《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第3-13話「思い出の中の小さな勇者」
ロールは、また新しい煙草を取り出すと、ケムリを深く吸いこんだ。龍の葉のほろ苦い味が口の中に広がる。吸い過ぎると依存してしまうと言われている。
もう依存してしまってるかもしれない。これは、失恋の味なのだ。ある田舎村で、凡庸な男の子に恋をした。でも、あるときフラッと村から消えてしまった。そして戻ってきたときには、別の――違う女の臭いがしていた。
ロールはケネスのほうをイチベツした。ケネスは黙々とゴブリンの死骸から、耳を削ぎ落しているところだった。
「すー」
ケムリを深く吸う。
シガーキスを交わした煙草だ。ケネスの味がする。
「ケネス。お前、悪い女にダマされんなよ」
「なんだよ、それ」
ケネスは怪訝そうな顔を向けてきた。
「幼馴染からの忠告だよ」
自分が好きになった男だ。幸せになって欲しいと思う。変な女に遊ばれたりしたら、ヤッパリ悲しいし悔しい。でも、ケネスから感じる女の臭いは、厭な女の臭いだった。ドス黒くて、血なまぐさい。トビッキリの悪女に取り憑かれてる気がする。気のせいで、あってほしい。
(なんで私は、コイツに惚れてんだろうなぁ)
と、あらためてケネスを見る。
記憶にあるケネスよりいくらか背丈は伸びている。けれど、別に目立ったところのない、平凡な青年だと思う。顔の良さなら、まだロビンのほうが上だ。
(やっぱり、あれかな?)
その昔、ケネスとロビンとロールの3人で遊んでいたとき、川辺で遊んでいたことがあった。ロールは足をつって、溺れかけた。そんなとき、いつもヘッピリ腰のケネスが真っ先に跳びこんで、ロールを助けようとしたことがあった。
もっともその話には、ロールは自力でなんとかなって、結局、ケネスが助けられる側に回ったというオチがあるのだけれど。
不器用なくせに、良いヤツなのだ。
ロールにとっては、ケネスは小っちゃい勇者なのだった。
「おい、やべっぞッ!」
ロビンがあわただしく戻ってきた。あまりのあわてように、床に転がっていたゴブリンの死骸にけつまずいていた。
「どうかしたのかよ?」
煙草を口から話した。
人差し指と薬指が熱くなってきた。もうこれ以上は、吸っていられない。でも、接吻を交わした煙草だ。捨てるのはモッタイナイ。火を消して、ポケットにねじこんだ。
シガーキスの煙草。
私の、宝物。
やさしくポケットにしまいこんだ。
「ジャイアント・ゴブリンが潜んでやがった。早く逃げなきゃ退路が……」
ドスンッ……ドスンッ……ダンジョンが揺れていた。振動に合わせて砂粒が天井から降ってきた。
ロールたちのいる大広間は、ダンジョンの最奥になっていて、行きどまりになっている。引き返すには一本の細い通路しかない。
その通路から大きな影が現れた。緑の巨体だった。足は短い。腹に肉が乗って段になっている。その腹の皮膚はケロイドのように爛れていた。天井にまで届きそうな図体をしており、剥きだされた目玉でロールたちを見下ろしていた。ゴブリンをそのまま大きくしたようなヤツだ。
「ひぇ」
と、ロビンは小さな悲鳴をあげていた。たしかに、迫力のある風体をしている。
「どうするよ」
「どうするって、逃げるしかねェだろ。ジャイアント・ゴブリンってーと、Bランク相当のモンスターだぜ」
「でも、逃げ道を防がれてる」
