《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第3-15話「シュネイ戦線 Ⅰ」
『報告しますッ』
バートリーたちが陣取っている野営地。風に乗った一声がバートリーの耳朶をうった。風系基礎魔法の《通話》だ。声の相手は、わかっている。国境砦に様子を見に行かせた斥候の声だ。
「どうしたのです。あわてて」
と、バートリーは応じた。
バートリーのいる野営地には、夏の気配をはらんだ春風が穏やかに吹き付けていた。バートリーの7・3に分けられた青髪が風にナでられた。髪が乱れぬように頭を押さえて、《通話》に集中する。
『こちら国境砦。すでに王国軍の侵攻がはじまっており……戦況は不利な模様。じきにケリュアル王国軍の侵攻を許すものになるかと』
疲れ切った男の声がした。
斥候の1人だ。
「王国軍の戦力はどれほどです?」
『歩兵2000人。王国兵1000人。騎兵が1500。魔術部隊が500。総勢5000です』
たった5000の戦力で、この帝国の国境を抜けてくるか。バートリーは歯ぎしりをした。しかも歩兵2000人ということは、ほとんど烏合の衆も同然だ。警戒すべきは、王国兵の1000と、魔術部隊の500。そして騎兵というのが遊撃隊なのだろう。
「どこの所属の軍なのです?」
『王国軍総隊長はあの、王国3大剣帝が1人、戦神カヌスの再来と言われた男――ソルト・ドラグニルです。国境は間もなく……うわぁぁぁッ』
「もしもし?」
応答はなくなった。
他の斥候たちに連絡を取ってみたが、音信不通だった。
(斥候部隊が全滅したのでしょうか?)
厭な汗が背中をつたっていた。
まだ全滅だと決めつけるのは早計だ。風系基礎魔法の《通話》は、魔力によって妨害されることもある。
とはいえ――。
(おそらく、全滅していますね)
バートリーの鼻は、この国全土の血の臭いをかぎわける。そういうスキルなのだ。誰かが殺されれば、どこで殺されたのかすぐにわかる。冒険者たちの死もわかるので、常に血の臭いがする。
今は――特に強く、国境砦から血の臭いが漂っていた。
バートリーは片メガネを指の腹でこすった。焦燥とイラダチが胸裏でうずまいていた。帝国を汚された。バートリーはこのデラル帝国に狂信的なまでの忠誠心を抱いている。皇帝陛下にではない。ガルシアにでもない。国という存在に、忠誠を抱いている。国境を荒らされているだけでも、親を傷つけられたような憎悪をおぼえる。
「いかがされたのです?」
副隊長が、そう尋ねてきた。
フィント・フーリンという女魔戦士だ。この戦いのさいには、バートリーが本隊長をあずかり、フーリンが副隊長をつとめている。愛称で、みんなから、フー、と言われている。フーはガルシアよりも、少し濃い目の金髪をしている。それを縦巻きにしているから、遠目でもその姿がよくわかる。戦場には似つかわしくないと思うのだが、血なまぐさい戦場を駆ける金髪縦巻きロールの姿は、絵にはなる。
「国境砦が王国軍に破られそうです。時間の問題でしょう」
「我々は、いかがいたしますの?」
「まだ上のほうから連絡は来ておりませんので、私たちは依然としてこのシュネイの村の死守ということで良いのでしょう」
「しかし、鉄壁とうたわれた帝国の国境が破られるとは、よほどの大群なのですわね」
と、フーがムリに笑おうとしたのか、引きつった笑みで言う。
「いいえ。たった5000だそうです。しかもそのうち2000は雑兵」
「何かの間違いでは?」
「率いているのが、あのソルト・ドラグニルだそうです」
言うと、フーの笑顔がさらに引きつったものになった。
「8大神がひとり、戦神カヌスの再来とうたわれた男ですか。ウワサによると、ドラゴンに変身するというバケモノじみたスキルを持っているとか、そうでないとか」
「ええ」
バートリーもウワサに聞いたことがあるだけだ。それほどのバケモノを王国軍が投入してきたということは、いよいよ本格的な戦がはじまるということでもある。そして国境を抜けてきたソルトと衝突するのが、バートリーの部隊ということになる。
(私に、制することが出来るでしょうか?)
わからない。
しかし――。
ここは、なんとしても死守しなくてはならない。あのケネスの故郷なのだ。死守せよ――というガルシアの命令もある。
「バートリーさまが言っていた、彼の応援を求めてみては? 近くにいらっしゃるのでしょう?」
フーがそう提案した。
「ケネスさまですか」
「先日、こちらの野営地に来ていらした青年でしょう。あまり強そうには見えませんでしたけれど」
フーは困惑気味に首をかしげている。
「わかっていませんね。爵位授与式を逃げ出したから、大きな話題にはなっていませんが、彼は帝都を救った英雄でもあるのですよ」
ケネスが貶されることに、なぜか腹が立った。
「彼なら、ソルト・ドラグニルとも互角に戦えるのでは?」
「かもしれません」
(彼に応援を求めるか?)
