、あの、ケネス先輩ッ」
「はい?」
魔術実践学のために、校庭に出ようとしていたところを、とある少女に呼び止められた。銀髪をツインテールにした少女だった。青みがかった瞳の目元には、色っぽいホクロがあった。
「はじめまして! お会いできて、光栄ッ。ふげェッ」
「だ、大丈夫か?」
走り寄ってきたかと思うと、顔面から盛大に転んでいた。あわてて助け起こした。
「大丈夫です! 慣れてますからッ。これぐらいぜんぜんヘッチャラなのです!」
やたらとハキハキとしゃべる女の子だ。元気が良いのは悪いことではないけれど、気圧されるものがある。耳が痛い。語尾には常に「!」がついていそうな、しゃべり方をする。たしかに転んだケガはなんともなさそうだ。
「そりゃ良かった」
ケネスが差し出した手に、少女はガシッとつかまってきた。
「はわわわわッ。ケネス先輩の手に触れられるなんてッ。トテモ光栄なのですよッ」
「いや、そんな、たいしたもんじゃ……」
「私ッ。もともと帝都で吟遊詩人をやっていたのですが、ケネス先輩に憧れて、こうして追いかけてきたのですッ!」
「は?」
「ケネス先輩は、もともと帝都で冒険者をやっておられたでしょう! 私、そのころから、ケネス先輩を見て知っていたのですよ!」
「へ、へぇ。そりゃ、良かった」
当時、帝都で冒険者をやっていたころは、Fランク相当のクエストを淡々とこなしていただけだ。薬草集めだとか、薬剤店のおつかいだとか、なかには子守りまであった。そんな当時の自分を見ていた冒険者がいたなんて、驚きだ。
「帝都から離れて、こちらの学院に通っていると聞いて、追いかけてきたのですよ。その節は御世話になりました!」
「その節って、どの節だ?」
こんな激しい娘の世話をした覚えなんてない。あったら、覚えているはずだ。
「ほら、あの時――帝都が王国軍に襲われたとき、ケネス先輩が作ってくださった薬で、帝都は救われたじゃないですか!」
「あ……あぁ……」
そう言えば、そんなこともあった。ゲヘナ・デリュリアスが攻めてきたときのことを言っているのだろう。そう言えば、あのとき、ケネスはヴィルザを見えなくなるようにしようと思って、無効化のポーションをつくったのだ。結果的に、あのポーションが、帝都を救うカギとなった。
「あのとき、私もポーションをいただいたのです。ありがとうなのですよ!」
「うん。まあ、あれはオレだけの、おかげで助かったってわけでもないし。それより、離してもらえるかな?」
ケネスが差し出した手を、少女はつかんだままだった。
「あ! これは失礼しましたッ。私のことはご存知でしょうか?」
「いや。ゴメン知らない」
「そうなのですか! ユリテリア・トネトと申します。ユリと気安く呼んでくださいなのですよ」
「どうも」
元気に気圧されて、ケネスがしゃべる間もない。
「今は《帝国の劫火》なんて呼ばれて、スッカリ人気者ですねッ。単身であの《血の伯爵》と呼ばれたヘッケラン・バートリーさんを救出してきたのですよね? さすがなのです。ケネス先輩!」
「はあ」
と、曖昧に応じた。
どう返せば良いのか、わからない。
「あ、そうだ。サインくださいなのですよ。サイン」
「サイン?」
「だって、ケネス先輩ってばチョー人気者じゃないですか。帝国12魔術師の1人に加えられるかもしれない――なんてウワサも聞いたのですよ。いずれは、そうなるかもしれないですから」
ね?