そう言って、ロールは正面を指差す。
ゴブリンたちの死骸の海の向こうにある、ゆいいつの出口は、緑の巨体によって封じられている。ジャイアント・ゴブリンは仲間たちの死に動揺したのか、呆然とその場にたたずんでいた。
「どうにかこっちにおびき出して、逃げ道を作ろうぜ」
ロビンはそう言って立ち上がり、剣先をジャイアント・ゴブリンに向けた。ジャイアント・ゴブリンの反応は速かった。疾駆してくる。思いのほか俊敏だ。床に散らばってるゴブリンの死骸が蹴散らされてゆく。コブシ。飛んでくる。
「ぐへっ」
と、ロビンが、マトモにくらっていた。
ロビンは壁に叩きつけられて、剣を床に落としていた。カランコロン。剣が石畳の床を転がる。
気絶したようだ。
「ヤベーな。おい」
ロールの得物はダガーだが、その程度の刃渡りでは、ジャイアント・ゴブリンの厚い脂肪を貫くのは難しそうだ。それ以前に、恐怖で近づくことが出来なかった。足が笑ってやがる。
「オレが魔法で足止めする。そのあいだにロールは、ロビンを連れてダンジョンを出るんだ」
「カッコウつけてんじゃねェぞ。ケネス! あれを1人で相手するってのかよ」
いくらケネスが魔術師として成長したからといっても、さすがにBランク相当のモンスターを相手にするのは厳しいものがある。
「火系基礎魔法《火球》」
ケネスの手のひらから、仄青い魔法陣が展開される。その中央から、火の球が射出された。火の球は、ジャイアント・ゴブリンの分厚い腹に直撃していた。
「ぐおぉっ」
と、うめいていたから、効いてはいるようだ。
「早く。今のうちに!」
「けど……!」
「オレなら大丈夫だから」
「冒険者ギルドに行って、すぐに応援を呼んでくるからな。それまで待ってろよ。死ぬんじゃねェぜ」
ケネスの気迫に急かされて、ロールはロビンをかついで、その広間から脱出した。振り返る。ジャイアント・ゴブリンがケネスに猛進しているところが見えた。
不思議と昔のことを思い出した。
ロールが川で溺れかけていたとき、ケネスが助けに跳びこんできてくれた。でも、結局、ケネスは泳げなくて、助けられる側に回っていた記憶。
「死ぬなよ」
と、ロールにとっての小さな勇者の身を案じた。
もう依存してしまってるかもしれない。これは、失恋の味なのだ。ある田舎村で、凡庸な男の子に恋をした。でも、あるときフラッと村から消えてしまった。そして戻ってきたときには、別の――違う女の臭いがしていた。
ロールはケネスのほうをイチベツした。ケネスは黙々とゴブリンの死骸から、耳を削ぎ落しているところだった。
「すー」
ケムリを深く吸う。
シガーキスを交わした煙草だ。ケネスの味がする。
「ケネス。お前、悪い女にダマされんなよ」
「なんだよ、それ」
ケネスは怪訝そうな顔を向けてきた。
「幼馴染からの忠告だよ」
自分が好きになった男だ。幸せになって欲しいと思う。変な女に遊ばれたりしたら、ヤッパリ悲しいし悔しい。でも、ケネスから感じる女の臭いは、厭な女の臭いだった。ドス黒くて、血なまぐさい。トビッキリの悪女に取り憑かれてる気がする。気のせいで、あってほしい。
(なんで私は、コイツに惚れてんだろうなぁ)
と、あらためてケネスを見る。
記憶にあるケネスよりいくらか背丈は伸びている。けれど、別に目立ったところのない、平凡な青年だと思う。顔の良さなら、まだロビンのほうが上だ。
(やっぱり、あれかな?)
