《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第3-10話「バートリーとの会話」
「すみません。オレの友人が」
と、ケネスは謝っておいた。
ロールとロビンは別の天幕で眠っている。ケネスのいる天幕には、バートリーと二人きりだった。付き人もいない。バートリーが人払いをしたのだ。
バートリーの寝室として使っている天幕のようで、木箱をつなげてつくったベッドが置かれていた。バートリーはそこに腰かけており、ケネスも別の木箱に腰かけていた。
「いえ。ケネスさまのご友人ということですから、丁重に扱わせていただきました」
「友人というか……久しぶりに会った幼馴染というか……」
それほど仲良くはないのだ。
「そうですね。彼はケネスさまのことを軽んじているようでした。それはもちろん、ケネスさまが実力を隠しになっているからでしょうけれど」
「はぁ」
と、曖昧に応じた。
実力を隠している――というふうに見られているようだ。実際には、すこし違う。ウソを吐いているような感覚になって、マトモに目を合わせられなかった。天幕の天井で、カンテラの炎が小さく揺れていた。
「心配にはおよびません。ケネスさまが実力を御隠しになっている理由は、ちゃんと把握しております」
「え!」
伏せていた面を、あわててあげた。
「ケネスさまの魔法は、あの王国6大魔術師と言われた、ゲヘナ・デリュリアスを圧倒するほどでした。それだけのチカラがあると知れ渡ると、王国軍からも狙われるでしょうし、帝国内でも引っ張りダコになるからでしょう」
「あ、ええ。まぁ」
ヴィルザのことを気取られたのかと思った。どうやら、杞憂だったらしい。
「御心配にはおよびません。ケネスさまの実力は、私とガルシアさま。それから、あの帝都での戦いを目撃していた一部の物しか知りません。もちろん公言するつもりもありません」
「それは、助かります」
「3年後……いえ。もう2年後でしたか。ガルシア長官との約束は」
「はい。ガルシアさんは?」
「ガルシア長官は帝都を空けるわけにはいきませんので。ここには、私しかおりません。申し訳ございません」
「いや。いいです」
別に会いたいわけでもない。
訊いてみただけだ。
「2年後。ケネスさまが帝国魔術部隊に加わってくださると聞いております。もしかすると、それによって、王国との戦況がいっきに傾くことになるかもしれません。実際、ゲヘナ・デリュリアスを削っただけでも、かなりの戦果です」
どうするんだよ――と、ケネスはチラリと横にいるヴィルザを見た。ヴィルザの能力が、ケネスのものだと完全に誤解されている。3年間、魔術学院で努力すると決めていた。だが、あと2年でガルシアやバートリーの求めている実力まで成長できるかは、わからない。
「戦争。今度は長くなりそうですか」
「はい。王国軍のほうから先に停戦を破ったのです。しかも帝都襲撃という大胆なやり方で、近隣諸国は帝国に好意的です。これを機にいっきに王国を叩くことになるかと思います」
「ここが戦場に?」
それがケネスの懸念だった。バートリーほどの人が来るということは、この周辺で戦があると見て間違いないのだろう。
ここはケネスの故郷だ。父がいる。母がいる。懐かしい土地がある。ロールがいて。まぁ、あいつは居ても居なくても良いけど、ロビンだっているのだ。大切なものが、いくつもある。
「戦場になると思います。国境を越えて、最初に王国軍が到着する村がここでしょうから、ここを仮拠点として制圧される怖れがあります。しかし、そう心配することもありませんね。ケネスさまがいらっしゃるのですから」
「あ……ええ。まぁ」
ヴィルザがいる。
イザというときには、またチカラを借りる必要がある。最近、ヴィルザのチカラを借りることが少なくなっていた。意識しているからというのもあるが、危機的状況に陥ることが少なくなっているから――というのもある。
「ひとつ、お願いがあるのですが」
バートリーは細い薬指で、肩メガネを縁をこすりながら、気まずそうにそう切り出してきた。
「はい?」
「《通話》つなげていただいても、よろしいでしょうか?」
