《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第3-20話「シュネイ戦線 Ⅵ」

 そしてついに――。



 国境砦を制圧していた王国軍が動きはじめた。4500の部隊が、シュネイの村に向かって真っすぐ進んでくるという斥候からの報告があった。バートリーはジッと野営地で構えていた。



「いかがいたしましょう?」
 フーが尋ねてくる。



「野戦になります。このあたりはなだらかな丘陵が続いていますが、本体同士の衝突する場所は平原と考えて間違いないでしょう」



 野営地から周囲を見渡す。緑に覆われた大地がひたすら広がっている。この穏やかな空気を醸し出す帝国の大地が、戦乱によって荒らされることを思うと、胸が痛む。



「そうですわね」



「こちらの本体は正面に5000を当てましょう。そちらの総指揮は、フーにお任せします」



「本体に割くのが、たったの5000ですの?」 と、フーが首をかしげる。
 金髪の縦巻きロールが大きく揺れる。



「はい。残る5000――正確には、4700は、すべて敵の遊撃隊に当てることにします」



 本体同士が衝突すれば、膠着は避けられない。そのあいだ、ソルトが率いる騎馬隊がフリーになる。それは避けなければならない。



 4700をもってして、ソルト率いる500を鎮圧するという作戦だ。その旨を話すと、なるほど、とフーもうなずいた。



「たしかに王国軍の本体のうち、2000は雑兵の集まり。つまりは死に兵。戦力として見るべきは、2500。当てるのは5000で充分ですわね」



「重装騎兵を使えば、いっきに蹴散らすことが出来るかもしれません。敵の雑兵はしょせんは軽装でしょうから。随時、斥候から入る情報で判断してください」



「了解ですわ」



 問題はむしろ、本隊よりも、ソルト率いる遊撃隊だ。今もなお、森のなかに潜んで動きはない。



 4700人の軍力を持って、あのドラゴンを倒すことができるかどうか……。



「安心してくださいませ。本体のほうはすぐにケリをつけます。すぐにそちらの応援に回りますわ」



「お願いします」



 フーはニコリと微笑むと、準備にとりかかった。



 バートリーも各中隊長に命令を出してゆき、隊を整えてゆく。普通の戦いではない。相手はドラゴンに変身する男。どういう陣形をとれば良いのかわからない。とりあえず、騎兵の突撃を止めるために、重装騎士を先頭に配備すること。後方から魔術で援護するということ。この2点を意識して、隊を配した。



 先に見えたのは、王国軍本体の敵影だった。  フーの率いる部隊と相対して、しばし硬直していた。
 ソルトの部隊はまだ見えない。



 本体同士が、しばらくにらみ合っていた。衝突がはじまる前から、互いに発せられる闘志と闘志が渦巻いている。この一帯にとどまっていた穏やかな空気は、争いの気配を察してあわただしく逃げ出してゆく。王国軍の本体が細かく陣形を整えるのにたいして、フーも陣形を変えてゆく。



(フーなら、大丈夫でしょう)



 バートリーはガルシアに引き取られてから、魔術を鍛え上げられた。そして伯爵位を貰いうけて、《凍結隊》と呼ばれる隊を任されることになった。数10人だったものが、数100人になり、今では2000前後にもなる。初期のころからバートリーに付いてくれていたのが、フーだ。



《凍結隊》の調練もおもに、フーが行っている。ともに戦場を駆けてきた仲であり、魔術師として切磋琢磨する仲でもある。だからこその、信頼があった。
 本体同士が、衝突した。



 武具と武具。
 武器と武器。
 魔法と魔法。
 蛮声と蛮声がまじりあう。



 王国軍の戦闘は歩兵。帝国軍の戦闘は重装騎兵。装備の差でも勝っている。本隊は心配いらなさそうだ。



 むしろ――。



「やはり来ましたね」



 本体の衝突に合わせて、ソルト率いる騎兵遊撃隊が動きはじめた。森のなかから、本隊の背中を突くようにして疾駆してくる。やはり本体同士の衝突のさいに、背後から襲撃をかける作戦だったようだ。



 モウモウと砂塵を蹴散らして、騎兵が猛進してきた。鋭角の楔形陣形をしており、先頭にソルト・ドラグニルの姿が見えた。一点突破をかけてくるつもりのようだ。バートリーの陣を破られると、フーが率いている本隊に直接響くことになる。



 それを防ぐように組み立てたのが、バートリーの陣形だ。



「砲兵魔術部隊ッ。土系基礎魔法を展開せよッ!」
 バートリーが叫ぶ。



《通話》を通しても、各隊に聞こえるようにしている。後方に控えていた魔術部隊が、魔法陣を展開していた。いくつもの仄青い魔法陣が展開されることにより、星のきらめきに見える。



 魔法陣から巨大な岩の塊が生み落とされる。それが、王国の騎兵に襲いかかる。馬が混乱して、落馬していく騎士の姿が見て取れた。



 続いて。



 重装歩兵が構える前列より、30メートル前。土が地面から盛り上がる。土系基礎魔法の《土壁アース・ウォール》だ。いたって単純な魔法ではあるが、こうして土の壁をつくることによって、馬の侵攻を防ぐには効果的だ。簡易的な城壁が、ソルトの部隊を阻む。



 土壁の向こうから、馬のいななきと、人の悲鳴が聞こえてくる。血と悲劇の匂いがただよってくる。



 これが、戦だ。
 ようやく、鈍っていたカラダが思い出しかけていた。



「止めたか……」
 否。



 ドゴォ――ッ。



 轟音とともに、土壁が破られた。先頭にいたソルトがドラゴンの姿に変貌して、土壁を破ってきたようだ。陽光を浴びて、黒々と輝く黒龍の姿は見る者を陶酔させるほどの荘厳さがあり、そして同時に、恐怖を浴びせるに充分な威圧感があった。黒龍を前にしたバートリーの部隊に怖れが蔓延するのを感じた。



「怯んではいけませんッ。魔術部隊。防御ッ!」



 土系上位魔法の《鉄の皮膚アイアン・スキン》により、前衛の重装騎士をさらに強く固める。しかし、脆くも崩れ去る。圧倒的なドラゴンの突撃の前に、重装騎士たちが吹き散らされる。まるで、砂か塵みたいに……。そこからは早い。一点穴を開けられた陣形に、騎兵がなだれ込んでくる。



 トツゼン戦場の熱気が、バートリーに吹き付けてきた。氷のように固い闘志が、溶かされていく。



 あまりに、強すぎる……。
 これが、王国3大剣帝。戦神カヌスの再来と言われた男――。

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