《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第4-11話「公爵の食事」
仮面を外したミファは、雑踏のなかにまぎれこみ、悪い商売になんか知りませんわ、といった顔で、飲食店のひとつに入って行った。
ミファが店に入ると、にぎやかだった店内がいっきに静まり返った。「出来そこないの姫さま」とか「魔法を使えぬ魔術師」といったセリフがひそひそと、けれど悪意をもって聞こえてきた。
ミファは店員と交渉して、店を貸し切り状態にした。客は、店の中から追い出されていたのだが、すれ違いざまに、厭味を吐いたり、舌打ちをする客も少なくなかった。楽しく食事しているところ、イキナリ叩きだされたら、そんな態度もつきたくなるだろうが、もっと根の深いものを感じた。
「店を貸し切りにしたわ。これで2人で使えるでしょ」
木造の長机が、いくつも並べられた店だった。テーブルの中央には観葉植物が置かれており、天井には光を発する呪術がほどこされていた。机上には、さっきまでいた客たちの残飯が、散らかっていた。
「強引だな。あの客たち、食事中だったんだろ」
「いいのよ。私は公爵なんだし、ちゃんとお金は払ってるんだから」
「そういうもんでもないと思うが」
「なによ。文句があるなら、出て行ってもくれても良いのよ」
恨みがましい目でにらんでくる。
そう言ってるくせに、ホントウに出て行ったら、泣きだしてしまいそうな目をしていた。
「いいよ。セッカク独占できるんだし」
「好きなものを、好きなだけ注文しなさい。金貨1000枚分の小切手を渡してあるから」
「き、金貨、1000枚……」
途方もない金額だ。
オレにはそんな金、一生手にすることはないだろうとケネスは思った。
「気にすることないわ。はした金よ」
「金銭感覚がどうかしてるぜ」
「公爵令嬢だもの」
ケネスはハンバーガーを頼んだ。ミファはレタスやチーズとワインを頼んでいた。
「ワインなんか飲んで良いのかよ」
「いいのよ」
帝国法では、お酒は20歳からと決まっている。たしか王国法でもそうだったはずだがな……と思ったのだが、愚問だと気づいた。酒よりヤバいものを取り扱っているのだから、酒なんか気にしてなさそうだ。
「商売がうまくいったお祝いに、それから私とケネスのゴールデンペアに乾杯」
「オレは飲めないよ」
「意外と子供くさいのね」
「いったいいくつに見えてるのか知らないが、オレはまだ17歳だ」
「へー。見えない。てっきり20は過ぎてるのかと思った。じゃあ、私と同い歳じゃない」
「老けてるって言いたいのか?」
「違うわよ。大人っぽいって言いたいの。あと10年もすれば、すっごく良い男になってそうね」
ワインで口を湿らせたミファが、艶っぽい声でそう言った。唇が赤く染まっている。深くにもドキッとしてしまった。
「10年後には、どうなってるかわからんな」
そのころには27歳。
帝国と王国のこんな状況下では、いつ死んでもオカシクはない。
「ケネスは、ソルトを殺して、バートリーって娘を助ければ帝国に帰っちゃうの?」
「ああ」
ここは、敵国だ。
手配書まで回されて、あまつさえ《帝国の劫火》なんて二つ名まで用意されていては、長居はできない。
「じゃあ、いつかお別れしなくちゃいけないのね」
「そう遠くないうちにな」
寂寞とした雰囲気がおとずれた。ミファが下唇を軽く噛みしめて、寂しそうな表情をしていた。
妙に湿っぽい雰囲気になったので、ケネスは咳払いをして話を変えた。
「この店を乗っ取るときに……」
貸し切ったのよ、と訂正してくる。
「まぁ、どっちでも良いが、貸し切ったときに、客たちから悪口が聞こえたんだが、ミファは嫌われてるのか?」
「そうね。私、よくこうやって客を追い出したりするから」
「それは嫌われるな」
「あと、バカにされてるのね」
「なぜ?」
ミファはワイングラスをつまみあげて、クルクルと中の液体を回していた。紫色の毒々しい液体が踊っている。ケネスもハンバーガーにかぶりついた。
「私、もともと王国の魔法学校に通ってたんだけど。成績があんまりにも芳しくないから、恥さらしになるって理由で、退学させられたの」
「誰に?」
「父よ。父は私を優れた魔術師に仕立て上げようとしたみたいなんだけど、私にはチッともその才能がなかったのね。あんまりにも才能がないものだから、バカにされることになったわけ」
別に気にしてないけどね――とミファは何でもないことのように言ったが、それはウソだろう。
気にしてないなら、薬なんかに手を出すとは思えない。
弱い自分から抜け出したい気持ちは、ケネスにはよくわかる。ハンバーガーにもう一度かぶりついた。
ケネスをここまで育ててくれた魔神は、今どこで何をしてるのだろうか。ふと、ヴィルザのことを思い、いや、あいつのことは忘れようと、その懐かしむ気持ちを打ち消したのだった。