《通話》をつなげるのには、魔力同士をブツける必要がある。いわば魔力による交合だ。だからかもしれないが、聞き出すのに羞恥心がある。魔法を使える男たちは、美しい女たちと《通話》をつなげようと、いつもどこかで苦心しているぐらいだ。
「いいですよ」
ケネスも《通話》ぐらいの基礎魔法は使えるようには、なっていた。けれど、ケネスの魔法でつなげると、その魔力の小ささに疑問を覚えられるだろうと判断した。ヴィルザにつなげてもらうことにした。
魔法陣を展開して、ヴィルザとバートリーの魔法がかち合った。
「はぁ……はぁ……」
魔力をつなぎ終えたとき、バートリーは肩で呼吸して、胸元をおさえつけていた。
「大丈夫ですか?」
「はい。ケネスさまの魔力と、私の魔力。たしかに、つながせていただきました。ケネスさまの魔力……浴びるだけで……これほどまでに……」
バートリーはベッドの上にコテンと転げてしまった。
「だ、大丈夫ですか!」
バートリーを気絶させたとあれば、またしても不審者扱いされかねない。あわてて抱き起した。
「だ、大丈夫です。精神刺激薬がありますので」
バートリーはそう言うと、小瓶に入った青い薬を取り出して、いっきに飲み干していた。バートリーの白い頬を、青い液体がつたいこぼれていた。精神刺激薬を飲んだことで、気を取り戻したようだった。
「すみません。強くやり過ぎたみたいで」
「いえ。構いません。しかし、それほどまでとは思いませんでした。その魔力は、ガルシア魔法長官以上です。もしかすると、8大神と言われる者たちと同等の魔力があるのかもしれませんね。まるで暴風に八つ裂きにされるかのようでした」
薬を飲んでも、バートリーの呼吸は荒く、頬を紅潮させていた。
謝って、それから二言三言かわして、ケネスも自分のために用意された天幕へと移動した。
「なにも、あそこまで強くすることないじゃないか」
2人きりになって、ケネスはそう呟いた。
「最近、私に魔法を使わせてくれる機会が滅多になかったからな」
ヴィルザは口先をとがらせて、そう言った。
やがて睡魔がやってくる。
ヴィルザはいつものように、いつまでも話しかけてくる。魔神と睡魔のブツかり合い。寝たり起こされたりして、波に揺られながら、いつの間にか眠ってる。
と、ケネスは謝っておいた。
ロールとロビンは別の天幕で眠っている。ケネスのいる天幕には、バートリーと二人きりだった。付き人もいない。バートリーが人払いをしたのだ。
バートリーの寝室として使っている天幕のようで、木箱をつなげてつくったベッドが置かれていた。バートリーはそこに腰かけており、ケネスも別の木箱に腰かけていた。
「いえ。ケネスさまのご友人ということですから、丁重に扱わせていただきました」
「友人というか……久しぶりに会った幼馴染というか……」
それほど仲良くはないのだ。
「そうですね。彼はケネスさまのことを軽んじているようでした。それはもちろん、ケネスさまが実力を隠しになっているからでしょうけれど」
「はぁ」
と、曖昧に応じた。
実力を隠している――というふうに見られているようだ。実際には、すこし違う。ウソを吐いているような感覚になって、マトモに目を合わせられなかった。天幕の天井で、カンテラの炎が小さく揺れていた。
「心配にはおよびません。ケネスさまが実力を御隠しになっている理由は、ちゃんと把握しております」
「え!」
伏せていた面を、あわててあげた。
「ケネスさまの魔法は、あの王国6大魔術師と言われた、ゲヘナ・デリュリアスを圧倒するほどでした。それだけのチカラがあると知れ渡ると、王国軍からも狙われるでしょうし、帝国内でも引っ張りダコになるからでしょう」
「あ、ええ。まぁ」
ヴィルザのことを気取られたのかと思った。どうやら、杞憂だったらしい。
「御心配にはおよびません。ケネスさまの実力は、私とガルシアさま。それから、あの帝都での戦いを目撃していた一部の物しか知りません。もちろん公言するつもりもありません」
「それは、助かります」
「3年後……いえ。もう2年後でしたか。ガルシア長官との約束は」
「はい。ガルシアさんは?」
「ガルシア長官は帝都を空けるわけにはいきませんので。ここには、私しかおりません。申し訳ございません」
「いや。いいです」
別に会いたいわけでもない。
訊いてみただけだ。
