《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第4-12話「真夜中の密談 Ⅰ」
その夜。
6つ浮かぶ月下にて――。
ケネスはバルコニーで、煙草を吸いながら、これからのことを考えていた。あんまりノンビリしている時間はないのだ。こうしている間にも、バートリーは何かしらの責めを受けていることだろう。
しかし。
ここにきて、すこしは冷静になっている。
このまま領主館に突っ込んでも、捕縛されるだけだ。多少は強くなったとはいえ、一騎当千というわけにはいかない。そんなことが出来るのはヴィルザだけだ。それを思えば、絶交して切り離してしまったのは惜しいとは思うのだが、いやいや、あいつはオレのカラダを奪い取ろうとしたのだと、思い直した。ヴィルザのことはさておいても、領主館に押し入り、バートリーともう1人捕えられた女性を助け出す算段が思いつかない。
(あと一歩なんだが……)
と、煙草のケムリを吸いこむ。
そのとき――。
バリンッ
と、隣室のほうから、何か物の割れる音がした。ミファに何かあったんじゃないかと、ケネスはすぐに駆けつけることにした。
「おい、なんかあったか?」
と、トビラを叩くが、応答がない。
「入るぞ」
部屋の中に入る。ケネスにあてがわれている部屋と、さして変わらない部屋だった。天蓋つきのベッドがあり。薄いカーテンがかかっているが、その奥にうずくまっている影があった。
「おい、なんかあったか?」
と、ケネスはカーテンを開けた。ミファはベッドでヒザを抱えてうずくまっていた。小刻みに痙攣している。その手には注射器が握られていた。暗闇のなかで青白く発光するそれが、魔力覚醒剤だとすぐにわかった。
「あ、バカっ」
と、あわててその薬を奪い取った。
「か、返して……」
と、腕を伸ばしてくる。ケネスはベッドに押し倒されるカッコウになった。やわらかい女体の感触に押しつぶされたが、情欲をおぼえている余裕はなかった。
「薬なんかやるなって言っただろ」
「いいのよ。あと6日。このカラダが持ってくれれば」
「そう言えば、護衛も1週間契約だったな。6日後に何かあるのか?」
「水……」
「ちょっと待ってろ」
と、ケネスは圧し掛かっているミファを押しのけた。
魔法で水を出せるが、ノドの渇きを潤すものにはならない。台所に呪術でつくられた冷蔵庫があったので、そこを漁ってみた。水があった。それをミファの部屋に持ち帰った。ミファはコップに入った水をいっきに飲み干した。あんまりにもあわてて飲むものだから、頬を水がつたいこぼれていた。窓からさしいる月光が、それを艶然と照らし上げていた。
「ありがとう」
「で、6日後に何かあるのか?」
と、さっきと同じ質問をブツけた。
ケネスの取りあげた薬に、ミファの視線はいまだ注がれていたので、奪われないように注意を払っていた。
「6日後。この都市で大規模な反乱が起きるのよ」
「どうして、そんなことがわかる?」
「私がその準備を進めてるもの。薬を売ってるのは、そのための資金集め。このことは秘密にしておこうと思ってたけれど、ケネスは信用できるから、教えてあげる」
誰もいるはずがないのだが、警戒してケネスは室内を見渡した。いちおう声もひそめておく。
「どうして反乱なんて? 公爵令嬢なんだろ。父親はケリュアル王国のオエライサンなんだろ」
「だからよ」
「どういうことだ」
「今日のお昼にも言ったでしょ。私は魔法を使うことのできない出来そこない。だから、こんな王都から離れた場所に追いやられてるのよ。父には一泡吹かせたいのよ」
「しかし、だいそれたことをする」
薬を売ってるのも凄まじいけれど、まさか反乱の首謀者でもあるとは思わなかった。この骨みたいにぎゅんぎゅんに痩せ細った少女は、心の内にドス暗い狂気をひそませているらしい。
「それだけじゃないわ」
「まだ、何かあるのか」
「あのソルト・ドラグニルって男。私の母と不倫関係にあるのよ。それも気にくわない。ソルトを殺すのは、私の目的でもある」
「家庭環境ドロドロだな」
驚きを通り越して、もはや呆れてしまう。
貴族というのは、表向きは煌びやかに振る舞っているが、内側にはいろいろと暗いものを抱えているようだ。
そう言えば以前にも、ミファの母は、男と寝ていると言っていた記憶がある。
「ソルトを殺すのは、共通の目的でしょ」
「ああ」
「とにかく、6日後の反乱で、私はこの都市をメチャクチャにしてやるの。父に一泡吹かせてやれるし、ソルト・ドラグニルと不倫してる母にも、痛い目を見せてやれるわ。私をバカにしてるこの都市の民だって」
「その後はどうするんだ」
「え?」
と、ミファは意表を突かれたような顔をした。
「ここはケリュアル王国領だろ。ソルト・ドラグニルを殺せば、一時的にこの領土はミファのものになるかもしれないが、すぐに王国軍が軍隊を派遣してくるだろうさ」
それぐらい、考えなくてもわかることだ。
「そのときは、大人しく捕まるわ」
「たぶん、処刑されるぞ」
王国法に詳しくはないけれど、反乱は重罪だろう。
「いいじゃない。父の目の前で処刑されてやるの。私をこんなにしたのは、あんたの責任よ――って、訴えながら、処刑されてやるわ」
要するに、父親に構ってもらいたいのだろう。悪いことをして、親の目を引こうとする。まるで子供だ。その心理状態は子供だが、やっていることは立派な悪党だ。