考えた。
否。
それは愚かな考えだ。
ケネスはまだ軍人ではなくて、学生だ。本人も戦を望んでいないようだし、ムリヤリ戦場に連れ込むわけにもいかない。
今、国境が破られた。
そう直感した。
ガルシアに報告しておこうと思った。本来、ケネスと出会ったことも、報告しておくべきだ。が、それを報告する気にはならなかった。
バートリーたちが陣取っている野営地。風に乗った一声がバートリーの耳朶をうった。風系基礎魔法の《通話》だ。声の相手は、わかっている。国境砦に様子を見に行かせた斥候の声だ。
「どうしたのです。あわてて」
と、バートリーは応じた。
バートリーのいる野営地には、夏の気配をはらんだ春風が穏やかに吹き付けていた。バートリーの7・3に分けられた青髪が風にナでられた。髪が乱れぬように頭を押さえて、《通話》に集中する。
『こちら国境砦。すでに王国軍の侵攻がはじまっており……戦況は不利な模様。じきにケリュアル王国軍の侵攻を許すものになるかと』
疲れ切った男の声がした。
斥候の1人だ。
「王国軍の戦力はどれほどです?」
『歩兵2000人。王国兵1000人。騎兵が1500。魔術部隊が500。総勢5000です』
たった5000の戦力で、この帝国の国境を抜けてくるか。バートリーは歯ぎしりをした。しかも歩兵2000人ということは、ほとんど烏合の衆も同然だ。警戒すべきは、王国兵の1000と、魔術部隊の500。そして騎兵というのが遊撃隊なのだろう。
「どこの所属の軍なのです?」
『王国軍総隊長はあの、王国3大剣帝が1人、戦神カヌスの再来と言われた男――ソルト・ドラグニルです。国境は間もなく……うわぁぁぁッ』
「もしもし?」
応答はなくなった。
他の斥候たちに連絡を取ってみたが、音信不通だった。
(斥候部隊が全滅したのでしょうか?)
厭な汗が背中をつたっていた。
まだ全滅だと決めつけるのは早計だ。風系基礎魔法の《通話》は、魔力によって妨害されることもある。
とはいえ――。
(おそらく、全滅していますね)
バートリーの鼻は、この国全土の血の臭いをかぎわける。そういうスキルなのだ。誰かが殺されれば、どこで殺されたのかすぐにわかる。冒険者たちの死もわかるので、常に血の臭いがする。
今は――特に強く、国境砦から血の臭いが漂っていた。
バートリーは片メガネを指の腹でこすった。焦燥とイラダチが胸裏でうずまいていた。帝国を汚された。バートリーはこのデラル帝国に狂信的なまでの忠誠心を抱いている。皇帝陛下にではない。ガルシアにでもない。国という存在に、忠誠を抱いている。国境を荒らされているだけでも、親を傷つけられたような憎悪をおぼえる。
「いかがされたのです?」
副隊長が、そう尋ねてきた。
フィント・フーリンという女魔戦士だ。この戦いのさいには、バートリーが本隊長をあずかり、フーリンが副隊長をつとめている。愛称で、みんなから、フー、と言われている。フーはガルシアよりも、少し濃い目の金髪をしている。それを縦巻きにしているから、遠目でもその姿がよくわかる。戦場には似つかわしくないと思うのだが、血なまぐさい戦場を駆ける金髪縦巻きロールの姿は、絵にはなる。
「国境砦が王国軍に破られそうです。時間の問題でしょう」
「我々は、いかがいたしますの?」
「まだ上のほうから連絡は来ておりませんので、私たちは依然としてこのシュネイの村の死守ということで良いのでしょう」
「しかし、鉄壁とうたわれた帝国の国境が破られるとは、よほどの大群なのですわね」
と、フーがムリに笑おうとしたのか、引きつった笑みで言う。
「いいえ。たった5000だそうです。しかもそのうち2000は雑兵」
「何かの間違いでは?」
「率いているのが、あのソルト・ドラグニルだそうです」
言うと、フーの笑顔がさらに引きつったものになった。
「8大神がひとり、戦神カヌスの再来とうたわれた男ですか。ウワサによると、ドラゴンに変身するというバケモノじみたスキルを持っているとか、そうでないとか」
「ええ」
バートリーもウワサに聞いたことがあるだけだ。それほどのバケモノを王国軍が投入してきたということは、いよいよ本格的な戦がはじまるということでもある。そして国境を抜けてきたソルトと衝突するのが、バートリーの部隊ということになる。
(私に、制することが出来るでしょうか?)
わからない。
しかし――。
ここは、なんとしても死守しなくてはならない。あのケネスの故郷なのだ。死守せよ――というガルシアの命令もある。
「バートリーさまが言っていた、彼の応援を求めてみては? 近くにいらっしゃるのでしょう?」
フーがそう提案した。
「ケネスさまですか」
「先日、こちらの野営地に来ていらした青年でしょう。あまり強そうには見えませんでしたけれど」
フーは困惑気味に首をかしげている。
「わかっていませんね。爵位授与式を逃げ出したから、大きな話題にはなっていませんが、彼は帝都を救った英雄でもあるのですよ」
ケネスが貶されることに、なぜか腹が立った。
「彼なら、ソルト・ドラグニルとも互角に戦えるのでは?」
「かもしれません」
(彼に応援を求めるか?)
考えた。
否。
それは愚かな考えだ。
ケネスはまだ軍人ではなくて、学生だ。本人も戦を望んでいないようだし、ムリヤリ戦場に連れ込むわけにもいかない。
今、国境が破られた。
そう直感した。
ガルシアに報告しておこうと思った。本来、ケネスと出会ったことも、報告しておくべきだ。が、それを報告する気にはならなかった。
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