と、詰め寄ってくる。
「そう言われても、サインなんて書いたことないし」
これじゃあ、ホントウに有名人みたいだ。
「えー。なんでも良いですから、書いてくださいなのですよー」
「そう言われても……」
羽根ペンもインクも持ち合わせていない。
「そしたら、私のサインあげるのですよー」
「は?」
「どうぞー」
ユリは羽根ペンを取り出すと、ケネスのバッグにサインを書きこんできた。それが、いかにも書きなれている様子だったので、つい見惚れたのだが、勝手に書かれても困る。
「あ、ちょっ」
「はい。どうぞ。遠慮しなくて良いのです」
「は、はぁ」
ミノタウロスの革でつくられた学生カバンだ。3年間大事に使おうと決めていたので、勝手にサインを書かれたことが、少しショックだった。この少女をどう振り払おうかと考えていたら、ちょうどそのとき、チャイムが鳴った。
「あッ。私、次の講義があるので、失礼するのですよ!」
そう言い残すとユリは、廊下を忙しなく走り去って行った。長い白銀のツインテールが、その溌剌さを証明するかのように、左右にぶんぶんと揺れていた。そのさいに、またしても派手に転んでいた。照れ臭そうに振り向くと、大きく手を振って姿を消した。
「また、派手な娘が現れたなぁ」
と、いつもは嫉妬に燃えているヴィルザも、呆れたように言っていた。
「はい?」
魔術実践学のために、校庭に出ようとしていたところを、とある少女に呼び止められた。銀髪をツインテールにした少女だった。青みがかった瞳の目元には、色っぽいホクロがあった。
「はじめまして! お会いできて、光栄ッ。ふげェッ」
「だ、大丈夫か?」
走り寄ってきたかと思うと、顔面から盛大に転んでいた。あわてて助け起こした。
「大丈夫です! 慣れてますからッ。これぐらいぜんぜんヘッチャラなのです!」
やたらとハキハキとしゃべる女の子だ。元気が良いのは悪いことではないけれど、気圧されるものがある。耳が痛い。語尾には常に「!」がついていそうな、しゃべり方をする。たしかに転んだケガはなんともなさそうだ。
「そりゃ良かった」
ケネスが差し出した手に、少女はガシッとつかまってきた。
「はわわわわッ。ケネス先輩の手に触れられるなんてッ。トテモ光栄なのですよッ」
「いや、そんな、たいしたもんじゃ……」
「私ッ。もともと帝都で吟遊詩人をやっていたのですが、ケネス先輩に憧れて、こうして追いかけてきたのですッ!」
「は?」
「ケネス先輩は、もともと帝都で冒険者をやっておられたでしょう! 私、そのころから、ケネス先輩を見て知っていたのですよ!」
「へ、へぇ。そりゃ、良かった」
当時、帝都で冒険者をやっていたころは、Fランク相当のクエストを淡々とこなしていただけだ。薬草集めだとか、薬剤店のおつかいだとか、なかには子守りまであった。そんな当時の自分を見ていた冒険者がいたなんて、驚きだ。
「帝都から離れて、こちらの学院に通っていると聞いて、追いかけてきたのですよ。その節は御世話になりました!」
「その節って、どの節だ?」
こんな激しい娘の世話をした覚えなんてない。あったら、覚えているはずだ。
「ほら、あの時――帝都が王国軍に襲われたとき、ケネス先輩が作ってくださった薬で、帝都は救われたじゃないですか!」
「あ……あぁ……」
そう言えば、そんなこともあった。ゲヘナ・デリュリアスが攻めてきたときのことを言っているのだろう。そう言えば、あのとき、ケネスはヴィルザを見えなくなるようにしようと思って、無効化のポーションをつくったのだ。結果的に、あのポーションが、帝都を救うカギとなった。
「あのとき、私もポーションをいただいたのです。ありがとうなのですよ!」
「うん。まあ、あれはオレだけの、おかげで助かったってわけでもないし。それより、離してもらえるかな?」
ケネスが差し出した手を、少女はつかんだままだった。
「あ! これは失礼しましたッ。私のことはご存知でしょうか?」
「いや。ゴメン知らない」
「そうなのですか! ユリテリア・トネトと申します。ユリと気安く呼んでくださいなのですよ」
「どうも」
元気に気圧されて、ケネスがしゃべる間もない。
「今は《帝国の劫火》なんて呼ばれて、スッカリ人気者ですねッ。単身であの《血の伯爵》と呼ばれたヘッケラン・バートリーさんを救出してきたのですよね? さすがなのです。ケネス先輩!」
「はあ」
と、曖昧に応じた。
どう返せば良いのか、わからない。
「あ、そうだ。サインくださいなのですよ。サイン」
「サイン?」
「だって、ケネス先輩ってばチョー人気者じゃないですか。帝国12魔術師の1人に加えられるかもしれない――なんてウワサも聞いたのですよ。いずれは、そうなるかもしれないですから」
ね?
と、詰め寄ってくる。
「そう言われても、サインなんて書いたことないし」
これじゃあ、ホントウに有名人みたいだ。
「えー。なんでも良いですから、書いてくださいなのですよー」
「そう言われても……」
羽根ペンもインクも持ち合わせていない。
「そしたら、私のサインあげるのですよー」
「は?」
「どうぞー」
ユリは羽根ペンを取り出すと、ケネスのバッグにサインを書きこんできた。それが、いかにも書きなれている様子だったので、つい見惚れたのだが、勝手に書かれても困る。
「あ、ちょっ」
「はい。どうぞ。遠慮しなくて良いのです」
「は、はぁ」
ミノタウロスの革でつくられた学生カバンだ。3年間大事に使おうと決めていたので、勝手にサインを書かれたことが、少しショックだった。この少女をどう振り払おうかと考えていたら、ちょうどそのとき、チャイムが鳴った。
「あッ。私、次の講義があるので、失礼するのですよ!」
そう言い残すとユリは、廊下を忙しなく走り去って行った。長い白銀のツインテールが、その溌剌さを証明するかのように、左右にぶんぶんと揺れていた。そのさいに、またしても派手に転んでいた。照れ臭そうに振り向くと、大きく手を振って姿を消した。
「また、派手な娘が現れたなぁ」
と、いつもは嫉妬に燃えているヴィルザも、呆れたように言っていた。
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