ミファが店に入ると、にぎやかだった店内がいっきに静まり返った。「出来そこないの姫さま」とか「魔法を使えぬ魔術師」といったセリフがひそひそと、けれど悪意をもって聞こえてきた。
ミファは店員と交渉して、店を貸し切り状態にした。客は、店の中から追い出されていたのだが、すれ違いざまに、厭味を吐いたり、舌打ちをする客も少なくなかった。楽しく食事しているところ、イキナリ叩きだされたら、そんな態度もつきたくなるだろうが、もっと根の深いものを感じた。
「店を貸し切りにしたわ。これで2人で使えるでしょ」
木造の長机が、いくつも並べられた店だった。テーブルの中央には観葉植物が置かれており、天井には光を発する呪術がほどこされていた。机上には、さっきまでいた客たちの残飯が、散らかっていた。
「強引だな。あの客たち、食事中だったんだろ」
「いいのよ。私は公爵なんだし、ちゃんとお金は払ってるんだから」
「そういうもんでもないと思うが」
「なによ。文句があるなら、出て行ってもくれても良いのよ」
恨みがましい目でにらんでくる。
そう言ってるくせに、ホントウに出て行ったら、泣きだしてしまいそうな目をしていた。
「いいよ。セッカク独占できるんだし」
「好きなものを、好きなだけ注文しなさい。金貨1000枚分の小切手を渡してあるから」
「き、金貨、1000枚……」
途方もない金額だ。
オレにはそんな金、一生手にすることはないだろうとケネスは思った。
「気にすることないわ。はした金よ」
「金銭感覚がどうかしてるぜ」
「公爵令嬢だもの」
ケネスはハンバーガーを頼んだ。ミファはレタスやチーズとワインを頼んでいた。
「ワインなんか飲んで良いのかよ」
「いいのよ」
帝国法では、お酒は20歳からと決まっている。たしか王国法でもそうだったはずだがな……と思ったのだが、愚問だと気づいた。酒よりヤバいものを取り扱っているのだから、酒なんか気にしてなさそうだ。
「商売がうまくいったお祝いに、それから私とケネスのゴールデンペアに乾杯」
「オレは飲めないよ」
「意外と子供くさいのね」
「いったいいくつに見えてるのか知らないが、オレはまだ17歳だ」
「へー。見えない。てっきり20は過ぎてるのかと思った。じゃあ、私と同い歳じゃない」
「老けてるって言いたいのか?」
「違うわよ。大人っぽいって言いたいの。あと10年もすれば、すっごく良い男になってそうね」
ワインで口を湿らせたミファが、艶っぽい声でそう言った。唇が赤く染まっている。深くにもドキッとしてしまった。
「10年後には、どうなってるかわからんな」
そのころには27歳。
帝国と王国のこんな状況下では、いつ死んでもオカシクはない。
「ケネスは、ソルトを殺して、バートリーって娘を助ければ帝国に帰っちゃうの?」
「ああ」
ここは、敵国だ。
手配書まで回されて、あまつさえ《帝国の劫火》なんて二つ名まで用意されていては、長居はできない。
「じゃあ、いつかお別れしなくちゃいけないのね」
「そう遠くないうちにな」
寂寞とした雰囲気がおとずれた。ミファが下唇を軽く噛みしめて、寂しそうな表情をしていた。
妙に湿っぽい雰囲気になったので、ケネスは咳払いをして話を変えた。
「この店を乗っ取るときに……」
貸し切ったのよ、と訂正してくる。
「まぁ、どっちでも良いが、貸し切ったときに、客たちから悪口が聞こえたんだが、ミファは嫌われてるのか?」
「そうね。私、よくこうやって客を追い出したりするから」
「それは嫌われるな」
「あと、バカにされてるのね」
「なぜ?」
ミファはワイングラスをつまみあげて、クルクルと中の液体を回していた。紫色の毒々しい液体が踊っている。ケネスもハンバーガーにかぶりついた。
「私、もともと王国の魔法学校に通ってたんだけど。成績があんまりにも芳しくないから、恥さらしになるって理由で、退学させられたの」
「誰に?」
「父よ。父は私を優れた魔術師に仕立て上げようとしたみたいなんだけど、私にはチッともその才能がなかったのね。あんまりにも才能がないものだから、バカにされることになったわけ」
別に気にしてないけどね――とミファは何でもないことのように言ったが、それはウソだろう。
気にしてないなら、薬なんかに手を出すとは思えない。
弱い自分から抜け出したい気持ちは、ケネスにはよくわかる。ハンバーガーにもう一度かぶりついた。
ケネスをここまで育ててくれた魔神は、今どこで何をしてるのだろうか。ふと、ヴィルザのことを思い、いや、あいつのことは忘れようと、その懐かしむ気持ちを打ち消したのだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
52
-
-
1168
-
-
34
-
-
26950
-
-
381
-
-
35
-
-
63
-
-
337
-
-
104
コメント