6つ浮かぶ月下にて――。
ケネスはバルコニーで、煙草を吸いながら、これからのことを考えていた。あんまりノンビリしている時間はないのだ。こうしている間にも、バートリーは何かしらの責めを受けていることだろう。
しかし。
ここにきて、すこしは冷静になっている。
このまま領主館に突っ込んでも、捕縛されるだけだ。多少は強くなったとはいえ、一騎当千というわけにはいかない。そんなことが出来るのはヴィルザだけだ。それを思えば、絶交して切り離してしまったのは惜しいとは思うのだが、いやいや、あいつはオレのカラダを奪い取ろうとしたのだと、思い直した。ヴィルザのことはさておいても、領主館に押し入り、バートリーともう1人捕えられた女性を助け出す算段が思いつかない。
(あと一歩なんだが……)
と、煙草のケムリを吸いこむ。
そのとき――。
バリンッ
と、隣室のほうから、何か物の割れる音がした。ミファに何かあったんじゃないかと、ケネスはすぐに駆けつけることにした。
「おい、なんかあったか?」
と、トビラを叩くが、応答がない。
「入るぞ」
部屋の中に入る。ケネスにあてがわれている部屋と、さして変わらない部屋だった。天蓋つきのベッドがあり。薄いカーテンがかかっているが、その奥にうずくまっている影があった。
「おい、なんかあったか?」
と、ケネスはカーテンを開けた。ミファはベッドでヒザを抱えてうずくまっていた。小刻みに痙攣している。その手には注射器が握られていた。暗闇のなかで青白く発光するそれが、魔力覚醒剤だとすぐにわかった。
「あ、バカっ」
と、あわててその薬を奪い取った。
「か、返して……」
と、腕を伸ばしてくる。ケネスはベッドに押し倒されるカッコウになった。やわらかい女体の感触に押しつぶされたが、情欲をおぼえている余裕はなかった。
「薬なんかやるなって言っただろ」
「いいのよ。あと6日。このカラダが持ってくれれば」
「そう言えば、護衛も1週間契約だったな。6日後に何かあるのか?」
「水……」
「ちょっと待ってろ」
と、ケネスは圧し掛かっているミファを押しのけた。
魔法で水を出せるが、ノドの渇きを潤すものにはならない。台所に呪術でつくられた冷蔵庫があったので、そこを漁ってみた。水があった。それをミファの部屋に持ち帰った。ミファはコップに入った水をいっきに飲み干した。あんまりにもあわてて飲むものだから、頬を水がつたいこぼれていた。窓からさしいる月光が、それを艶然と照らし上げていた。
「ありがとう」
「で、6日後に何かあるのか?」
と、さっきと同じ質問をブツけた。
ケネスの取りあげた薬に、ミファの視線はいまだ注がれていたので、奪われないように注意を払っていた。
「6日後。この都市で大規模な反乱が起きるのよ」
「どうして、そんなことがわかる?」
「私がその準備を進めてるもの。薬を売ってるのは、そのための資金集め。このことは秘密にしておこうと思ってたけれど、ケネスは信用できるから、教えてあげる」
誰もいるはずがないのだが、警戒してケネスは室内を見渡した。いちおう声もひそめておく。
「どうして反乱なんて? 公爵令嬢なんだろ。父親はケリュアル王国のオエライサンなんだろ」
「だからよ」
「どういうことだ」
「今日のお昼にも言ったでしょ。私は魔法を使うことのできない出来そこない。だから、こんな王都から離れた場所に追いやられてるのよ。父には一泡吹かせたいのよ」
「しかし、だいそれたことをする」
薬を売ってるのも凄まじいけれど、まさか反乱の首謀者でもあるとは思わなかった。この骨みたいにぎゅんぎゅんに痩せ細った少女は、心の内にドス暗い狂気をひそませているらしい。
「それだけじゃないわ」
「まだ、何かあるのか」
「あのソルト・ドラグニルって男。私の母と不倫関係にあるのよ。それも気にくわない。ソルトを殺すのは、私の目的でもある」
「家庭環境ドロドロだな」
驚きを通り越して、もはや呆れてしまう。
貴族というのは、表向きは煌びやかに振る舞っているが、内側にはいろいろと暗いものを抱えているようだ。
そう言えば以前にも、ミファの母は、男と寝ていると言っていた記憶がある。
「ソルトを殺すのは、共通の目的でしょ」
「ああ」
「とにかく、6日後の反乱で、私はこの都市をメチャクチャにしてやるの。父に一泡吹かせてやれるし、ソルト・ドラグニルと不倫してる母にも、痛い目を見せてやれるわ。私をバカにしてるこの都市の民だって」
「その後はどうするんだ」
「え?」
と、ミファは意表を突かれたような顔をした。
「ここはケリュアル王国領だろ。ソルト・ドラグニルを殺せば、一時的にこの領土はミファのものになるかもしれないが、すぐに王国軍が軍隊を派遣してくるだろうさ」
それぐらい、考えなくてもわかることだ。
「そのときは、大人しく捕まるわ」
「たぶん、処刑されるぞ」
王国法に詳しくはないけれど、反乱は重罪だろう。
「いいじゃない。父の目の前で処刑されてやるの。私をこんなにしたのは、あんたの責任よ――って、訴えながら、処刑されてやるわ」
要するに、父親に構ってもらいたいのだろう。悪いことをして、親の目を引こうとする。まるで子供だ。その心理状態は子供だが、やっていることは立派な悪党だ。
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