その昔、ケネスとロビンとロールの3人で遊んでいたとき、川辺で遊んでいたことがあった。ロールは足をつって、溺れかけた。そんなとき、いつもヘッピリ腰のケネスが真っ先に跳びこんで、ロールを助けようとしたことがあった。
もっともその話には、ロールは自力でなんとかなって、結局、ケネスが助けられる側に回ったというオチがあるのだけれど。
不器用なくせに、良いヤツなのだ。
ロールにとっては、ケネスは小っちゃい勇者なのだった。
「おい、やべっぞッ!」
ロビンがあわただしく戻ってきた。あまりのあわてように、床に転がっていたゴブリンの死骸にけつまずいていた。
「どうかしたのかよ?」
煙草を口から話した。
人差し指と薬指が熱くなってきた。もうこれ以上は、吸っていられない。でも、接吻を交わした煙草だ。捨てるのはモッタイナイ。火を消して、ポケットにねじこんだ。
シガーキスの煙草。
私の、宝物。
やさしくポケットにしまいこんだ。
「ジャイアント・ゴブリンが潜んでやがった。早く逃げなきゃ退路が……」
ドスンッ……ドスンッ……ダンジョンが揺れていた。振動に合わせて砂粒が天井から降ってきた。
ロールたちのいる大広間は、ダンジョンの最奥になっていて、行きどまりになっている。引き返すには一本の細い通路しかない。
その通路から大きな影が現れた。緑の巨体だった。足は短い。腹に肉が乗って段になっている。その腹の皮膚はケロイドのように爛れていた。天井にまで届きそうな図体をしており、剥きだされた目玉でロールたちを見下ろしていた。ゴブリンをそのまま大きくしたようなヤツだ。
「ひぇ」
と、ロビンは小さな悲鳴をあげていた。たしかに、迫力のある風体をしている。
「どうするよ」
「どうするって、逃げるしかねェだろ。ジャイアント・ゴブリンってーと、Bランク相当のモンスターだぜ」
「でも、逃げ道を防がれてる」
そう言って、ロールは正面を指差す。
ゴブリンたちの死骸の海の向こうにある、ゆいいつの出口は、緑の巨体によって封じられている。ジャイアント・ゴブリンは仲間たちの死に動揺したのか、呆然とその場にたたずんでいた。
「どうにかこっちにおびき出して、逃げ道を作ろうぜ」
ロビンはそう言って立ち上がり、剣先をジャイアント・ゴブリンに向けた。ジャイアント・ゴブリンの反応は速かった。疾駆してくる。思いのほか俊敏だ。床に散らばってるゴブリンの死骸が蹴散らされてゆく。コブシ。飛んでくる。
「ぐへっ」
と、ロビンが、マトモにくらっていた。
ロビンは壁に叩きつけられて、剣を床に落としていた。カランコロン。剣が石畳の床を転がる。
気絶したようだ。
「ヤベーな。おい」
ロールの得物はダガーだが、その程度の刃渡りでは、ジャイアント・ゴブリンの厚い脂肪を貫くのは難しそうだ。それ以前に、恐怖で近づくことが出来なかった。足が笑ってやがる。
「オレが魔法で足止めする。そのあいだにロールは、ロビンを連れてダンジョンを出るんだ」
「カッコウつけてんじゃねェぞ。ケネス! あれを1人で相手するってのかよ」
いくらケネスが魔術師として成長したからといっても、さすがにBランク相当のモンスターを相手にするのは厳しいものがある。
「火系基礎魔法《火球》」
ケネスの手のひらから、仄青い魔法陣が展開される。その中央から、火の球が射出された。火の球は、ジャイアント・ゴブリンの分厚い腹に直撃していた。
「ぐおぉっ」
と、うめいていたから、効いてはいるようだ。
「早く。今のうちに!」
「けど……!」
「オレなら大丈夫だから」
「冒険者ギルドに行って、すぐに応援を呼んでくるからな。それまで待ってろよ。死ぬんじゃねェぜ」
ケネスの気迫に急かされて、ロールはロビンをかついで、その広間から脱出した。振り返る。ジャイアント・ゴブリンがケネスに猛進しているところが見えた。
不思議と昔のことを思い出した。
ロールが川で溺れかけていたとき、ケネスが助けに跳びこんできてくれた。でも、結局、ケネスは泳げなくて、助けられる側に回っていた記憶。
「死ぬなよ」
と、ロールにとっての小さな勇者の身を案じた。
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