「2年後。ケネスさまが帝国魔術部隊に加わってくださると聞いております。もしかすると、それによって、王国との戦況がいっきに傾くことになるかもしれません。実際、ゲヘナ・デリュリアスを削っただけでも、かなりの戦果です」
どうするんだよ――と、ケネスはチラリと横にいるヴィルザを見た。ヴィルザの能力が、ケネスのものだと完全に誤解されている。3年間、魔術学院で努力すると決めていた。だが、あと2年でガルシアやバートリーの求めている実力まで成長できるかは、わからない。
「戦争。今度は長くなりそうですか」
「はい。王国軍のほうから先に停戦を破ったのです。しかも帝都襲撃という大胆なやり方で、近隣諸国は帝国に好意的です。これを機にいっきに王国を叩くことになるかと思います」
「ここが戦場に?」
それがケネスの懸念だった。バートリーほどの人が来るということは、この周辺で戦があると見て間違いないのだろう。
ここはケネスの故郷だ。父がいる。母がいる。懐かしい土地がある。ロールがいて。まぁ、あいつは居ても居なくても良いけど、ロビンだっているのだ。大切なものが、いくつもある。
「戦場になると思います。国境を越えて、最初に王国軍が到着する村がここでしょうから、ここを仮拠点として制圧される怖れがあります。しかし、そう心配することもありませんね。ケネスさまがいらっしゃるのですから」
「あ……ええ。まぁ」
ヴィルザがいる。
イザというときには、またチカラを借りる必要がある。最近、ヴィルザのチカラを借りることが少なくなっていた。意識しているからというのもあるが、危機的状況に陥ることが少なくなっているから――というのもある。
「ひとつ、お願いがあるのですが」
バートリーは細い薬指で、肩メガネを縁をこすりながら、気まずそうにそう切り出してきた。
「はい?」
「《通話》つなげていただいても、よろしいでしょうか?」
《通話》をつなげるのには、魔力同士をブツける必要がある。いわば魔力による交合だ。だからかもしれないが、聞き出すのに羞恥心がある。魔法を使える男たちは、美しい女たちと《通話》をつなげようと、いつもどこかで苦心しているぐらいだ。
「いいですよ」
ケネスも《通話》ぐらいの基礎魔法は使えるようには、なっていた。けれど、ケネスの魔法でつなげると、その魔力の小ささに疑問を覚えられるだろうと判断した。ヴィルザにつなげてもらうことにした。
魔法陣を展開して、ヴィルザとバートリーの魔法がかち合った。
「はぁ……はぁ……」
魔力をつなぎ終えたとき、バートリーは肩で呼吸して、胸元をおさえつけていた。
「大丈夫ですか?」
「はい。ケネスさまの魔力と、私の魔力。たしかに、つながせていただきました。ケネスさまの魔力……浴びるだけで……これほどまでに……」
バートリーはベッドの上にコテンと転げてしまった。
「だ、大丈夫ですか!」
バートリーを気絶させたとあれば、またしても不審者扱いされかねない。あわてて抱き起した。
「だ、大丈夫です。精神刺激薬がありますので」
バートリーはそう言うと、小瓶に入った青い薬を取り出して、いっきに飲み干していた。バートリーの白い頬を、青い液体がつたいこぼれていた。精神刺激薬を飲んだことで、気を取り戻したようだった。
「すみません。強くやり過ぎたみたいで」
「いえ。構いません。しかし、それほどまでとは思いませんでした。その魔力は、ガルシア魔法長官以上です。もしかすると、8大神と言われる者たちと同等の魔力があるのかもしれませんね。まるで暴風に八つ裂きにされるかのようでした」
薬を飲んでも、バートリーの呼吸は荒く、頬を紅潮させていた。
謝って、それから二言三言かわして、ケネスも自分のために用意された天幕へと移動した。
「なにも、あそこまで強くすることないじゃないか」
2人きりになって、ケネスはそう呟いた。
「最近、私に魔法を使わせてくれる機会が滅多になかったからな」
ヴィルザは口先をとがらせて、そう言った。
やがて睡魔がやってくる。
ヴィルザはいつものように、いつまでも話しかけてくる。魔神と睡魔のブツかり合い。寝たり起こされたりして、波に揺られながら、いつの間にか眠ってる。
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